サイズ14を超える女性が存在するという事実にファッション業界がたどり着きつつあるのに対し、美容ブランドはまだそこに至っていない。化粧品に身体のサイズが関係ないことを考えると、この見落としの不可解さは際立つ。そんな美容業界の不可解な体制の背景を追った。
ナディア・アボールホスン氏は、この7年間、プラスサイズのモデル兼デザイナーとして働いてきたが、美容キャンペーンに起用されたのは先月がはじめてだった。
「(美容ブランドたちには、)アイブロウのキットを一緒に開発しようとずっと働きかけてきた」と、アボールホスン氏は語る。「自分が有名人ではないせいかはわからないが、自分の提案は断わられ続けていた」。
美容企業への売り込みを3年間続けた末に、化粧品ブランドのアルメイ(Almay)からはじめて、直接の連絡があった。そして、ブランドマーケティングの多様化を推進する一環として、「本当の自分を見せる」というインフルエンサーキャンペーンに採用されたのだ。キャンペーンを主導するのは、レブロン(Revlon)の最高クリエイティブ責任者で、雑誌『アリュール(Allure)』の編集長を務めたことがあるリンダ・ウェルズ氏だ。
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サイズ14を超える女性が存在するという事実にファッション業界がたどり着きつつあるのに対し、美容ブランドはまだそこに至っていない。化粧品に身体のサイズが関係ないことを考えると、この見落としの不可解さは際立つ。
「これがもっと白熱した話題にならないのに驚いている」と語るのは、雑誌『グラマー(Glamour)』のファッション記事編集者で、かつてプラスサイズのモデルだったローレン・チャン氏だ。「この分野は、デザイナーやクリエイティブディレクターのあいだに従来からある口実や弁解が通用しない。『サイズ14にフィットしない化粧品サンプル』のようなものは存在しないのだ。リップスティックは誰にでもフィットする。スタイルとライフスタイルの領域では、大きめサイズを着る影響力のある女性が増えているが、美容キャンペーンではそうした女性が使われないという矛盾が拡大している」。
美容分野では、プラスサイズを代表する人々が欠落している
美容分野でも、周辺的には、「プラスサイズの女性へと向かう動き」が存在する。たとえば、ロレアル(L’Oral)が「トゥルーマッチ(True Match)」ファンデーションの最近のスプリングキャンペーンにサビーナ・カールソン氏とキタ・プリング氏を起用したり、クィーン・ラティファ氏がカバーガール(CoverGirl)のブランド・アンバサダーを長く務めていたりしているが、大部分は、たまにいる曲線美の有名人という認知に追いやられている。しかも、そのようなものでさえ、とてもまれなのだ。

カバーガールのクィーン・ラティファ氏
「現状から踏み出すことを躊躇しているのだと思う」と語るのは、プラスサイズの女性のためのパーソナルスタイリング企業、ディア&コウ(Dia & Co)の共同創業者、ナディア・ブジャルワ氏だ。「ブランドとしては、これまでまったく行われてこなかったことのリスクを引き受けるのは心配かもしれない。しかし、文化面で大きな変化が進み、女性たちはマーケティングキャンペーンに多様性とインクルージョン(包摂:ほうせつ)を期待している。顧客の尊敬と信頼を得たいブランドは、この変化を取り入れる必要がある」。
ブジャルワ氏によると、プラスサイズの美容インフルエンサーやビデオブロガーは勢いを増し続けている。彼らは、インクルージョンに関する議論を促進し、美容の分野で取り上げられる女性の多様性を高める重要なプラットフォームとして機能している。ただ、アボールホスン氏によると、ソーシャルメディアでしっかりした支持層を築くことなしに、話題になることは難しい。同氏が50万人を超えるフォロワーを集めてインフルエンサーの地位を固めたのはつい最近のことだ。
「注目度が高まるほど、理解するブランドは増える。それに従い、そうした会社のなかから、コンフォートゾーンの外側へ抜け出すところがでてくるだろう」と、アボールホスン氏は語る。「『コンフォートゾーンの外側へ』とまで言う必要があるのは困ったことだが、彼らは態度を変えるようになると確信している」。
美容ブランドのあいだでは、有色の女性をさらに取り込むため提供製品を多様化する動きはあるが、プラスサイズの女性をマーケティングで見せていくことは、全般的にはまだおろそかになっている。化粧品ブランドのグロッシアー(Glossier)を例に取ると、最近、人種の面ではマーケティング画像は多様化しているが、モデルはみんなストレートサイズだ(この記事についてグロッシアーにコメントを求めたが回答はなかった)。

