ニューヨークを基盤にする、シードステージ・ベンチャーキャピタル企業レアラー・ヒプー(Lerer Hippeau)のプリンシパル投資家であるケイトリン・ストランドバーグ氏は、次世代のリテール業界について、DTC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の先を見据えている。
ニューヨークを基盤にする、シードステージ・ベンチャーキャピタル企業レアラー・ヒプー(Lerer Hippeau)のプリンシパル投資家であるケイトリン・ストランドバーグ氏は、次世代のリテール業界について、DTC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の先を見据えている。
「我々はセクターにこだわらない。それによって頭をオープンにした状態で先に進むことができる。私の仕事はリテール業界の次の世代の駆動となるような会社を見つけること、面白い新規の投資を行うことだ」と、ストランドバーグ氏は言う。彼女は2018年5月にファーストマーク・キャピタル(FirstMark Capital)からレアラー・ヒプーに移った。
レアラー・ヒプーはニューヨークでもっともアクティブなシード・ファンドだと、彼らは言う。4月には1億2200万ドル(約138億円)の資金調達ラウンドを成功させ、それによって新しい投資に取り組んでいるという。ストランドバーグ氏によると、レアラー・ヒプーによる第1回目の投資のうち75%は第2ラウンドにつながるという。彼らのポートフォリオは、コンシューマーとエンタープライズで半分に別れており、ディア・アンド・カンパニー(Dia & Co)やオールバーズ(Allbirds)、キャスパー(Casper)、ワービーパーカー(Warby Parker)、グロッシアー(Glossier)といった企業に投資してきた。
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ストランドバーグ氏は本稿で、DTCとリテール、そして彼女自身がもっとも興味を持っているという新規カテゴリーについて、自身の展望を語ってくれた。
――最近、ウケているビジネスの売り文句がどのようなものか教えてほしい。新しいアイデアとされるものに、どのような傾向があるのか?
ブランドのトレンドという意味では、透明性、特にすべて自然由来の成分や持続可能なプロダクトといった点に、フォーカスがあてられている。プラスチックを減らしたり、プロダクトやパッケージにおける化学物質を排除するという具体だ。これは確実にトレンドとなっている。また、仮想通貨やブロックチェーンもたくさん聞いている。この分野が提示している可能性は驚異的だ。結果的にリテールに大きな影響を与えるだろうと、我々は考えている。
それから、ヘルスとウェルネス分野では、処方薬、メンタルヘルス、そして不妊治療といった分野におけるイノベーションが急加速している。最後に、大麻業界にも大きく参加している。大麻への投資は多く抱えており、それは巨大になると思う。この業界には非常に優れた人材も集まっているが、まだそれほどシード投資家は存在していない。究極的には我々のフォーカスは、次世代のリテールがどのような形になるのか、という点を見極めようとしている。これまでのDTCブランドを越えた地平には何が存在しているのか、ということだ。
――次世代のリテールにはDTCブランドは含まれないと?
というよりも、むしろ新しいブランドがあらゆる場所に現れるようになったことだ。彼らは顧客がいるところに、実店舗をオープンさせている。オフラインは消えていない。デジタルネイティブのブランドがアクセスできる店舗の存在を持つことが重要だ。アッパーケース(Uppercase)という実店舗リテールのためのプラットフォームに我々は投資しているが、この点がテーマになっている。
そのほかには、特定の年齢や性別、消費者のために複数のブランドから集めた異なるプロダクトをキュレーションしたリテール体験が増えるだろう。消費者プロダクトの大きなバンドル化と、私は呼んでいる。プロダクトやブランドという区切りが崩壊しつつある。いまでは、何かひとつのプロダクトが好きであれば、そのプロダクトのためにそのブランドを訪れるといった具合だ。そういったプロダクト群はまとめられ、キュレーションされて、ひとつの体験として提供されるだろう。これらのブランドたちがオフラインに繰り出して、スケールしようとするからだ。
――従来の複数のブランドを扱う世界規模のリテーラーにとって、それはどういう意味を持っているのか?
