以前から広告主のあいだでは、マス一辺倒のコミュニケーションを脱し、メディアを分散化させることの重要性が叫ばれてきた。昨今のコロナ禍は、その流れを加速させている。総合菓子メーカー、ロッテのクーリッシュチームの取り組みから、その潮流を読み解く。
以前から広告主のあいだでは、マス一辺倒のコミュニケーションを脱し、メディアを分散化させることの重要性が叫ばれてきた。昨今のコロナ禍は、その流れを加速させている。
総合菓子メーカーのロッテはこれまで、マス広告に重点を置いた施策を行ってきた。たとえば、2004年に全国販売を開始した同社の目玉商品のひとつ、「クーリッシュ(Coolish)」に関しても、毎年気温が高くなる春夏には、相当規模のテレビCMを出稿してきた。
しかし、ロッテでブランド戦略担当 クーリッシュブランド課 課長を務める北村考志氏は、「ある調査を実施したところ、我々のテレビCMが若年層にほとんど見られていないことがわかった。そのためメインターゲットである10代〜20代のマインドシェア、つまり想起率の向上が必要だった」と語る。また、こうした課題に加えコロナ禍によるオンライントラフィックの上昇、そしてイベントなどのリアルな場でのプロモーションが困難になったことから、同社では現在、SNSでのコミュニケーションを強化している。
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密なコミュニケーションを
北村氏が語るように、生活者のメディア環境が多様化するいま、旧来のマス一辺倒な施策では十分なコミュニケーションを実現するのは難しい。そこで、ロッテのクーリッシュチームがまず注力しはじめたのは、TwitterとYouTube。なかでもTwitter(@lotte_coolish)は、スピーディな改善と顧客との密なコミュニケーションが実現できることから、より力を入れているという。「アイスといえばクーリッシュということを想起させ、実際に手に取ってもらえるようなコミュニケーションを目指している」。
そんななか、昨今のコロナ禍も同社のSNS活用に拍車をかけた。ロッテのクーリッシュチームでは当初、スポーツイベントや音楽フェスへなど、リアルなブランド体験の提供を目指した施策を予定していたが、コロナ禍の影響で実施不可能になってしまったのだ。そこで同チームは、リソースをSNSにおけるコミュニケーションに投下。直近では、インスタグラム(@lotte_coolish)の運用も開始しているという。
「Twitterとインスタグラム、それぞれどのような企画が反応が良いかわかってきた。たとえば、Twitterでは『青春』といったキーワードや『面白系』、インスタグラムでは、女性向けの企画がウケが良い」。
クーリッシュを飲む時、つい中身をぎゅーっと押し出してどこまで伸びるかやってしまう。
そして、この伸びたクーリッシュをパクっと食べることで、一気にいっぱい口の中に入れられるから得した気分になります( '༥' )ŧ‹”ŧ‹”#クーリッシュあるある pic.twitter.com/Xiv9VivSg1
— ロッテ クーリッシュ (@lotte_coolish) August 29, 2020
クリエイターとのタイアップも
また、ロッテのクーリッシュチームは、クリエイターとのタイアップキャンペーンも積極的に実施している。いうまでもないが、こうした取り組み自体は何も新しい手法ではない。しかし北村氏は「10代、20代に共感を得るためには、クリエイティブの重要性を感じていた。そこで、当事者である若い世代から支持されているクリエイターの力を借りて、ユーザーの反応を見てみようと考えた」と語る。
では、具体的にどのような施策を実施したのか。「クーリッシュのTwitterフォロワーは、若年層の割合が高いことがわかっていた」。こう語るのは、テテマーチ株式会社の執行役員で、パートナーとして一連のキャンペーンを担当した三島悠太氏だ。テテマーチは現在、クーリッシュのSNSコミュニケーションの戦略立案から実施までを支援している。2020年6月に同社が立ち上げたSocial Contents Studio「餅屋」には、SNSで人気のクリエイターが多数所属。クリエイターが企画から入り、広告主のコンテンツ制作から携わる新しいプロジェクトとなっている。
「北村さんからも『青春というキーワードが刺さりそう』というご意見があったので、情緒的なコンテンツで人気のあるクリエイター、青春botさん(@seisyunbotdesu)に、『クーリッシュとの思い出』というテーマでコンテンツ制作を依頼した」。
みなさんは、#クーリッシュとの思い出 はありますか?🌸
楽しかったあの日、悲しかったあの時、好きだったあの人、いつもクーリッシュがそこにあった。
記念すべき第一弾は、中高生に大人気のクリエイター #青春bot さん(@seisyunbotdesu)に素敵な「思い出」作品をつくっていただきました。 pic.twitter.com/NGNj6Zc5YR
— ロッテ クーリッシュ (@lotte_coolish) April 29, 2020
同コンテンツは、4月29日にクーリッシュ公式アカウントで投稿された。エンゲージメント率は、同アカウントにおける月間平均の2.4倍を記録したという。
またこの6月には、新商品である「クーリッシュ フローズン白桃」の発売に合わせて、エモーショナルな写真で人気のある、わたらいももすけ氏(@momosuke_art)とのタイアップキャンペーンを実施。特定のハッシュタグでツイートすると、わたらい氏の作品が送られてくるという企画だ。すると、エンゲージメント率をはじめ、わたらい氏のツイート経由で新商品のことを知ったというユーザーが多数見られたという。なお、ロッテのクーリッシュチームはそのほかにも、クリエイターとのキャンペーンを複数実施している。
尖った部分を活かす
北村氏は、これらのキャンペーンを実施する上で「クリエイターの創造力を活かす」ことを大事にしたと語る。「Twitterは、必ずしも万人受けするものを狙う必要がない。それゆえ、クリエイターの尖った部分を活かして、いろいろな切り口を展開することができた」。
これに対し三島氏は「クリエイター起点で、企画立案やコンテンツ制作を進めることができた。これは、クライアントの理解があるからできること」と述べる。同氏によると、クリエイターへの依頼は通常、企画内容がすでに固まっている状態で行うものだという。しかし今回のキャンペーンに関しては、『クーリッシュ』のアカウントで実施したいことを、クリエイターとすり合わせるところからはじめた。
北村氏は「ユーザーがはっとするような投稿で、継続的なコミュニケーションを取ることが、エンゲージメント向上につながると考えている」と語る。
マス一辺倒を脱する
リアルタイムでターゲットの反応を細かく確認しつつ、スピーディな改善を実施するなど、顧客との密なコミュニケーションができる点はSNSの強みといえるだろう。
だが一方で、SNSを活用したマーケティング施策は、評価が「いいね」やリツイートなどの数値だけで判断されることが多いのも事実。その点について、北村氏は次のように話す。「本来であれば、SNSでクーリッシュに触れたユーザーが日常的に投稿を見るようになり、そして実際に購入して、自分でもクーリッシュについての投稿をはじめるほどの関係性を構築するのが、本当のゴールだ」。
最後に北村氏は次のように締めくくる。「SNSで成功したクリエイティブの要素を、マス広告に活かすことも考えている。これまでのマス広告一辺倒のプロモーションではなく、今後もSNSをひとつの重要なメディアと捉え、活用していきたい」。
Written by 滝口雅志、村上莞
Image by @lotte_coolish(Twitter)