自販機が再び、マーケティングの場として注目されている。2017年4月13日、キリンビバレッジバリューベンダー株式会社は、LINEの企業向けプラットフォーム、LINEビジネスコネクトを利用した、独自の自動販売機コミュニケーションサービス「Tappiness(タピネス)」の運用を開始した。
自販機が再び、マーケティングの場として注目されている。
2017年4月13日、キリンビバレッジバリューベンダー株式会社(以下:KBV)は、LINEの企業向けプラットフォーム、LINEビジネスコネクトを利用した、独自の自動販売機コミュニケーションサービス「Tappiness(タピネス)」の運用を開始した。
Tappinessは、LINEのビーコン機能を活用したサービスで、2017年1月にはすでに1度、同プロジェクトに関するプレスリリースが発表されている。その際に、言及されたのはポイント機能のみだったが、今回の正式なローンチ発表では、現金と電子マネーでの購入以外にも、新たにLinePayとの連携で商品の電子決済が可能になること、また、友だちへのプレゼント機能が搭載されることが追加で紹介された。
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DIGIDAY[日本版]の独自取材に対応してくれた、キリンCSV本部デジタルマーケティング部の島袋孝一氏は、「LINEと協力することで、圧倒的なリーチ獲得を目指したい」とコメント。また、キリンビバレッジバリューベンダー株式会社のイノベーション推進部 ソリューション担当 兼 販売機器担当 部長代理の岡部愼一郎氏は、自販機のIoT化について「LINEPayだけでは面白味がないため、ポイント制にした。自販機のポイントプログラムは独自で作ったという自負がある。これから、飲料関係だけでなく、ほかのさまざまな企業に参加してもらってサービス展開できればと思う」と、Tappinessというプラットフォームに期待している。
自販機の売上低迷がきっかけ
自販機の売上は、2014年の4月から実施された8%の消費税増税以来、大きな影響を受け、苦戦を強いられていた。岡部氏は「10円の値上げが、消費者の自販機での商品購入を遠ざけ、日常的に割引販売する小売店での購入に集中してしまった」と語る。同社は、ボトルを小さくするなどして増税前と同じ値段で販売するという対応に出たが、目覚ましい効果は得られなかったという。
また岡部氏は、自社ブランド製品だけでラインナップを固めることができる自販機は、キリンブランドを認識してもらえる貴重なチャンネルのため、低迷した現状を見逃すことはできないと語った。そうした背景によりTappinessの企画が始動した。
マスではなくデジタル広告が最適な理由
キリンはマス広告を大々的に展開するメジャーブランド。だが、ブランド認知が目的のマス広告だけでは、自販機の販売売上の向上施策としては十分とはいえない。そこで、LINEビジネスコネクトと提携して実現したのが、LINEのビーコン機能を対応自販機と連動させたTappinessだ。個人アカウントというとてもリッチなデータと自社のプライベートDMPの連動によって、いずれLINEユーザーにパーソナライズされた新着情報の配信や、スタンプ、ポイントのプレゼントなどが可能となる。広告施策の幅が広がるのだ。
Tappinessの対応自販機は、首都圏・近畿圏を中心にサービス開始後2万台が設置される予定。岡部氏は、「世間で電子マネーやNFC技術が活用されたりと、ビーコンの技術が市場で安定化してきたことで、その利用の検討をはじめた。そして、ビーコンを使うのならば、みんなが使っているプラットフォームと連携しなければ、というコンセンサスが社内であった」と語る。
現在、キリンの公式ラインアカウントには1800万人の友だちがいる。ブロック率は公にはしていないが、その公式アカウントの友達を増やすことが、当座の目標のひとつだという。
データドリブンなマーケティングの実施
「これまでもマスと自販機を連携したキャンペーンを実施してきたが、コストがかかりすぎた」と岡部氏。商品付属シールの配布などにデジタル予算と比べ物にならないくらいの膨大な予算をつぎ込んだが、ターゲティングの精度が良い施策とはいえなかった。島袋氏は、「ひとつの自販機で何本の商品が売れたかは分かっても、何人にどの商品が売れたのか、またどんな人に売れたのかが分からないという課題があった。それが今後、Tappinessを通して、自販機の売上向上とデジタルのマーケティング活動という、2つの目的をもったデータ分析が行われることになる。
「いままでのオフライン施策は規模が大きすぎて、コストがかかり過ぎた。それが、LINEビジネスコネクトは利用料ベースの支払いのため無駄がなく、より的確にターゲティングできる。デジタルで365日マーケティングを行っていきたい」と島袋氏は語った。
自販機を活かしたデジタルマーケティングは、日本コカ・コーラ株式会社が自社アプリを開発し、ダウンロードを前提としたプロジェクト「Coke ON(コーク オン)」が先行している。コカ・コーラの豊浦洋祐氏は、「本質的で直感的なデジタルマーケテイング」が消費者のアテンションを獲得するポイントだと以前のDIGIDAY[日本版]による取材で述べた。キリンの今回のサービス施策は、自社アプリではなく、外部プラットフォームと連携することで認知拡大を図る。
なお、LINEにとってもLINE Beaconは新しい技術だ。13日に実施された記者会見において、LINEの出澤剛社長は、「オンラインとオフラインをシームレスにつなげることができるのが、LINE Beacon機能。今回の施策で、この機能をさらに広めていきたい」と語った。誰もが使っているLINEプラットフォーム活用という手軽さで、どれだけ「コーク オン」を追い上げることができるか注目だ。
Written by 中島未知代
Image from KIRIN YouTube