キリン の新データ戦略:すべては「濃い、継続的なブランド体験」のため

キリンのデジタルマーケティングは、新たなフェーズに入ったようだ。デジタル空間にとどまることなく、オン/オフをまたいだ施策の実行に深くコミットしはじめている。

キリンホールディングス株式会社 デジタルマーケティング部 アソシエイトの鈴木 章吾氏は7月16日、トレジャーデータなどが主催するイベント「PLAZMA 2019 KANDA」に登壇。「キリンの新・データ戦略 ~オウンド活用のその先へ~」と題したセッションで、2019年度に刷新した同組織のミッションと、それに基づいた新たな取り組みについて語った。

「2019年は、これまでのデジタルマーケティングの取り組みを再定義し、デジタルROIを本気で高めていきたいと考えている」と、鈴木氏は意気込む。そのキーワードとなるのが、リアルデータと購買データの活用だ。

デジタル活用領域の拡大

キリンのデジタルマーケティング部は、グループの持ち株会社であるキリンホールディングス内に設置されている。これまでは、オウンドメディアの運営と、グループを横断した各ブランドのデジタル広告運用や、キリンの自社ECの運営を行なってきた。しかし最近は、事業会社のマーケティング部門にその機能を移管し、デジタルマーケティング部のサポートなしで、各々が自走しはじめているという。

では、デジタルマーケティング部の次なる役割とは何か。鈴木氏が掲げるのが「デジタル活用領域の拡大」「デジタルによるソリューションの開発」「デジタル人材の継続的な育成/確保」だ。既存の取り組みに加え、これら3つの取り組みを実施することで、キリングループ全体のデジタル化を推進していくという。

「『顧客のインサイトを深く理解し、食と健康の領域において、デジタルの力を用いた顧客接点の最適化を実行する』これが我々の新たなミッションだ」。

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「キリンのデジタルマーケティングは、節目を迎えている」と鈴木氏


乾杯の瞬間もデータ化

そこで、キリンのデジタルマーケティング部が取り組んでいることのひとつが、自社DMPのリニューアルだ。DMPの構築がスタートしたのは2015年。以来、トレジャーデータのCDP導入や、オウンドメディアでの出し分けなど、試行錯誤を繰り返してきた。しかし、それでも「オンライン上のデータだけでは、できることに限界がある」と鈴木氏は語る。

続けて同氏は「これまで我々は、オンライン上のデータを集めて、オウンドメディアやメール施策、広告のリターゲティングといったオンラインコミュニケーションの最適化に活用してきた」と語る。「しかしそれでは、『買う・飲む・参加する(イベント参加など)』といったリアルな場面でのインサイトが可視化できない。リアルデータと購買データを収集、活用することで、コンビニでビールを買う瞬間、居酒屋で乾杯する瞬間をデータで捉え、顧客ニーズの解像度を上げていきたい」。

キリンでは現在、コンビニやスーパーなどの量販店、飲食店やビール工場見学・ワイナリー来訪、イベントなどに訪れる顧客データの拡充を積極的に行なっている。加えて、DMPのカテゴリフラグも、旧来の「ビール」や「ワイン」といった大きな括りに加え、「クラフトビール」や「ノンアル」など、より細かなカテゴリを新規で追加。接点のデータ化を強化するだけでなく、より詳細なニーズの把握にも努めているという。

濃い、継続的なブランド体験

当日、その代表的な事例として紹介されたのが、キリンの展開するクラフトビールにおける、メール施策の進化だ。クラフトビール市場はキリンが重視しているカテゴリーのひとつ。しかしこれまで、クラフトビール戦略を掲げながらも、メールマーケティングに関わらずワンショットの施策に終わってしまうなど、顧客の「真の姿」をとらえるための、継続的なコミュニケーションが不十分であった。

そこで同社では、オンラインデータに、購買接点やリアル接点で収集したデータを、顧客IDをベースに統合。持続的にマーケティング施策に活用できる環境を構築した。そして、統合したデータを活用したメール施策では、通常よりも開封率が3倍、クリック率は4倍まで向上するなど、高いパフォーマンスを残すことに成功した。「オンライン上のデータだけでは実現できない、継続的な濃いコミュニケーションを醸成できた」と鈴木氏。将来的には、リアル店舗でのクラフトビールの購入者や、店舗に来店した顧客データも利用も考えているという。

「こうした事例は、確かにスケールは小さい。しかし、我々が実現したいのは『濃いブランド体験』の醸成だ。『濃いブランド体験』はやはりデジタルだけでは実現が難しい。幸いキリンは、オンラインもオフラインも多くのタッチポイントを持っている。これらの利点を最大化し、ミッション達成に邁進していきたい」。

Written by Kan Murakami
Photo by PLAZMA(記事中)