DTC ブランドは、本当に儲かるのか?:投資めぐる「悲喜こもごも」が顕在化

DTC(Direct to Consumer:ネット直販)のメンズおよびレディースヘルス・ビューティーブランドである、ウォーカー&カンパニー(Walker & Company:旧社名ベベル[Bevel])が今月、P&Gに買収された。それは悲喜こもごもの出来事だ。

P&Gは、より多くのさまざまな人々に向けて、まとめて宣伝を行うようブランドを導く、業界最大手企業の1社だ。ウォーカー&カンパニーは、そんなP&Gの流通ネットワーク、予算、そしてリソースを手に入れた。しかし、リコード(Recode)の報道によると、ウォーカー&カンパニーは4ラウンドのベンチャーファンディングで3330万ドル(約36億円)を調達したあと、その額には近いが満額ではない金額で、P&Gに買収されたと言われている。

DTCのこれまでを振り返れば、成功、失敗を問わず、そのカテゴリーが良い投資であるかどうかを判断するために、十分な数の実例がない。ボノボス(Bonobos)は、1億2800万ドル(約140億円)を調達したあとで、3億1000万ドル(約340億円)でウォルマート(Walmart)に買収された。その動きは、ボノボスブランドのファンをたじろがせた。ベンチャーキャピタルで驚きの総額5億ドル(約547億円)を調達してきたオネスト・カンパニー(The Honest Company)は、売却またはIPOの両方を模索しているといわれてきたが、製品クレームをめぐる訴訟件数により、動きを控えている。ダラー・シェーブ・クラブ(Dollar Shave Club)は、早々に売却して、大成功を収めた。創業5年で資本調達金額のほぼ10倍の10億ドル(約1090億円)で、2016年にユニリーバ(Unilever)が買収したのだ。

ウォーカー&カンパニーにとって不本意だったペイアウトは、少なくとも部分的にはそれが儲かるブランドではなかったという事実に起因していた。新たに芽生えたコンシューマーブランドへの関心と低金利に、部分的に起因する大規模な資本プールのおかげで、ベンチャーキャピタルは前例のない量で、このスペースに流れ込んだ。CBインサイツ(CB Insights)によると、2012年以来、30億ドル(約3280億円)のベンチャー資本がDTCブランドに投入されているという。今年は10億ドル(約1090億円)以上の投資が行われた。

それに伴い、売上の最大化が優先となり、収益性は後まわしにできた。しかし、次第にそのエンジン(原動力)は燃料を失いつつある。現在、借入金で事業を行っている企業は期待外れのペイアウトに直面している。VCたちはそのパイプを切ってはいないが、投資する前に、事業が発展するのかについて、さらに多くの証拠を要求している。

「金を失えば、何度も資金調達ラウンドをかけることが、これまではできた。それが、これまでのやり方だった。現在、主に懸念されていることは、どうやったら利益の出る成長を遂げることができるかということだ。我々が話をもちかける投資家たちは、いま、異なる期待を持ってさまざまな質問を投げてくる」と、遠隔医療DTCスタートアップ、ヒムズ(Hims)のCEOであるアンドリュー・デュダム氏はいう。

ゴールドラッシュ

中小規模のコンシューマー事業を支援する金融会社、マーチャント・ファイナンシャル・グループ(Merchant Financial Group)のCEOであるアダム・ウインターズ氏は次のように述べている。資金の豊富な新しいコンシューマーブランドの採算性が悪いというのは事実ではない。多くのコンシューマー事業は、事業成長に投資さえすれは自動的には収益があがるわけではないのだ、と。投資家たちと創業者たちの間の期待が一致しないことが、問題の原因なのだ。投資家たちは比較的早くに大きなリターンを求める。創業者たちは通常、もちろん事業の成長を望みつつ、長期的な持続可能性も求めている。

「コンシューマー主導型ビジネスに適用されるテックマルチプルが全員にとって最善の利益にいつも寄与する方程式ではない、という厄介な状況に現在直面している。たぶんいくつかのブランドはテック企業のペースで急速に成長し、規模を拡大し、出口を見つけることができるだろうが、多くのブランドにとっては無理な話で、そうするべきではない。多くのコンシューマーブランドにおいては、VCのプレッシャーが、何よりもその事業の個性を損なう結果となってしまっている」と、デジタルブランディングを専門とするエージェンシー、レッド・アントラー(Red Antler)共同創設者のJBオズボーン氏は述べる。

何百万ドルもの資金を投じ、キャスパー(Casper)、ヒムズ、シンクス(Thinx)といったブランドは地下鉄の広告ジャックやパフォーマンスマーケティングを行って世間を騒がせている。競争の激化に伴い、顧客獲得のコストが急上昇したため、収益性への道筋をつけるよう、さらに急かされている。ブランドが顧客1人を1回勧誘するコストが、その1回の購買で顧客が費やす金額よりも高い場合でも、ブランドはその顧客がブランドをとても気に入ってくれて、繰り返し購入し、友だち数人にそのことを宣伝してくれるという信念のもとに行っている。それが、その計算のつじつまが合う唯一の考え方だ。

