ロレアルが購入するメディアのなかには「多くの無駄」がいまだに存在していると語ったのは、西ヨーロッパの最高マーケッティング責任者であるステファニー・ベルーべ氏。しかし、ほかの広告主たちと違っているのは、効果の無い広告を排除するために、オンラインにおける支出を削除するわけではない点だ。
ロレアル(L’Oréal)の2018年の広告プランの中心にあるのは、収益を生まないメディアにかける支出を減らすことだ。
ロレアルが購入するメディアのなかには「多くの無駄」がいまだに存在していると語ったのは、西ヨーロッパの最高マーケッティング責任者であるステファニー・ベルーべ氏。しかし、P&Gやユニリーバ(Unileber)、そしてほかの大きな広告主たちと違っているのは、効果の無い広告を排除するために、オンラインにおける支出を削除するわけではない点だ。むしろ彼らは、来年のオンラインの支出を増やそうとしている。オンライン支出の増加は過去12カ月も続いている傾向だ。支出の量ではなく、広告が現れる場所が広告の無駄を生み出しているとベルーべ氏は説明する。より意味のある広告は、プレミアム価格を支払うことで手に入るという考えに、ベルーべ氏は理解を示しつつある。「安いCPMよりもクオリティの高いオーディエンスを得るために支出を増やすほうが良い」と、彼は語った。
CPMから退くロレアル
安いインプレッションを避けるため、ロレアルの予算はオープンエクスチェンジからプライベートマーケットへと移りつつある。マーケットのなかには、パブリッシャーに直接ロレアルが掛け合ってキュレーションをしているようなものもあるという。ロレアルの持つ限定的なeコマース売上といった自社のデータにパブリッシャーからのデータを組み合わせて、こういった移行は行われている。その結果、サードパーティからのデータは会社のキャンペーンにとって重要性が減ってきていると、彼は言う。
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CPMから退く、ロレアルのこの動きは、2014年に遡る。パブリッシャーのサイトにおいて70%閲覧のディスプレイ広告を購入すると決定したのがはじまりだ。100%閲覧だとリーチという面でコストがかかりすぎ、また制限も大きすぎるというのが彼らの判断だった。ビデオ広告に関してはすべてのインプレッションに支出をするのではなく、完全に再生されるものにバイイングをかけてきている。
3年前であればロレアルは、ビューアブルインプレッションを購入するという方法で無駄を抑えようとしていた。しかし、現在では「アドレサブル」なメディアバイと彼らが呼ぶ方向へとシフトしつつある。これはユーザーをベースにした広告の価値に気付いたことを示している。自社のデータを利用して、より効果的なキャンペーンを生み出そうとしているのだ。「我々のオーディエンスのプロフィールすべてをチェックしている。消費者にとって意味のある広告を生み出すために可能な限りのデータを収集する必要がある」。
エージェンシーとの関係
多くのデータを集める、と口で言うのはたやすいが実行するのは困難だ。投資利益率とアトリビューションモデルをチェックすることに加えて、ロレアルのマーケターたちはまた、顧客獲得単価(CPA)や顧客生涯価値(LTV)、クッキーの価値といった分かりづらいコストの理解を深めようと取り組んでいる。現状のメディア関連業務の見直し、顧客データの分析をするためにデータの専門家を雇うことも行っている。データプライバシーに関する専門家がテクノロジーやサービスのプロバイダーを評価する、ということもさせているケースもある。ベルーべ氏は、ロレアルはデータだけに限らず、より多くの専門家を自社で雇う必要があると語る。これはエージェンシーの代わりとしてではなく、現状に満足してしまわず、自分たちの専門性を育てようとするためだ。
自社の人材とエージェンシーからの専門知識のあいだに対立関係はあるのか、というトピックについて、アドテック(Ad:tech)でベルーべ氏は率直なコメントを出している。ロレアルは自社のメディア戦略を形作るなかでエージェンシーを排除しようとしているわけではないという。ロレアル内でのメディアの知識を育てていく一方で、エージェンシーが行っているスケールでのメディアバイを行うことはロレアルにはできないと述べている。「自社にトレーディングデスクを自分でもっていたとしても、1億インプレッションを自分たちで購入することはできない。自社で専門家を雇っているのは自分たちのメディア投資についてより理解を深めるためだ。自分がメディアに関して、まったく分かっていない状態で、どうやってエージェンシーが良い仕事をしているか見極めることができるというのか」と、彼は語った。
エージェンシーが主導となってメディア戦略を率いることのメリットのひとつに、報酬制度の改善があるという。彼らはメディアをコモディティとして考えるモデルから離れ、エージェンシーへの報酬体系を根本的に改革する計画をしているという。「メディアをコモディティとして扱う姿勢から、クオリティを購入しているという方向性へ移る必要がある。エージェンシーたちは安いメディアを購入するインセンティブが発生していた。それが、テレビであれ、オンラインであれだ」。
「デジタル投資に不安なし」
ロレアルが広告の無駄に厳しく取り締まることで、広告のロングテールと呼ばれるものへのフォーカスに対する説明も明確になっている。前四半期では、アメリカにおけるオンライン支出を前年同時期比較で増やしただけでなく(下記チャート参照)、広告を載せるパブリッシャーサイトの数をまた増やした。広告トラッキング企業メディアレーダー(MediaRadar)による調査によると、ロレアルはサプライチェーンにおいて自信を強めている。いくつかの広告主は自信なく支出を減らさざるを得なかったのとは対照的だ。このデータでは広告のうち、どれが安いサイトで、どれがプレミアムの追加価値を支払ったサイトなのかは分からない。そのため全体的にはいまだコンテンツよりもリーチに優先度をおいている可能性も否定はできない。

Source: MediaRadar
しかし、ベルーべ氏の主張はそうではない。「オンラインにおいて、どのユーザーが本当の人間でどれが違うか、我々はより理解できるようになっている。(デジタルに)投資し続けることに不安はないといえる」と、彼は語った。
Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)
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