ノース・フェイス(The North Face)は、大手アウトドアブランドでありながら、これまで持続可能性を目標としてアピールしてこなかった。だが、主要なライバル企業のパタゴニア(Patagonia)との競争が加熱するなかで、同社はリードを保ち続けるため、持続可能性を重要な取り組みとして推し進めるようになった。
ノース・フェイス(The North Face)のグローバルクリエイティブ担当リーダーを務めるティム・ハミルトン氏は、同社が大手アウトドアブランドであるにもかかわらず、これまでコミュニケーションとマーケティング戦略のなかで持続可能性を主要な目標としてこなかったと語る。だが、主要なライバル企業のパタゴニア(Patagonia)との競争が加熱するなかで、同社はリードを保ち続けるため持続可能性を重要な取り組みとして推し進めるようになった。
「ノース・フェイスは、アウトドアを愛する消費者をターゲットにしている。だからこそ、当社の持続可能性の取り組みを知ってほしい」と、ハミルトン氏は述べている。「しかし、これは当社にとって、マーケティングの最前線ではなかった。そのため、製品にリサイクルロゴを貼るだけではなく、当社が何をどのように行っているかを顧客に理解してもらうために、さらに多くのことを行う必要がある。当社のデザインにおける循環性の原則を示していく必要があるだろう。ノース・フェイスの新戦略は衣服に関する宣伝を減らし、こういった取り組みを知らしめていくことにある」。
ノース・フェイスの取り組み
ここ数年、ノース・フェイスは持続可能性についてさまざまな取り組みを打ち出してきた。2013年のジャケットの素材をリサイクルの合成繊維に切り替えるといった取り組みは分かりやすいが、それ以外にも舞台裏で取り組みが進められている。昨年は、北カリフォルニアの農場と二酸化炭素排出の削減について取り組みを開始。牧場の土壌に二酸化炭素を吸収させて留めるという取り組みだ。2019年秋に発売されたサーモボールエコという製品は、素材の100%がリサイクルの合成繊維で、360万本の空きペットボトルが使われた。
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同社の最新の取り組みが、10月はじめから開始する「リニュード・デザインレジデンシー(RENEWED Design Residency)」だ。これはノース・フェイスのデザイナーが、不要になったり売れ残ったり破損したりした物を受け取り、新たな物に作り変える取り組みで、たとえば壊れた複数のジャケットを縫い合わせて寝袋にするといった試みが行われてきた。リニュードが開始された2018年1月以降、この取り組みのもと1万4000以上の商品が作り出され、販売されてきた。
ノース・フェイスのグローバルデザインディレクターを務めるユニス・リー氏は、過去20年で消費者の持続可能なデザインに対する需要は驚くほど高まったと語る。
「規模が大きいほど、影響も大きくなる」と、リー氏は指摘する。「ノース・フェイスほどの大企業になれば、その影響力も非常に大きい。さまざまなことが変わった。20年前はニッチだったオーガニックコットンも、いまや一般的だ。だが、次の変化まで20年、悠長に待つほど我々に時間は残されていない」。
リード維持のために必要なこと
持続可能性の取り組みを伝えていくため、ノース・フェイスはデジタルと現場でのマーケティングを組み合わせてきた。インスタグラム(Instagram)の広告やナショナルジオグラフィック(National Geographic)とのコンテンツ提携以外に、同社の商品を販売しているREIの店舗で素材やプロセスに関する展示も行ってきた。
持続可能性に関するこうした取り組みの数々は、ノース・フェイスがライバルのパタゴニアをリードし続けるために必要なことでもある。パタゴニアは持続可能性の取り組みを非常に強めてきた。昨年だけでも同社は人気のシェルジャケットを持続可能な素材に完全に切り替えたことで、国連の地球大賞(UN Champions of the Earth Awards)を受賞したほか、カーボンポジティブな企業になることを宣誓し、グローバル気候マーチの支援も行っている。