彼らにとっても助けとなるだろう。ウォルマート(Walmart)、ターゲット(Target)といった店舗でプロダクトを扱ってもらうことができれば、スケールのための素晴らしいチャンネルとなる。開けたアウトレットであり、新しい顧客へとアクセスできる。ウォルマートの活動も素晴らしい。彼らの自社ブランドをインキュベーションしている一方で、Amazonとの競争を仕掛けている。5年前であればFacebook、Google、Apple、マイクロソフト(Microsoft)といった企業に売ろうとしたものだが、いまではウォルマート、Amazon、P&Gに売るのが目標になっている。
異なるブランドや異なる買収企業が古くて停滞したビジネスを排除しようとしている。これによってよりスペースが生まれるので、これは良いことだ。そして新しい種類の会社が魅力的になってきているということだ。この点では、ビューティ分野は引き続き、大きく存在するだろう。グロッシアーはコミュニティを構築し、新しい配送システムを作るという、ほかではほとんどされてこなかったことを成し遂げた例だ。
――しかし、ブランドにとっては、DTCがビジネスの価値である場合、目立つのが難しくなっていることを意味する。
どんな時点でもアイデアが集中して発生するのはよくあることだ。そのため我々は、「私も!」的な二番煎じの会社は避けようとしている。キャスパーの◯◯版、ワービーパーカーの◯◯版、といった具合だ。こういったアイデアは確実な差別化ができないため難しい。深いブランドDNAを持っているものを探している。顧客を理解しており、何を探しているかをわかっており、問題と問題群を理解しているような会社だ。
次に我々が求めているのは、大きなビジョンとミッション志向性だ。問題志向性ではない。地に足をつけた状態で、何かの使命を追求しているという考えだ。オールバーズは素晴らしい例だ。彼らの大きな使命は持続可能な方法で、新しく面白い素材を使って消費者プロダクトを作るということにある。エバーレーン(Everlane)はリサイクルされたプラスチックを使った衣服を製造し店をオープンしている。ミッションを見て、それを達成するにはどうしたら良いかを見たい。
――ではファウンダーたちは何にフォーカスする必要があるのか?
ファウンダーたちは、ときにプロダクトにあまりに頭を使いすぎて、どうやって消費者の手に届けるかという点について考えない。マーケットにどうやって達するかに関して、戦略をはっきりと定義付けないといけない。製造されたプロダクトをどのように売るかは非常に重要だ。コスト効率の良い方法で売るための戦略を、私は求める。競合他社よりも低いコストで行うことができるか、ということだ。シードファンドを使ってInstagram(インスタグラム)やFacebookでマーケティングすると言われたら、その先を聞く必要がある。ただ、そこにお金が消えるだけにならないよう、祈って投資するということは難しい。
もうひとつ。多くの会社が、あるマーケットに参入するためのプロダクトを作ろうとしている。eコマース分野に参入するためにサブスクリプション型の何かを開発する、といった具合だ。彼らの思考は、このプラットフォームを作ることで、その後、ほかのプロダクトも作ることができる、というものだ。ひとつの会社を作ることは、それだけで考えられないほど難しい。そして、ほかの会社を作るために、ひとつの会社を作るなんてことは、ほぼ不可能だ。ファウンダーたちは、複数の会社を使って、ひとつのビジョンを達成しようと大きく夢見る。ひとつのことを驚くほど、うまく実現することにフォーカスするべきだ。
――スタートアップブランドのファウンダーたちに向けるアドバイスを
すでに存在しているブランドが消費者たちとつながれていないという点がよく会話にあがる。これがあなたにとってのブランドとなりうる。既存のブランドたちは(同じアイデアの)リサイクルを繰り返し、新しいブランドは次々やって来る。そのため新しい種類の消費者に常に反応しないといけない。消費者はオンラインが欲しいと思ったら、オフラインが欲しい、という具合だ。何かが個別にカスタマイズされて欲しい人もいれば、何かのコミュニティに属したい、という人もいる。それに加えて在庫を常に賢く管理しながらも、顧客の需要と整合性を保たないといけない。さらに最高品質のサービスとプロダクトを提供することはもちろんだ。と考えると、ひとつのサイズがすべての顧客に当てはまる、といったタイプのプロダクト戦略は不可能だ。
Hilary Milnes(原文 / 訳:塚本 紺)