ラグジュアリーショッピングセンターのバルハーバーショップス(Bal Harbour Shops)が、バルマン(Balmain)とティファニー(Tiffany & Co.)を巡回させる。 11月、ノースカロライナ […]
ラグジュアリーショッピングセンターのバルハーバーショップス(Bal Harbour Shops)が、バルマン(Balmain)とティファニー(Tiffany & Co.)を巡回させる。
11月、ノースカロライナ州ローリーでスタートするバルハーバーショップスのアクセス・ポップアップ(Access Pop-Up)は、ラグジュアリー市場があまり開拓していない都市を8週間にわたって巡回する初のポップアップ・モールである。1月下旬にはサウスカロライナ州グリーンビルに向かい、その後フロリダ州のテクエスタとサウスウォルトン郡を回る。巡回コンテナでの販売契約を結んだ10のブランドには、バルマン、ボンポワン(Bonpoint)、ティファニー、アソリーヌ(Assouline)などがある。
ラグジュアリーの世界は進化している
「かつてはラグジュアリー商品を探し求めなければならなかった時代があった。いま、ラグジュアリー商品は身の回りにあふれており、ブランドは人々が訪れるすべての都市、人々が利用するあらゆる空港で知られるようになっている」と、バルハーバーショップスを所有するホイットマンファミリーデベロップメント(Whitman Family Development)のチーフオペレーティングオフィサー、ベンジャミン・イライアス氏は述べている。「そこで我々は、差別化を図り、引き続き(革新的な)ラグジュアリーな顧客体験を開発していく方法を検討してきた」。
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ラグジュアリーの世界はたしかに進化し、一流ブランドが現れる場の価値が薄れてきている。eコマースの台頭で加速度的に変化しており、また再販もひと役買っていることは疑う余地もない。エルメス(Hermès)やシャネル(Chanel)といったブランドは、自分たちのスタイルがセンチュリー21(Century 21)などのオフプライスの小売店やAmazonで販売されているのを目にすることに慣れなければならなくなった。そのため、多くのブランドがブランド公式の再販サービスやマーケットプレイスのストアフロントをローンチし、自らのイメージや販売をコントロールしようと躍起になっている。同時にそのマーケティング戦略には、ブランドストーリーを伝えることを委託されたインフルエンサーが含まれるようになった。また、バルハーバーのアクセス・ポップアップに参加するいくつかのブランドでは、ショッピングセンターが雇用した臨時従業員を通じて販売を行うようになっている。
ホワイトスペースに進出するバルハーバーショップス
創業58年のバルハーバーショップスは、価値あるチャンスを切り拓き、貴重なホワイトスペースに進出することを習慣としてきた。ホイットマンファミリーデベロップメントのマーケティング責任者、キャロリン・トラヴィス氏が指摘するように、同社はアパレルに特化した初のラグジュアリーセンターであり、ダラス以外の場所に初めてニーマン・マーカス(Neiman Marcus)を誘致している。Covid半ばの移住に後押しされてマイアミの小売市場がますます活況となる中、バルハーバーショップスは個性的なブランドクリエーションにとどまらず、提供する体験をさらにレベルアップさせている。トラヴィス氏は、この屋外モールの現在の状況を、感情的なつながりを呼び起こすように設計された、ヤシの木や鯉のいる「ボタニカルガーデン」と定義している。
もっとも重要なのは、アクセス・ポップアップの訪問者に同等の体験を提供することだとトラヴィス氏は言う。それを実現するため、1万7000平方フィート(約1579平方メートル)のスペースには、広大な美しい中庭や150人まで収容可能な高級レストランなどの特徴が備わっている。
主要な観光地を意図的に避けて巡回
イライアス氏によると、バルハーバーショップスでは戦略的アプローチに従って、今回の巡回先に関してはラグジュアリーブランドのポップアップが押し寄せている主要な観光地を意図的に避けているという。その代わり、あまり目立たない市場のピーク時に焦点を当てている。今後のツアーで訪問が検討されている都市としては、カンザスシティ、ルイヴィル、アラバマ州モンゴメリー(アリゾナ州)などがある。
「米国南東部や中部には裕福な地域があり、贅沢な体験をしたい人たちがいるが、そうした人たちが体験を得るには旅行をしなくてはならない」とイライアス氏は述べた。
ブランドも同じことに気づきつつあり、それがスコッツデール、ナッシュビル、オースティンといった都市に出店する傾向を引き起こしている。同時に、二次市場の小売業者や専門企業はブランドと提携する新たな機会を利用している。セントルイスを拠点とするトランクショー会社のマーチメイツ(Merch Mates)は、9月にケイト(Khaite)を扱い、南部の小売業者トッツィーズ(Tootsie’s)は、ニューヨークを拠点とするKZ_Kスタジオ(KZ_K Studio)などのブランドをローテーションして店内ポップアップのラインナップを展開している。