しかし、それは必ずしも成功するわけではない、いわゆるギャンブルだ。

「堅実なビジネスで利益がでないということはありえない。すべての注文で利益が上がらないのであれば、それを顧客の収益性で補うことができる。顧客の生涯価値で利益を出す。顧客の獲得のために、顧客の支出を上回るコストをかけるようなことはしないことだ」と述べるのは、小売アドバイザリー会社、ルーズ・スレッド(Loose Threads)の創設者、リッチー・シーゲル氏。同氏は次のように続ける。「顧客が最終的に利益につながるという賭けに出ても構わないが、ありがちなのは、投資家や創業者がにっちもさっちもいかなくなることだ。彼らはいきなりスタートダッシュをかけるが、ガス欠になっていることにモーターが動かなくなるまで気がつかない。そして、彼らには残されたモーターを売却するしか選択肢が残らない」。

のちのち収益を上げるために多額の支出を行うリスクは、商品カテゴリーが多い場合においては、より危険な賭けとなる。キャスパーはマットレスを販売しているが、人は通常、ひとつ以上マットレスを購入することはない。採算が合っているのかどうか、同社は明らかにすることを拒んでいる。一方、デュダム氏によると、9700万ドル(約106億円)の資金を調達したヒムズは収益性が高いという。同ブランドは顧客が繰り返し購入するアンチヘアロスシャンプーといった商品を販売しており、リテンションを原動力にするサブスクリプションモデルのうえに成り立っている。

しかし、生理用品のような常に補充していく商品カテゴリーのサブスクリプションブランドでさえ、その企業にとって最良のものと顧客にとって最良のものとの間でバランスをとることに苦労している。レディースケアブランド、ローラ(Lola)の創設者ジョーダナ・キアー氏は、同社が利益を上げているかどうかは明らかにはしないが、投資家たち(ローラは3500万ドル[約38億円]を調達している)のためにスマートビジネスを構築する必要があると同時に、カスタマーエンゲージメントとロイヤルティを優先させること、このふたつの足並みが常にそろうわけではない、という。

「それらをトレードオフしなければならない。それが企業対顧客ということに対してするべきことだ。理想的にはそれらは対立せず、我々はうまくやってきている。しかし、忠実で熱心な支持基盤と顧客基盤がなければ、ブランド価値はない」と、ローラのキアー氏は述べる。

反DTC戦略

リサイクルボトルからフラットシューズやスニーカーを作るフットウェアブランドのローシーズ(Rothy’s)は、今年に1億4000万ドル(約153億円)の収益を上げる目標を今月発表した。 加えて、同社は収益を上げていると、ブランドプレジデントでCOOのケリー・クーパー氏は述べている。さらに、すべての注文で利益を上げており、つまり顧客獲得でお金を失うことはないと、彼女は述べた。

ローシーズはより堅実に運営しているDTCブランドの代表だ。投資家たちを抱えているが、抑制も実践している。投資家たちからそうするように圧力がかけられても、ニューヨークシティの地下鉄の広告スペースにブランドポスターが貼られることはない。投資家たちは苛立たしいかもしれないが、結局のところ「我々は自社の財務状況とできることをわきまえているだけのこと」と、彼女は語った。

同ブランドの資金調達力、現在4200万ドル(約46億円)相当は、タイミングから生まれている。同社は1年で100万足のスニーカーを売上、2018年の初頭の第1ラウンドで、その金額を調達した。

「2016年時点とは別の話だ。何よりも利益を出しているので、我々の運命は自分たちで決めることができる。利益が出ずとも、もっと資金を調達さえすれば、さらなる拡大が可能だと信じるなら、それをそれを繰り返すことになるが、それで本当に拡大が可能なのか、証明する必要がある」と、クーパー氏はいう。投資家たちに関するリスクがある。あまりにも早い成長への期待を持たれてしまう危険性があるのだ。ブランドを変えたり、自分たちでは選択しない方法で拡大せざるを得なくなるかもしれない。しかし、我々は利益を出しており、その投資によって我々の目標が変更されることはない」。

AYR、モダン・シチズン(Modern Citizen)、ボウル&ブランチ(Boll and Branch)、そして昨年ダウンの掛布団シリーズを発売したバフィー(Buffy)といったほかのブランドも、独自の条件でブランドを拡大するために資金調達の抑制を明言している。これらの企業にとっては、収益性を優先することが重要であるため、VCの資金調達に奔走することがない。その結果、成長率が違ってくる。

「今日、多くの企業が収益性を上げることに執着していない。彼らは拡大することをだけを気にしている。我々は利益を上げている企業であり、借金はしない。我々にとって収益性は実に重要だ。損失を出していることが会社の話題のひとつとして上がらなくなれば、終わりの見えない成長だけを望むようなことはなくなる。赤字を出しているときに、自分たちは商品価値がある、などと説くことは意味がない」と、バフィーのブランドバイスプレジデント、ポール・シェイクド氏は語る。

投資家たちがこのDTCカテゴリーを完全に排除することはないだろう。しかし、彼らはさまざまな疑問を投げかけており、5000万ドル(約54億円)の新ラウンドで、その市場に切り込むブランドたちの莫大な出来高は小さくなるだろう。

「我々はすでにそれを目の当たりにしている。シリアルファウンダーでもなければ、資金調達にもっと苦労している。誰もが資金を調達できる瞬間があったので、少しおかしくなった。いまでは、あらゆるカテゴリー、そしてあらゆるチャンネルでさらに競争が激しくなっている」とオ、ズボーン氏は述べた。「必ず成功するためのレシピはないが、正しいチーム、正しい優先順位、そして持続可能な成長計画の実施が必要だ。成功を証明することについて、人々はもっと慎重になるべきだ。それは正しいことであり、より現実的なものに感じられる」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:Conyac)