米国で ライブショッピング を盛り上げている新興企業は2022年にはその耐久力を証明する必要に迫られている。動画はアジアの外での歴史が短く、ひと握りの若い企業が独占してきた。同時にFacebookやYouTube、TikTokなど巨大企業が参入したことで購入可能なライブストリーミングの分野は急激に活気を帯びた。
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米国でライブショッピングを盛り上げている新興企業は、2022年にはその耐久力を証明する必要に迫られている。
動画フォーマットは、アジアの外での歴史が比較的短く、ひと握りの若い企業に独占されてきた。NTWRKやワットノット(Whatnot)などの新興企業はコレクターやマニアの人たちのあいだで成功した一方、ファイアワーク(Firework)などのライブストリーミング・サービス・プロバイダは、アルバートソンズ(Albertsons)や無印良品(Muji)などの小売業者と契約を締結。彼らはまた、大規模な資金調達ラウンドも確保した。ワットノットとNTWRKは過去1年間にそれぞれ2億2000万ドル(約234億円)と5000万ドル(約58億円)を調達している。
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同時に、Facebook、GoogleのYouTube、TikTokなどデジタル界の巨大企業が参入したことで、購入可能なライブストリーミングの分野は急激に活気を帯びた。これらのプラットフォームは、その規模と、膨大なクリエイターのプールを武器に、この分野を支配しようとしている。これらの企業が引き寄せられたのは、この分野が巨大な市場になるという予測だ。コアサイトリサーチ(Coresight Research)によれば、米国におけるライブストリーミングコマースの市場は2021年末に110億ドル(約1兆2800億円)、2023年に250億ドル(約2兆9000億円)に達すると推定されている。
これらビッグテックの侵略は、ライブショッピングの新興企業がこれまでで最大の困難に直面していることを意味する。2022年以降も自社の勢いを維持するため、彼らは、マーケティングや、従業員の増加、より多くの出品者の募集など、あらゆる部分に投資を行おうとしている。もし彼らが競争について神経質になっているとしたら、その素振りを見せるようなことはないだろう。
巨大企業との競争は避けられない
ワットノットの共同創設者であるグラント・ラフォンティン氏は次のように述べている。「既存企業はこのような市場では勝てない。彼らにとって、この市場は本当の優先事項ではない」。
それでも、巨大企業とのあいだに競争ははじまっている。FacebookやYouTubeなどの巨大プラットフォームは2021年、先駆者たちの尻馬に乗り、販売イベントをより頻繁に主催することで、ライブストリーミングを倍増させてきた。これらの競合を振り払うため、新興企業は数億ドルの資金を投資して自社のサービスを拡充し、自社の専門化したプラットフォームをメインストリームに押し上げようとしている。
そして2022年には、デジタル巨大企業との対決を見越して、新興企業がよりサービスを拡充し、より多くのサービスを提供する戦いが始まっていることを指摘している。
わずか2年のあいだに、ワットノットは米国で最初のライブストリーミングショッピングのユニコーン企業となり、評価額は15億ドル(約1740億円)に達した。同社のアプリはスポーツ、ポケモンのトレーディングカード、アクションフィギュア、コミック本などを扱う数千もの出品者がいる。このマーケットプレイスの後押しにより、数百万ドル規模のビジネスを生み出した人もいる。
ラフォンティン氏は、パワーセラーから中小企業、トレーディングカードのホビーショップまで、幅広い層のネイティブユーザーこそが、同社の成功に不可欠なものだと語る。氏は次のように言及している。「彼らは、ライブコマースや1対1の販売に対応する独自のスキルを身に付けている。ユーチューバー(YouTuber)やインスタグラムのインフルエンサーは、その成功をライブストリーミングのショッピングに変換するのに困難を感じるだろう」。
同社は現在、ビンテージファッションや、スニーカー、ビデオゲームなどトレンドのカテゴリーにおいて、出品者の助けを借りてプレゼンスを拡大しようとしている。任天堂(Nintendo)のクラシックゲーム機とゲームなどのレトロゲームは、もっとも大きな成長の兆候を示している。このカテゴリーの販売は前月比で300%も成長していると、ラフォンティン氏は語っている。また、フットウェアも関心を生んでいる。ある出品者は最近、スニーカーをセットで5万ドル(約580万円)で販売した。
コミュニティ形成を推進
ワットノットは、プラットフォーム上で行われるすべての取引から8%の手数料を受け取ることで収益を得ている。同社は財務状況や会員数は公表していないが、毎月のアクティブユーザー数は数十万人だとしている。
成長に合わせて出品者と買い手をサポートするため、同社は従業員を現在の110人から、来年には250人に増やすことを計画しており、エンジニアリング、マーケティング、運用チームにもさらに多くの人材を雇用することを予定している。
バックエンドでは、出品者を支援し、そのビジネスを管理するため、新しいマーケティングおよび分析ツールを構築している。商品側では、個人間のメッセージングと商品のディスカバリー機能を開発し、増え続けるカテゴリーに対応したコミュニティの育成を支援している。また、ゲームやトリビアなど、よりインタラクティブなコンテンツをストリームに追加することも計画している。
ライブビデオによるショッピングが進化するにつれ、クリエイターとの熱烈なエンゲージメントを育むことができるアプリが成功するだろうというのが専門家の意見だ。バカルディ(Bacardi)、ロレアル(L’Oreal)、ユニリーバ(Unilever)などをクライアントに持つeコマースマーケティングプラットフォームのミックマック(Mikmak)の創設者でCEOを務めるレイチェル・ティポグラフ氏は次のように述べている。「大規模なプラットフォームは機能をコピーするため、価値提案としてのライブストリーミングは十分ではない。消費者とのあいだで勝利するのは、もっとも強力なクリエイターのコミュニティを持ち、もっとも独占的で便利なマーチャンダイジングの価値提案を行えるプラットフォームだろう」。