ポップアップのKPIは、新規会員獲得が中心
バルハーバーにとって、今回のツアーは、今後の発展のために新規市場をテストするというポップアップにありがちな手段ではない。それどころか、同社がB2Cサイドのビジネス構築に取り組んでいる時期におけるブランディングを目的としている。2021年には同社はオンラインマーケットプレイスを立ち上げ、10月には自社ブランドの商品ラインをローンチした。そのほかの最近の動きとしては、トラヴィス氏によれば、デジタルコンテンツへの取り組みを合理化して「顧客が敷地内にいないときも顧客とのつながりを促進する」ために、社名を冠した印刷刊行物を社内で運営するようになったことが挙げられる。現地で配布されたり、上得意客(ほとんどがマイアミ在住ではない)に郵送されたりする雑誌の号数が、来年には2号から3号に増える。さらにバルハーバーショップスは、編集記事を中心としたeニュースレターの制作を従来の100本から年間約125本に増やす予定だ。
アクセス・ポップアップという名称が示すように、このポップアップはバルハーバーショップスのアクセス会員と特典プログラムのプロモーションを目的としている。2020年にローンチしたそのプログラムは、「限定サービス、オーダーメイドの特典、特別なラグジュアリー体験」を約束する。ポップアップのKPIは新規会員獲得が中心だとイライアス氏は言う。
「(新規会員が)我々のeコマースチャネルを訪れたり、パーソナルショッパーとつながったり、マイアミにいるときに実店舗を訪れたりするのかどうか、登録会員に継続性があるかをみていきたい」とイライアス氏は述べ、アプリベースのプログラムの匿名追跡機能について触れた。「誰がどのように顧客であるかというのはもはや重要ではない。人々が実際に我々の顧客になることだけが重要なのだ」。
モジュール店舗を巡回させるプロジェクト
イライアス氏が指摘したように、巡回型の多店舗ポップアップは「移動するのに安くはない」。実際、このプロジェクトを監督するためにひとつのチーム全体が雇われている。そこにはフルタイムのGM、アシスタントGM、オペレーションディレクターのほか、「ロジスティクス担当者」、クレーンオペレーター、トラック運転手も含まれているという。さらに、各都市では地元の人材派遣会社の協力を得て20~30人のパートタイムの販売員が働くことになる。
計画の初期段階では、ゼロから何度も経験を作り直すのではなく、既存の小売スペースに出店することも検討したとイライアス氏は語った。だが最終的には、「他人の不動産を改良するために、あらゆる類の資金を費やすのはやめようと決断した」。
各開催場所には、250平方フィート(約23平方メートル)から640平方フィート(約59平方メートル)の「モジュール」と呼ばれる店舗が10〜20店舗設置される。そして各店舗に、現在バルハーバーショップスで販売されている100ブランドのテナントのうちのひとつが入居する。イライアス氏は、バルハーバーショップスとこのプロジェクトに参加するブランドとの間で交わした金額については明言せず、ブランドがモールの賃貸スペースに支払う通常の設定に比べると「パートナーシップに近い」と述べるにとどまった。
顧客とダイレクトにつながる試み
「マイアミでは、我々は小売業者と1対1で関わっている。だがこの(シナリオでは)、我々は顧客と直接関わっている」とイライアス氏は述べた。
このポップアップを宣伝するために、バルハーバーショップスはメンバーシッププログラムから地元のアンバサダーを選出、また地元のチャリティ団体の創設メンバーとも連携してイベントを主催し、情報を広めていく予定だ。
「ブランドとその製品がさらに入手しやすくなりつつある時代に、我々は自分たちの周りの(業界の)拡大を黙って見ているのではなく、商圏を拡大している」とイライアス氏は言う。「店舗を訪れてくれる顧客を喜ばせたいし、顧客がここにいない間にも顧客とつながりたい。バルハーバーショップスの存在すら知らなかった顧客とつながりたいと思っている」。
クライアンテリングの責任者はブランドエージェンシーの新たな役割
ニューヨークのコンサルタント会社ローリンジョセフ(Loughlin Joseph)は、CDLPやル・ペール(Le Père)といったファッションブランドのコマーシャルディレクション、メディアリレーション、クリエイティブを専門としている。11月上旬、同社はクライアンテリングとリテール・インフラストラクチャー部門をローンチ、元エッセンスUSA(Ssense USA)のパーソナルショッピング責任者カーリン・ローレンハーゲン氏をクライアンテリング責任者に任命したと発表した。Glossyはローレンハーゲン氏に、仕事の内容や今日のラグジュアリー消費者を獲得するために必要なことなどに関する5つの質問を行った。
ーーどのような顧客データをどういった方法でもっとも活用しているか?
