資生堂は、ニューヨークのクリエイティブエージェンシー、JWalkを買収し、デジタル業界に大きく踏み込んだ。同社はコンテンツ制作を自社内で行い、変化の早いデジタルの世界に素早く対応できる能力をもとうとしている。JWalkは戦略から実施、コンセプトから完成に至るまでクリエイティブプロセス全体で重要な役割を担う。
化粧品ブランドの資生堂は、ニューヨークのクリエイティブエージェンシー、JWalkを買収し、デジタル業界に大きく踏み込んだ。
資生堂はコンテンツ制作を自社内で行い、変化の早いデジタルの世界に素早く対応できる能力をもとうとしている。彼らの2016年の売上高は8500億円だ。「私たちは物や消費者の動きが極めて早いマーケットに存在している。私たち自身がブランドとして、同じスピードで進化すべきでない理由は見当たらない。時代に追いつこうとするのではなく、新しいトレンドやテクノロジーを予期し、未来へと躍進することができるようにありたい」と、資生堂アメリカのCEO、マーク・レイ氏は語る。
レイ氏によると資生堂のプロダクトとデジタルイノベーションへのアプローチは、内部投資と買収の両方を組み合わせたものとなっており、これに加えて資生堂が興味を持った他社の少数株式を保有、そしてパートナーシップへの投資が存在している。
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資生堂のイノベーション戦略
世界中のマーケットを横断する形での会社運営の改善とイノベーションの加速を図るため、資生堂は社内にいくつかのグローバルな中核的研究拠点、「センターオブエクセレンス」をローンチ。2016年には、ニューヨークに7人編成のデジタルセンターを設置した。そこで、新しいプロダクトや新しいデジタル戦略、マーケティングの試験的な運用に取り組んでいる。また、メイクアップにフォーカスを据えたセンターも保有。38人のスタッフを抱えるこのセンターにはJWalkも参加する。これらのセンターはともに資生堂のデザイン、開発、マーケティングのイノベーションハブとして機能しているという。
有望なスタートアップや、資生堂のポートフォリオに存在する小規模なブランドとパートナーシップを組むインキュベーター制度もある。バクソム(Buxom)はポートフォリオに含まれる、急成長中のインディーメイクアップブランドのひとつだ。レイ氏によると、バクソムはまさにセンターが提供することのできるイノベーションや運営指示を必要とするブランドであるという。年間46%の速さで成長しており、今年の売上は5000万ドル(約54億円)に達する見込みだ。
しかし、資生堂はまた、日本以外のマーケットに参入するために企業買収のアプローチを常に行ってきた会社である。これはプロダクトとテクノロジー面両方について言えることだ。資生堂のポートフォリオにはナーズ(Nars)といったアメリカのブランドも含まれている。最近の買収ではローラ・メルシエ(Laura Mercier)が挙げられる。ナーズ、ローラ・メルシエは、それぞれ2000年と2016年に買収された。またテクノロジー面でも拡大しつつある。2017年1月にはファンデーションのカラーをカスタマイズして提供するデジタル技術を擁する、スタートアップ企業マッチ・コ(MATCHCo)を買収している。
JWalkに期待される役割
JWalkは資生堂のブランドチームと密接に協働することになるだろう。戦略から実施、コンセプトから完成に至るまでクリエイティブプロセス全体で重要な役割を担うはずだ。消費財企業の大手がマーケティングを社内に取り込む最近の例となった。JWalkのファウンダーであるダグ・ジェイコブ氏が北米クリエイティブ責任者となる予定だ。
ペプシ社のようにクリエイティブを社内部門として作るのではなく、資生堂はJWalkを社内部門として取り組むことにした。JWalkは現在、すでに抱えているクライアントはそのままキープしながら、資生堂の社内エージェンシーであることと利害関係を生まない範囲での新しいビジネスの機会を継続して求めるという。彼らにとっては収益源が大きく追加されたことになる。「我々の戦略はよく意見を聞き、テストして、学習すること。そして失敗さえもしていくことだ」と、レイ氏は言う。
Tanya Dua(原文 / 訳:塚本 紺)