現在ロレアルが取り組むプロジェクトのひとつが「オーダーメイドのメイクアップ」だ。すでに一部は同社のD2Cサービスとして提供される予定となっている。「自宅でもサロン同様のサービスを受けたいというニーズが増えており、ロレアルのD2C事業と方向性と一致する」と語るのがバイスプレジデントを務めるギブ・バルーク氏だ。
「ビスポーク・ビューティ・フォーミュレーション(Bespoke beauty formulations:カスタムメイドの美容製品)」。このまるでSFのような化粧品革命に、現在ロレアル(L’Oréal)が取り組んでいる。そしていつか、それが現実に商品化され、人々の目に触れる日が来るかもしれない。
ロレアルのようなブランドが「SF」に着目した背景には、今や当たり前になっている在宅勤務やリモート授業がある。「今の時代、やはり自宅でリラックスしていても身だしなみをきちんと見せることのニーズが増えており、奇しくもそれは当社が取り組んでいるD2C事業と方向性と一致する」。そう語るのが、ロレアルでグローバルテクノロジー担当バイスプレジデントを務めるギブ・バルーク氏だ。
セルフメイク向けサービスでは当然ながら限界があり、プロのような仕上がりにはなかなかならない。しかし一方でそれは、ブランドにとって消費者との直接的な関係構築が可能となるチャンスでもある。
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「デジタル技術を活用し、自宅で受けられる優れたサービスの需要が増えている」とバルーク氏は語る。「そして今や自宅にいながら、予想以上にきめ細やかで満足度の高いサービスを受けられるということが、ようやく認知されてきた」。
スマートデバイスの販売に着手
ロレアルは、在宅で利用できる美容サービスをふたつ、2021年中に立ち上げる予定だ。これまで、同社のテクノロジーインキュベーターチームは、1年に1アイテムのペースで製品を発売してきた。
しかし、今年に限っては年始早々から第1弾として環境に配慮したヘアケアアイテム、「ロレアル・ウォーター・セイバー(L’Oréal Water Saver)」を発売。すでに確定している第2弾が、AIを駆使して各ユーザーにパーソナライズされ、最適な口紅やファンデーション、スキンケア商品を提案・注文できるスマートデバイスの「パーソ(Perso)」だ。このデバイスにはバーチャルメイクアプリが搭載されており、実際にメイクしたかのようなシミュレーションができる。
バルーク氏は同商品について、「まずこの商品と連携するアプリを使うことで、メイクにおけるトレンドをリアルタイムで追うことができる。これまでのような、インフルエンサーが使っている商品の後追いだけではない。たとえば良いシェーディングを考え出し、それを使った様子をSNSに載せることで、自らインフルエンサーになれる可能性すらある」と語る。「パーソとアプリは、ぜひ世界中の方々に使っていただきたい。そしてさまざまな文化圏でユーザーがお気に入りのシェードやメイクを生み出し、共有される場になればと願っている」。
ロレアルは、いずれユーザーがお気に入りのインフルエンサーと同じ商品を利用できようなプラットフォームの構築を目下検討している。これについて、バルーク氏は次のように説明する。「結局のところ、トレンドを追いかけるうえで、もっとも役立つのはユーザーのコミュニティだ。『良さそうに見える』ものを片っ端から買うのではなく、コミュニティで交わされる情報を活用することで、無駄な商品をいくつも買わずに済む」。
サービス提供を定期購入の糸口に
こうしたデバイスがロレアルのような企業にとっては、定期購入者を増やすチャンスにもつながる。同社では、2023年までにオンラインの売上が全体の5割に達する見通しとなっている。なお参考までに、ロレアルがオンラインの売上を25%にするまで10年という期間を要した。
いま、ユーザーはパーソナライズされた体験を求めている。アプリなどを使った自宅にいながら受けられるビューティーサービスは、まさにこのニーズに応える存在として、ブランドロイヤルティの向上をもたらす。さらには、「このようなサービスは、関連する商品が追加的に売れる」と、eコマース向けソフトウェアメーカーのオーダーグルーブ(Ordergroove) で戦略クライアントディレクターを務めるジェイミー・ジョンズ氏は指摘する。
「たとえば、ビューティーサービスのなかには、フェイスクリームやフェイスマスクが必要なものもある」と同氏は語る。「まずはサービスを販売したうえで、これらの補完的な商品をサブスクリプションで定期購入してもらうこともいいアイデアだ」。
美容業界ではコロナ禍によって、この種のビジネスモデルが大きな注目を集めている。いまだに終わりの見えない危機のなかで、ユーザーとのつながりを有する専門家のアドバイスがない在宅の体験を提供するのは、困難を伴うのは言うまでもない。場合によっては、そもそも不可能なサービスや商品もあるだろう。
賢い選択をするユーザーが増えている
たとえば、ウォーターセイバーはもともとはサロンにおける水の無駄を減らすために設計されたシャワーヘッドだ。今回ロレアルが発表したのは、同じ技術を使用したセルフユースバージョンのウォーターセイバーとなる。数年前であれば、自宅利用向けにサロン向け商品を転用するなど、検討すらされなかっただろう。
また、自宅向けサービスは成功が約束されているわけではない。ロレアルを含む各ブランドは、市場動向を注意深く見守り、常に即応性のある対応をすることが求められる。
エージェンシーネットワークのリバティ・グループ(Liberty Group)の美容部門、ファンデーション(Foundation)でデジタルストラテジストを務めるオリビア・アルコーン氏は、次のように述べる。「昨今、美容業界では高度な技術を備えたアプリが増えている。美容についてさまざまな角度から情報を持ち合わせ、賢い選択をするユーザーが増えているためだ。だから、自宅にいながらパーソナライズされた適切で、より優れた商品を提案してくれるサービスが求められている」。
[原文:L’Oréal eyes at-home tech market to accelerate its DTC plan]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)