まるでラグジュアリーブランドのようにマーケティング展開されるビールがある。キリンの「ハートランド」だ。
通常、一般的なビールのマーケティングは、テレビCMなどを通してマス向けに実施されることが多い。マスマーケティングと営業力との掛け算で拡販する消費財だからだ。
しかし、同じ商材であっても、特にこだわりの深いファンを抱えるハートランドのようなブランドに、それはふさわしくない。一度に多くの人へメッセージを届けるよりも、ブランドストーリーを「狭く深く」訴えかけることが効果的だからだ。
そこでキリンは、ブランドストーリーをにじませるYouTube動画を軸に、提供店舗における対面対応も組み込んだ、一連のプロモーション「SLICE OF HEARTLAND」を企画した。キャンペーンを担当した、同社デジタルマーケティング担当の田代美帆氏は、あくまで「プロモーションらしくしないことを心がけた」と語る。
まるで高級ブランドのようにマーケティング展開されるビールがある。キリンの「ハートランド」だ。
通常、一般的なビールのマーケティングは、テレビCMなどを通してマス向けに実施されることが多い。マスマーケティングと営業力との掛け算で拡販する消費財だからだ。
しかし、同じ商材であっても、特にこだわりの深いファンを抱えるハートランドのようなブランドに、それはふさわしくない。一度に多くの人へメッセージを届けるよりも、ブランドストーリーを「狭く深く」訴えかけることが効果的だからだ。
そこでキリンは、ブランドストーリーをにじませるYouTube動画を軸にした、一連のプロモーション「SLICE OF HEARTLAND」を企画した。キャンペーンを担当した、同社デジタルマーケティング担当の田代美帆氏は「お客様である飲食店との一対一の関係づくりを大切にしようとした結果、『プロモーションらしくない』キャンペーンになった」と語る
100枚のオリジナルポスター
キャンペーンの主人公は、架空の木「ビッグツリー」。ハートランドのロゴに描かれた大樹だ。デザインを手がけたのは、国際的に高い評価を受けているクリエイターのレイ吉村氏。ニューヨークの画家、ラジャー・ネルソン氏が描いた、イリノイ州の穀倉地帯の木をモチーフにしているという。
キリンは、このビッグツリーを3DCGで立体化し、100枚の断面図としてヴァーチャルに切り出した。「その年輪ひとつひとつを17人のアーティストが手描きイラストに起こし、100枚のポスターに落とし込んだ」と、田代氏は説明する。クリエイティブのブレが生じないよう、アーティストの三宅瑠人氏がディレクションしたポスターはすべて、1枚限定のオリジナル。ひとつとして同じものはない。
こだわり深いオーナーと顧客
このように単なるポスターを超えて、まさにアート作品として仕上がった100枚のポスターたちは、選ばれた100のハートランド提供店舗に株分けされた。そもそも、この提供店舗のオーナーたちもハートランドの「愛好者」である。そのため、店舗づくりへの情熱も深く、アート作品との相性がいい空間・サービスの提供に余念がない。
そこに集まる顧客もやはりライフスタイルに強いこだわりをもつ。しかも、ビアホールのようなお酒を囲む空間では、スタッフとユーザーの距離は近い。「ハートランドを好むライフスタイル」という共通項をもつオーナーと顧客の間には、きっと新しい会話が生まれるだろう。「あの年輪のポスターは何?」と。
動画でストーリーテリング
そこで登場するのが、YouTube動画だ。音楽を著名ミュージシャンの曽我部恵一氏が担当し、文化庁メディア芸術祭新人賞受賞の映像ディレクター新井風愉氏が監督するビデオで、このキャンペーンの全容を語らせる。
「キリンはオーナーさんとの一対一のコミュニケーション、ブランドの絆づくりを重視している。デジタルのなかでも、『インプレッション数がいくつだ』というようなコミュニケーションは、ハートランドにふさわしくないと思った」と、田代氏。一見遠回りなアプローチだが、しかし、だからこそ深くユーザーとエンゲージできるのだろう。
ブランド構築との親和性
さらに田代氏は「お店の世界観を重視し、ポスターのハートランドのロゴは小さくした。手描きで店名と切断面の箇所を記す番号を振って、提供店舗に配布している。ハートランドを好きになってもらうためには、このように手をかけて制作したものがいい」と振り返る。プロジェクトの企画・制作に費やした期間は14カ月に及んだという。
ブランドの象徴である架空の木を再現し、100枚の年輪の絵画を、提供店舗で展開する。その過程をデジタルビデオに収めた本動画は、濃密なブランド体験そのものだ。直接的な購買ではなく、長期的なブランドへのエンゲージメントを重視したマーケティングは、デジタルビデオとの親和性が高い。
ファンへの「はからい」は、ほかにもある。プロジェクトサイト「SLICE OF HEARTLAND」により深い体験を盛り込んだという。「キャンペーンに共感した人が、じっくりとイラストを拡大して手描きの年輪を楽しめるコーナーを用意している。瞬発的なアテンションではなく、より愛着を感じてもらうようにした」。
アートを感じさせるキャンペーン
2015年9月にローンチされた本キャンペーン。2016年の展開について、田代氏は「この動画は最初の一歩。ハートランドは2016年に、30周年を迎える。今後はさらに新しいデジタルキャンペーンを打っていきたい」と語る。
1986年、六本木にあった伝説のビアホール「つた館」のハウスビールとして誕生した「ハートランド」。その店内は、手描き制作のポスターや多数のアート作品で埋め尽くされ、「オーセンティックなギャラリー」とも言えるビアホールだったという。「SLICE OF HEARTLAND」には、そうしたアートな空気感が存分に注ぎ込まれているのだ。
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