ロレアル・パリは12月13日、NFTの暗号芸術の世界へと飛び込んだ。この分野に進出するにあたっては、同社の慈善活動が原動力となっている。今回、アンバー・ヴィットリア氏、アリーナBB氏、ヒューマン氏、リリー・タエ氏、パックス氏という5人の女性アーティストにNFTアートの制作を依頼した。
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ロレアル・パリ(L’Oréal Paris)は12月13日、NFTの暗号芸術の世界へと飛び込んだ。この分野に進出するにあたっては、同社の慈善活動が原動力となっている。
NFTアート市場への女性アーティストの進出を支援
ロレアル・パリは、アンバー・ヴィットリア氏、アリーナBB氏、ヒューマン氏、リリー・タエ氏、パックス氏という5人の女性アーティストにNFTアートの制作を依頼した。作品は、11月に発売されたロレアル・パリの新しいリップスティックのシリーズとなるレッズ・オブ・ワース・バイ・カラー・リッシュ(Reds of Worth by Colour Riche)の赤いシェードからインスピレーションを得て制作された。オークションは12月13日から16日まで、NFTオークションサイトのオープンシー(OpenSea)で開催された。ロレアル・パリは、NFTにアプローチすることで、NFT空間に進出している女性が少ないことに注意を喚起したいとしている。アート市場分析会社のアートタクティック(ArtTactic)の11月のレポートによると、NFTアート市場における女性アーティストの割合は16%に満たず、NFTの売上に占める割合はわずか5%となっている。
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「私たちは、規模の大小を問わず、影響を与えることができるスペースを特定し、私たちの価値観で導いていくことが重要だと感じている」と話すのは、ロレアル・パリのマーケティング・シニアバイスプレジデントのモード・ブランシュウィッグ氏だ。「私たちは、ほかの(男性が支配する)分野の代わりにNFT(だけ)を考えているのではない。ロレアル・パリが、美と価値からインスピレーションを得た新たな技術を消費者に提供しつつ、称賛されるべき価値ある女性たちを高める手助けができると考えた、ひとつのホワイトスペースの機会に過ぎない」。
アーティストは一次売上の100%を手にする。一方、ロイヤリティとして考慮される二次市場での売上の50%は、ロレアルの慈善活動である「Women of Worth(ウィメン・オブ・ワース)」に1年間寄付される。したがってアーティストは、作品が最初の取引を終えてからも、認知度と収入を得ることができる。各NFTの開始価格は1500ドル(約17万円)。NFTのオークション終了と同時に「Women of Worth」の授賞式がNBCで1時間にわたって放送される。
ビューティブランドが率いるNFTが増えている
12月にチャリティのNFTアートキャンペーンをローンチしたクリエイティブエージェンシーのカルト(Cult)の共同設立者でチーフクリエイティブオフィサーのキャット・ターナー氏は、「NFTは、多様な形態を取ることができるという意味で、あらゆる種類のクリエイターがよりアクセスしやすくなるよう門戸を開いている」と話す。「そのよい例が、最近NFTに進出したナーズ(NARS)だ。同社の有名な製品ラインであるオーガズム(Orgasm)を解釈した3度目のリリースは、DJでプロデューサーのニーナ・クラヴィッツ氏が制作したものだった。NFTがますます主流へと移行していくにつれて、より多くの女性がNFTの制作や投資の機会を手にすることができれば、プラスの方向に向かって進化し続けるだろう」。
アンバー・ヴィットリア氏によるNFTアートデザイン
この半年で、ナーズ以外にもビューティブランドが率いるNFTがいくつも制作されている。クリニーク(Clinique)、シアテ ロンドン(Ciaté London)、E.l.f.コスメティクス(E.l.f. Cosmetics)、パルファム・ジバンシイ(Givenchy Parfum)、オーストラリアのスキンケアブランドのサニースキン(Sunny Skin)などが、さまざまな方法でアプローチしながらNFTを発表している。
クリニークの場合、NFTキャンペーンを自社のロイヤルティプログラムメンバーと結びつけた。ロイヤルティ会員はインスタグラム、Tiktok、Twitterで「楽観的な物語」を共有すると、3種類のエディションのNFTアートのうち1点と10年間無料の製品を獲得する機会にエントリーできる。シアテ・ロンドンとE.l.f.コスメティクスは、シアテ・ロンドンのクリスティン・クイン(Christine Quinn)コレクションのように、商品と直接結びついたNFTを販売した。パルファムジバンシイはチャリティ的なアプローチを取っており、ロンドンのギャラリーオーナーであるアマール・シン氏やアーティストのリワインド・コレクティブ(Rewind Collective)と提携してNFTの制作・販売を行っている。売上はLGBTQの若者のための非営利団体であるル・マグ・ジュネス(Le MAG Jeunes)に寄付された。サニースキンのNFTシリーズは「Australian Angels(オーストラリアの天使)」という名称で、コアラなどオーストラリア固有の動物をモチーフにしている。このNFTのオーナーは、サニースキンのブランドに関連した特別な機能を利用できる予定だが、そのほかの詳細については明らかにされていない。
ロレアルの最終的な目標は女性たちのエンパワーメント
ブランシュウィッグ氏いわく、ロレアル・パリは自社のソーシャルチャンネル、オウンドプラットフォーム、インフルエンサーネットワークを利用してこのニュースを広め、最終的にオークションへと誘導する。また12月14日にはTwitterのスペースにて、参加アーティストがオープンシーやユナイテッドタレントエージェンシー(United Talent Agency)、ロレアルと対談を行う。これはオークションの認知度をさらに高め、作品やこのプログラムのインスピレーション、NFT空間における女性アーティストとしての経験についてなどをより詳しく共有することを意図している。
「NFTコミュニティに参加して学んだことは、自分の作品こそ重要だということ。より大きな世界に身を置くことにおじけづく人もいるかもしれないが、世界中の本当に多くのアーティスト仲間やサポーターたちからに励まされたし、明るい気分になった」と、参加アーティストのリリー・タエ氏は言う。「このプロジェクトは、自分の作品を通じて自信を呼び起こす機会だ。自信を持つことがいかに自分の価値の向上につながるか、そして赤という色がいかにしてそれを達成するための刺激となるかを伝えたい」。
ブランシュウィッグ氏も次のように述べている。「私たちの最終的な目標は、若い女性アーティストや新進気鋭の女性アーティストに、この空間で女性が手がけているすばらしい作品——ほかの方法では本来あるべき注目を得られなかったかもしれない作品——を見てもらうこと。そして彼女たちに野望を実現する力を与えたい。(ロレアル・パリの)デジタルにおける次の展開に関しては、常に消費者である女性に耳を傾け、ヒントを得ている。女性たちがメイクをしたり、メイクで遊んで時間を過ごしていたりするなら、まさにそんな彼女たちのいる場所に届くようにすることに興味がある」。
[原文:L’Oréal Paris enters NFT space to support Women of Worth philanthropy]
EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)