ふたつのブランド間の競争は激しい。両社は同じアウトドア愛好家向けに、同じ価格帯で似た商品を販売しているのだ。2017年にパタゴニアのCEOローズ・マーカリオ氏は、年間収益が10億ドル(約1100億円)に達しようとしていると発表している。VFコーポレーション(VF Corporation)は、各ブランドの収益について報告していないが、ノース・フェイスが収益の大半を占める同社のアウトドア部門は今年第1四半期で6億ドル(約650億円)の収益を上げたと、発表している。
いかに収益への貢献するか
持続可能性が実際に収益に結びついているかについては、ファッション業界でも議論が続いている。持続可能性を重視するブランドや、持続可能性を柱に掲げて設立したブランドの数が増えているのは間違いない。だが、もっとも環境保護に熱心なブランドであっても、社内では消費者にとって持続可能性は、最大の関心事ではないという声があるという。
今年前半に行われた米DIGIDAYの姉妹サイト、Glossy(グロッシー)のインタビューのなかで、スニーカーブランドのベジャ(Veja)の共同創業者セバスティアン・コップ氏は、「クライアントの85%は持続可能性の取り組みを知らないか、知っていても関心はないだろう」と語っている。「持続可能性で売上が大きく伸びることはないと思う」。
だが、ハミルトン氏は個人的な経験およびノース・フェイスのカスタマーを対象とした市場調査から、コップ氏とは意見を異にしている。ハミルトン氏はノース・フェイスというブランドがアウトドアと自然を指向しているため、カスタマーもまた自然を大切にする傾向が強いとしている。
「消費者は持続可能性を重視している」と、同氏は語る。「当社は市場で試して確認した。2枚のシャツを並べて販売すれば、たとえ数ドル高くても持続可能なシャツを購入する。特に若い世代は熱心に探し求める消費者も少なくない」。
消費者にとって重大な関心事
小売テック系プラットフォームのエディテッド(EDITED)のデータもまたこういった考えは広まりつつあると支持する立場だ。エディテッドの調査によれば、2017年から2019年にかけてオンラインのアパレル新商品の説明で「持続可能(sustainable)」「エコ(eco)」「大切に(conscious)」といった単語が飛躍的に増えており、「リサイクル」に至っては2万から4万近くにまで倍増しているという。さらに消費者の側も「持続可能性」の検索が増えており、米国のGoogleでは平均で月に9万5000件が調べられているとのことだ。
「現代の気象危機のなかにあって、持続可能性は多くの消費者にとって重大な関心事となっている」と、エディテッドの小売アナリストを務めるカイラ・マーシ氏は指摘する。「とりわけZ世代は、この動きの先頭に立っており、ファストファッションの小売業者に対して透明性を強く求めている。一方で若い消費者のあいだでは、ファッショナブルかつ安価な商品への需要も根強い。ファストファッションブランドは環境に優しい商品では大きなマージンが得られないと考えるかもしれないが、それでもそういった商品を市場で試して、アパレル業界における持続可能性への意識を高めていくべきだ。環境に優しくありながら、トレンドにも沿った商品というのがもっとも効果的だろう」。
ノース・フェイスは巨大なブランドだ。総収益は過去12カ月で12%伸びており、親会社のVFコーポレーションが昨年あげた110億ドル(約1兆2000億円)の収益のうち2番目に大きな割合を占めている。VFはノース・フェイスの2020年に向けた持続可能性プログラム、フューチャーライト(FUTURELIGHT)に向けて2000万ドル(約22億円)の投資を承認した。同社ほどの規模であれば良い影響も悪い影響も必然的に大きくなる。ノース・フェイスにいま求められるのは、おびただしい数のブランドが持続可能性を新規顧客開拓の道具としているなかで、競争力を保つためのコミュニケーションとマーケティング戦略だろう。
DANNY PARISI(原文 / 訳:SI Japan)