グロッシアー「Skin Tint」の広告
アボールホスン氏によると、ふっくらした女性たちが見られるようになったのは、実はこの1年ほどのことでしかない。アルメイの仕事を得る前、同氏は可能性がほとんどない領域で自分のチャンスを生み出す方法として、美容製品のコレクションを自分で立ち上げることを考えていた(アボールホスン氏は衣料品で独自のシリーズを作り、成功させている)。
「プラスサイズ分野のスーパーモデル」にもっとも近づいた存在であるアシュリー・グラハム氏のような人であっても、美容はまだとりわけ手がつけられていない領域だ。同氏は雑誌『ニューヨーク(New York)』の最近の記事で、プラスサイズのファッションでは障害を打破する重要なプロセスに協力してきたのに対し、美容では仕事がまだ見つからないと説明している。曲線美のセレブたちが各種美容ブランドの声になっている一方で、プラスサイズのモデルとなるとまだなのだという。「ヘア、メイク、ビューティのキャンペーンは、サイズ6を超える女性と契約するようにはまだなっていない」と同氏。
「美容は、サイズのない業界とはとても言えない」と語るのは、エージェンシーHYPRの創業者でもあるCEO、ジル・アイアル氏だ。「例外になっているのは、ソーシャルメディアにおいてかなりのオーディエンスを自前で構築できている、ユニークな身体をもったインフルエンサーたちだ。カーダシアン姉妹を先頭に、”丸いお尻”を世に送り出したジェン・セルター氏、マニー・ グティエレス氏などがいる」。
多様性のダイヤルを動かす
『アリュール』誌の編集長、ミシェル・リー氏は、ブランドを変えるためだけではなく、自信を持ってモデルになろうという気になる女性を増やすためにも、グラハム氏のような女性に、プラスサイズを代表する人が欠けている、と主張し続けてほしいと語った。
「すべてのエージェンシーを見渡すと、プラスサイズのモデルが足りていないのがわかる」と、リー氏は語る。「(グラハム氏が)素晴らしい仕事をして、前よりは目立つようになったが、それでもファッションと美容では代表者が不足している。誰もがよい方向に進んでいると思うが、グラハム氏のように成功して雑誌の表紙を飾るようになる女性がもっと必要だ」。
ただ、『アリュール』誌の表紙に関していうと、年齢と人種の面では多様な人々が被写体に使われるようになってきているのに対し、サイズの面ではそうなっていない。9月号で年齢を感じさせない美を称賛して女優のヘレン・ミレン氏が起用され、7月号では多様性特集の一環としてムスリムモデルのハリマ・アデン氏が表紙を飾っているのに対し、プラスサイズの美の大使のような人は、まだ同誌の表紙に起用されたことがない。
グラハム氏が最近、『ヴォーグ(Vogue)』と『スポーツ・イラストレイテッド(Sports Illustrated)』の表紙に起用された一方で、主要な美容雑誌の表紙は、プラスサイズの女性が登場するにはまだ至っていない。

最近の『ヴォーグ』表紙に使われた写真のアシュリー・グラハム氏(左から2人目)
『グラマー』誌のチャン氏は、美容業界にも、ファッション業界の進展に似たトリクルダウン効果が現れると考えている。チャン氏としては、美容出版物の表紙でプラスサイズのモデルをもっと見たいと考えているものの、まず最優先するべきは、製品とマーケティングを人種をもっと考慮したものにすることだ。ただ、多様な女性を起用するのが究極の目標であることは変わらないと、同氏は語った。
「人種の点で多様性がある製品を作る会社に関する話のほうが重要だと、私の考えは決まっている」と、チャン氏は語る。「なされるべき変化はたくさんあるが、変化は起こりつつある。モデルのサイズは、私たちが変えている方向のひとつ。でも、企業は耳を傾けるようになってきているようだ。企業には、聞こえてくることを取り入れていってほしい」。
美容分野におけるプラスサイズの女性の今後
モデルエージェンシー、ザンドワゴン(Zandwagon)の創業者、ケイボン・ザンド氏は、人種、サイズ、ジェンダーに渡ってより多様なモデルをキャスティングする取り組みとして、2017年にこのエージェンシーを起業した。そのザンド氏が最近、従来のサイズから外れたモデル4人と契約したと語った。ザンド氏は、まだ美容部門では多くのことをやってはいないが、自分のエージェンシーが、すべての市場で露出度を高め、文化的基準の全面的な転換にひと役買えることを望んでいると語った。
「結局わかったのは、何が健全で何が美しいのかという理想を、我々が作り出すことはできないということだ。包摂していくことが必要であり、美は、どんな形にもどんなサイズにもなる。そういうことだ」。
ディア&コウ(Dia & Co)の共同創業者であるブジャルワ氏は、ソーシャルメディアのプラットフォームが美容におけるプラスサイズの包摂性を高めるのに欠かせないツールであるのは変わらないだろうと語った。さらに、強固な支持者層と活発な活動を行うファンたちは、自ら、美容の大きな契約を生み出すかもしれない。
「プラスサイズの女性たちの活発なコミュニティがあり、YouTubeをはじめとするオンラインで美容コンテンツを制作している」と、ブジャルワ氏は語る。「率先して素晴らしいコンテンツを自作しているこうしたインフルエンサーたちに、共感と憧れの両方を見いだす女性たちの熱心なコミュニティができている」。
「グラマー」誌のチャン氏は、美容キャンペーンでプラスサイズの表現が強化されると、ファッション業界よりも大きな影響があると考えている。社会的基準を変える影響が、さらに行き渡ることになるだろうというのだ。
「美容業界が生み出す、文字通りの『美の基準』を人々は内在化する。もちろん、ファッション業界も基準を設定するが、美容キャンペーンはまさに美のキャンペーンなのだ」。
Bethany Biron(原文 / 訳:ガリレオ)
Image of Sabina Karlsson courtesy of L’Oreal