同氏はさらに続けた。「もし自分が勝ち組で、ライブストリーミングコマースのビジネスに加えて広告ビジネスを構築したいのであれば、広告費はスケール、ブランドの安全性、そしてもっとも強い投資対効果を持つものが勝ち取るだろう」。
アートやスポーツに目を向けるNTWRK
同種のライブショッピングアプリであるNTWRKも影響力のある出品者を対象としているが、アートやストリートウェアの分野に網を張っている。同社には、アートバーゼル(Art Basel)などのフェスティバルやソーシャルメディアから、アーティストや流行の仕掛け人、クリエイターを探し出すチームがある。また同社はコミック、トレーディングカード、日本ブランドなど、専門的な分野にも目を向けている。
出品者は最終的に、同社のキュレーションによるライブのショッピングフェスティバルに一堂に会し、絵画や、希少なスニーカー、スケートボード、ヒップホップの商品まで、切望されていた収集アイテムを展示する。これらの販売イベントは平均で200万ドル(約2億3200万円)の売上を生み出すと、NTWRKのプレジデントを務めるモクシャ・フリッツジボンス氏は語っている。同社は今年、バスケットボール文化、ストリートウェア、アート、デザインに特化した8つのフェスティバルを主催した。最近のイベントはコロンビアの歌手J・バルブィン氏を取り上げたもので、過去最高の300万ドル(約3億4800万円)を売り上げた。NTWRKは商品総額のうち20%を受け取る。同社のアプリは250万回ダウンロードされている。
また同社は、J・バルブィン氏のクリエイティブディレクター(ミルクマン[Milkman]として知られている)や、バンズ(Vans)、ナイキ(Nike)、アディダス(Adidas)などのブランド、および投資家でもあるフットロッカー(Foot Locker)とも提携した。フリッツジボンス氏によれば、適切な出品者を取り込めば、ほかの出品者も「雪だるま式に」参加するのだという。
同氏は次のように述べている。「ライブコマースの秘訣は、本当に面白くて注目を集めるクリエイターが定期的にライブのコンテンツを行い、高いコンバージョン率で商品を販売することだ。当社はこれらのクリエイターに、何百万人もの観客とリアルタイムで関わるツールを提供し、クリエイターが販売する商品について人々が見聞きできるようにする」。
広告ビジネスを強化
NTWRKは2022年、ポップカルチャーや歴史的なイベントに関するさらに多くのフェスティバル、たとえばスターウォーズ・デー(Star Wars Day)、黒人歴史月間、NBA決勝戦、さらにはサイバーウィークを主催するため、「数百万ドル」を投じる計画だ。フリッツジボンス氏は、同社が2021年9月に行った5000万ドル(約58億円)の資金調達ラウンドで得た投資の一部をデジタル広告に出資し、その一部を主要な市場における屋外広告に向けると語っている。
同社はすでに、対象層が重なっている複数のアプリと提携している。たとえば、Snapchatではディスカバー(Discover)のチャンネルを保有し、2021年にソーシャルビデオプラットフォームのトリラー(Triller)が買収したオンライン音楽シリーズのバーザズ(Verzuz)とは商業コラボレーションを結んでいる。NTWRKと同様に、これらのアプリは18歳から34歳の若いユーザーとヒップホップ・ヘッズをそれぞれ対象とするハブになっている。
さらに将来的には、検索連動型広告、ディスプレイ広告、動画広告など、Amazonと同様の広告ビジネスを構築したい考えだ。GMV(流通取引総額)以外の収益の機会を求めて、プライム(Prime)のようなサブスクリプションサービスも視野に入れている。「これはまだ少し先の話だ」とフリッツジボンス氏は述べている。
消費者向けアプリと並んで、ライブストリーミングのショッピング業界には、小売業者向けのサービスという側面も存在する。ファイアワークやバンビューザー(Bambuser)などのライブ動画技術プロバイダにより、各ブランドは購入可能なライブストリームを自社のウェブサイトやソーシャルメディアプラットフォームで同時にホストできる。これらのプロバイダは、この方法により小売業者が自社データをより細かくコントロール可能になると主張している。
技術を強みにB2Bサービスを拡大するファイアワーク
ファイアワークは今年、決済プロバイダのアメリカンエクスプレス(American Express)から投資という形でお墨付きをもらった。同社の技術はハインツ(Heinz)や無印良品などの小売業者のライブストリームに加え、「食品界のピンタレスト(Pinterest)」を目指している(ファイアワークの共同創設者であるジェリー・ルック氏談)というアルバートソンズの短編動画に利用されている。ファイアワークはB2Bサービスの拡張の一環として、枕とタオルのメーカーであるフラッフコー(FluffCo)と最近契約を結んだほか、デジタルネイティブ・ブランドへの取り組みにも注力している。
同社は家電や旅行などの新しいカテゴリーを視野に入れ、2022年には従業員数を200人へと倍増することを計画している。同社の従業員はほぼ北米で勤務している。また、同社は複数の商品を同時にストリームで販売する機能や、さらに洗練された顧客サポートツールなど、要望が高まっている機能の開発も進めている。
ルック氏もまた、ソーシャルメディア界の巨大企業からの脅威を心配していない。同氏は次のように述べている。「当社の技術はウェブサイトでもソーシャルプラットフォームでも動作するという点で優れたもので、マルチストリーミングを複雑な作業なしで行うことができる。動画は将来、あらゆるウェブサイトの一部になると考えている」。
[原文:Live shopping platforms are preparing for battle with big tech in 2022]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image by Ivy Liu