広告が大々的に「乗っ取る」ような形で、店頭の姿を変える屋外広告キャンペーンを、「店頭テイクオーバー(storefront takeover)」と呼ぶ。4月にニューヨーク市内を歩いていた地元の人々や観光客は、多数のラグジュアリーブランドの店頭テイクオーバーを目にした。
広告が大々的に「乗っ取る」ような形で、店頭の姿を変える屋外広告キャンペーンを、「店頭テイクオーバー(storefront takeover)」と呼ぶ。4月にニューヨーク市内を歩いていた地元の人々や観光客は、多数のラグジュアリーブランドの店頭テイクオーバーを目にした。
ワクチン接種が増加し、暖かい気候がやってくるなかで、消費者が外に出て歩きたいことをブランドはわかっている。なかでもソーホー、ノリータ、マディソンアベニューといったニューヨーク屈指のファッションエリアが、回復しつつある人出の人気スポットになっている。
小売業界分析プラットフォームのプレイサー.エーアイ(Placer.ai)によると、3月末時点でニューヨーク市の小売における客足のトラフィックは前年同期比でわずか2%の減少にとどまっており、その後は4月末まで横ばいだったという。これはパンデミックが始まって以来、パンデミック前の水準にもっとも近い記録となっている。
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ラグジュアリーブランドの最新トレンド
こうしたなか、ティファニー(Tiffany)、ディオール(Dior)、デヴィッド・ヤーマン(David Yurman)といったブランドは、ラグジュアリーマーケティングの最新トレンドとなった店頭テイクオーバーを早速展開している。この屋外広告は、人通りが増加したことを活用して、顧客に再び店内で買い物をするよう促すためのものだ。
このトレンドに乗った最近の例が、ディオールと高級百貨店サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)によるものだ。5月13日、ディオールの2021年秋冬コレクションにインスピレーションを与えたビジュアルアーティストのマルコ・ロドラ氏が、サックス・フィフス・アベニューの店頭テイクオーバーを行った。5月26日まで、店舗の道路に面した10数個のショーウィンドウのうち6個にロドラ氏の作品とディオールで着飾られたマネキンが飾られ、店内の5つのスペースがディオールのコレクションのデザインに合うように再編成された。
これは、サックスの旗艦店の店頭をひとりのデザイナーに任せた初めてのケースだった。
百貨店にとっても意味あるキャンペーン
サックスは、実店舗がマーケティングにとって非常に貴重な資産だと考えている。それは貴重なトップオブファネルマーケティングの機会だ。完全に人出が回復したわけではない現在ですら、毎日約30万人が歩いて通り過ぎるため、店頭テイクオーバーが人目に付く可能性は高い。もちろん、そのための準備は容易ではなく、通常サックスがパートナーを組んで店頭テイクオーバーをおこなう場合、規模に応じて、2カ月以上かかる。
小売業者の同社にとっては、百貨店の売り上げが業界全体で落ち込んでいるときに、ブランドたちにアプローチしてもらうための手段でもある。同社は過去2年間で、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)のようなライバルたちよりもはるかに成功している(CEOのマーク・メトリック氏によると、売上は2020年末までに一桁%台の増加を見せた)が、一方でパンデミックの最中に多くのブランドが消費者に直接販売することに方向転換したという事実に対処する必要がある。しかし、店頭を駆使した屋外広告はブランドが持っていない、サックスだからこそ提供できるものだ。
同社の最高マーチャンダイジング責任者のトレイシー・マーゴリーズ氏は、店頭テイクオーバーは「ユニークなショッピング体験を提供する」、クライアントのための独特で強力なマーケティングオプションの一部であると述べた。
「消費者の心に響くアプローチ」
ディオール以外のほかのブランドたちも今月、派手な屋外広告の恩恵を受けた。
5月11日、ティファニーは57丁目の旗艦店の前面を、同ブランドのストリートラインであるティファニー・ハードウェア(Tiffany HardWear)の新作コレクションイメージで覆った。建物の10階分、約50メートルを覆う広告ディスプレイは、ブランド史上最大の広告だ。
マーケティング・プラットフォームのレヴトラックス(RevTrax)の共同創設者でCEOのジョナサン・トライバー氏は、「ラグジュアリーブランドは、パンデミックの最中に自社ブランドを売り込むための体験的な方法を見つけるのに苦労しており、有名な建物をブランディングで包む戦略は、この規模(サックスにおけるディオールの店頭テイクオーバー)ではないものの、しばらくのあいだ流行している」と述べた。
「広告やマーケティングの世界であらゆることが不確定に見えるなかで、店頭テイクオーバーはユニークなものとして消費者の心に響く、異なるアプローチのようだ。また、空室が多く賃貸料が急落している環境で、商業用不動産の所有者が追加収入を得たり、不動産のPRを行ったりするための革新的な方法となる可能性もある」。
[原文:Luxury brands are taking over New York storefronts to encourage retail foot traffic]
DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)