ラグジュアリーブランドが、スポーツスポンサーシップの世界での役割を増しつつある。
プラダ(Prada)は7月、この夏のFIFA(国際サッカー連盟)女子ワールドカップで、中国の女子サッカーチームとのパートナーシップを発表した。サッカーを着想源とするライフスタイルブランドのエイブルメイド(Able Made)は、ラグジュアリーファッションハウスのバーバリー(Burberry)と提携し、バーバリーの布地を再利用したサッカー用アパレルのコレクションを発表した。一方、ラグジュアリー複合企業のLVMHはつい最近、来年仏パリで開催されるオリンピックのスポンサーになることを発表した。
ナイキ(Nike)やアディダス(Adidas)のようなアスレチックブランドは、小売ブランドとして長年にわたってスポーツ分野を独占してきた。しかしいま、ラグジュアリーブランドが、収益性の高いスポーツ市場の一角を狙っているようだ。ラグジュアリーブランドと従来型のアスレチックブランドは同じ市場で共存できるが、ラグジュアリーブランドは市場シェアを奪うチャンスもあると専門家は語る。
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
ラグジュアリーブランドが、スポーツスポンサーシップの世界での役割を増しつつある。
プラダ(Prada)は7月、この夏のFIFA(国際サッカー連盟)女子ワールドカップで、中国の女子サッカーチームとのパートナーシップを発表した。サッカーを着想源とするライフスタイルブランドのエイブルメイド(Able Made)は、ラグジュアリーファッションハウスのバーバリー(Burberry)と提携し、バーバリーの布地を再利用したサッカー用アパレルのコレクションを発表した。一方、ラグジュアリー複合企業のLVMHはつい最近、来年仏パリで開催されるオリンピックのスポンサーになることを発表した。
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ナイキ(Nike)やアディダス(Adidas)のようなアスレチックブランドは、小売ブランドとして長年にわたってスポーツ分野を独占してきた。しかしいま、ラグジュアリーブランドが、収益性の高いスポーツ市場の一角を狙っているようだ。ラグジュアリーブランドと従来型のアスレチックブランドは同じ市場で共存できるが、ラグジュアリーブランドは市場シェアを奪うチャンスもあると専門家は語る。
スポーツ界で存在感を示す意義
小売コンサルタント企業のスパーウィンクリバー(Spurwink River)でアドバイザーを務めるマット・パウエル氏は次のように述べる。「これは、スポーツが今日の世界の小売にとっていかに重要かを示している。スポーツは、メディアの注目度も高く、消費者の個人的な関心も高い。そのため、その関心の高さを利用して、そのような人々に自社ブランドを紹介するチャンスがあるという認識が生まれてきた」。
実際にこうした試合、特にメジャーなスポーツイベントは、多くの視聴者を獲得している。たとえばユーロモニターインターナショナル(Euromonitor International)は、2023年の女子ワールドカップは、2019年の2倍となる20億人が観戦すると予測している。
パウエル氏は、ラグジュアリーブランドがスポーツ界で存在感を増すことで、国際的な注目を集めることになり、それが特定の市場をターゲティングする場合に有益であるという。プラダは何年にもわたり、多くのラグジュアリーブランドが成功している中国でのビジネスにおいて、ポップアップ店舗を開いたり、中国の女優をアンバサダーに起用するなどして、成長させようとしてきた。イタリアのファッションブランドである同社が中国のサッカーチームとのパートナーシップを発表したとき、テーラードスーツを着たチームメンバーが登場する投稿は、マイクロブログサイトのウェイボー(Weibo)で3億回以上も再生された。
LVMHはパリ・オリンピックのスポンサーに
LVMHがスポンサーを務める2024年のパリ・オリンピックが、世界的な視聴率を獲得するのは驚くに当たらない。このイベントはこれまでパリで開催されたイベントのなかで最大のものになり、観客は970万人にのぼると予測だと報道されている。LVMH傘下の高級宝飾品・時計ブランドのショーメ(Chaumet)がメダルをデザインし、飲食サービスにはモエヘネシー(Moët Hennessy)のワインとスピリッツが使用される。同社はフランス人水泳選手のレオン・マルシャン氏のような特定のアスリートのスポンサーにもなっている。LVMHの新規パートナーシップとは対照的に、ナイキは2005年以来米国のオリンピック委員会と提携してきた。
ラグジュアリーブランドがスポーツに足を踏み入れようとしているとはいえ、パウエル氏はこれらのブランドが競技用のパフォーマンスアパレルをリリースするとは予測していない。「ラグジュアリーブランドがパフォーマンスの側で競争するようになるとは思わない。これらのブランドは確実に、マインドシェアの部分で争うことになるだろう。こちらの方がブランドにとっては重要だ」と同氏は述べる。
ラグジュアリーブランドが独自のスパイクシューズやドライフィットシャツをリリースする可能性が低いことは、専門家も合意しているが、これらのブランドには競技場以外の場所でアスリートと協力するチャンスはある。エイブルメイドがバーバリーとのパートナーシップにより最近発売したコレクションは、パーカーや、トラックスーツ、ジャケットなど、ナイキやアディダスが得意とするアスレジャー用ウェアでもある。
若年層の顧客開拓の可能性
「アスレジャーはこの数年間で高級化した」と、ガートナー(Gartner)のディレクターアナリストを務めるマット・ムーラット氏は述べる。「これには、ラグジュアリーブランドが若い層のために自分たちのポジショニングを変えようとする実験という側面は間違いなくあるだろう」。
競技以外でも、ラグジュアリーブランドは毎年のNBAドラフトのようなスポーツ関連イベントで、アスリートと仕事をするチャンスがある。スーツブランドのインドシノ(Indochino)のCEOを務めるドリュー・グリーン氏は、同イベントで9人のアスリートにウェアを提供したと米グロッシー(Glossy)に語った。グッチ(Gucci)やドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)などのブランドも、ドラフト期間に存在感を発揮している。
しかし、スポーツ分野に参入するのは簡単なことではない。従来のアスレチックブランドとは異なり、ラグジュアリーブランドにはもっともポテンシャルが高いアスリートや、チームを見分けるための経験やデータが欠けているかもしれないと、専門家は語る。個人ではなくチームや組織のスポンサーになることで、ラグジュアリーブランドは自社の価値と一致しない人々に自分たちを合わせてしまうリスクもある。
「チームでは、多くの人々が関与するため、それが少し難しくなる。アンバサダーがどのように振る舞うかを常にコントロールできるとは限らず、それ自体がリスクとなる」とムーラット氏は述べる。
しかし、スポーツによって若い層の顧客を新たに得られる可能性は、ブランドにとって見過ごせないものだと専門家は語る。「数年前にスニーカー分野へ参入するラグジュアリーブランドが増えたのと同じことが、スポーツ分野でも起きると思う」と、スパーウィンクリバーのパウエル氏は述べた。
[原文:Luxury brands like Prada and Burberry are stepping into the sports arena]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)