「顧客データとその収集方法は企業やチャネルによって異なる。だがいちばん重要なのは、質的データと量的データをバランスよく扱うこと、そして具体的で実行可能な戦略に反映させるために、そのデータをどう解釈し、評価するのかを知ることだ。顧客セグメントの特定から始めるのが重要であり、そのセグメントは微妙に異なっていたり、混じり合っていたり、また重複していたりする可能性がある。これはふたつのブランドで同じになることは決してない。いったんこれが明確になれば、購買行動を理解し始めることが可能となる。最終的には、顧客がどのように、なぜ、いつ買い物をするのかを知る必要があり、そうすればそれを活用して関係を強化しながら持続可能な長期的成長を図ることができる」。
ーー今日、店員はどの程度ブランドの成功のカギを握っているか?
「小売担当者はブランドの基盤であり、フィードバックや意見を顧客から直接聞いているもっとも貴重なリソースだ。担当者はブランドの顔であるだけでなく、(顧客の)第一印象の15秒に凝縮される積極的なブランドの観点でもある。よく考えられているチームは、日常的なブランド文化を代表している。我々はそれを単なる取引やコミッションベースのもの以上の何かだと考えているし、またそれはキュレーター的で体験的なものでもある」。
ーーあなたの基準からすると、成功する従業員を採用して維持する上で重要なことは何か?
「今は消費主義において非常に興味深い時代だ。ソーシャルメディアや複数のショッピングプラットフォーム、チャネルにアクセスでき、かつてないほど期待が高まっているため、(店員の)採用に関しては、単に『売り手』やカリスマ性を求めるような一面的な形ではできない。ひとつのチームは一体感のあるダイナミックなペルソナを持ち、深い知性を有し、統一されたセレモニーを提示しなくてはならない。多くのブランドや小売業者が一貫したビジネスを維持して成長させるには、経験豊富な人材を確保することがカギとなる。我々は、ソーシャルメディアの新たなトレンドや市場環境、競合他社の分析など、マクロ的な影響と組み合わせて、没頭できるトレーニングを好んで行っている。人を教育し、鼓舞し、売上へとつなげていくには、トレーニングはわかりやすく親しみやすいものでなくてはならない」。
ーーブランドにとって支出に見合うだけの価値あるサービスを店舗が提供するには、どのような能力や機能が求められるか?
「小売予算を最大限に活用し、持続可能な成長を促進するには、店舗(やeコマースサイト)を訪れるすべての客に対する一貫した、より高いサービスベースのレベルが求められる。理想的には、店舗とeコマースサイトというふたつのチャネルは調和していることが望ましい。しかしながら、ブランドが技術や人的プロセスへの投資を省いている状況を目にしている。我々がヒントを得ているのはホスピタリティの分野だ。レストランで受けたすばらしいサービスを思い出す。そこでは給仕が過去に私が店を訪れた時のことを思い返しながら『前回お召し上がりになったマルベックなどはいかがですか?』と話しかけてくる。我々はファッション小売にも、そのような鋭い感覚を反映させたいと考えている」。
ーーいま、ラグジュアリー消費者を保持するには何が必要か?
「感情的なレベルでは、顧客が特別な気持ちになるようにすることが重要だ。デジタルであろうと対面であろうと、客との対話は信頼のおけるパーソナルなものでなくてはならないし、基本的にボットであってはならない。明確な目的とともに適切にコンタクトしなくてはならず、画一的な対応ではダメだ。真のつながり、気楽さ、楽しい要素、洗練されたサービスは大いに効果がある。ただし時には、シンプルに『お元気ですか?』と尋ねるだけで、あとは自然にうまくいくこともある」。
[原文:Luxury Briefing: A touring shopping center is bringing Tiffany & Co. to luxury-deprived cities]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)