カネボウ化粧品の「リサージ(LISSAGE」は、長く消費者に愛されてきたスキンメインテナイザーを主力とするスキンケアブランド。来年、25周年の節目を迎える。リサージブランドマネージャーの荻野智子氏は、「不特定多数に向けたブランディングから、個人に向けたブランディング」へマーケティング戦略をシフトしていると語る。
25年という歳月は、マーケティングのあり方を大きく変えた。
カネボウ化粧品が販売する「リサージ(LISSAGE)」は、長く消費者に愛されてきたスキンメインテナイザーを主力とするスキンケアブランドだ。このロングセラー商品が来年、25周年の節目を迎える。四半世紀という時間は、女性の労働環境だけでなく、彼女らをターゲットにしたスキンケア商品のマーケティングにも多大な変化をもたらした。
カネボウ化粧品においてリサージブランドマネージャーを務める荻野智子氏は、「不特定多数に向けたブランディングから、個人に向けたブランディング」へマーケティング戦略をシフトしていると語る。
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季節ごとのトレンドで入れ替わる化粧品とは異なり、長く活用することで良さを実感できるスキンケア商品。そのデジタルマーケティングは、いかに実施されているのか? 荻野氏のインタビューを一問一答形式で紹介する。
――25周年のリサージ。そのブランディングは、どう変化しましたか?
化粧水と乳液の効果を1本に凝縮したリサージのスキンメインテナイザー。発売された1990年代前半は、男女雇用機会均等法が制定されて間もないころで、女性が働き続けられる環境に対して、世の中の期待が高まった時期でした。
それまで、リサージのようなスキンケア商品が流通されていたのは、主に個人経営の店舗が中心。ところが、この25年のあいだに、ドラッグストアや駅ビルを中心に商品を展開できる企業店ができ、お客さまの買い場が大きく変わりました。さらにネット通販など、さまざまな新しい購入経路も生まれ、当時のようなブランディングでは通用しなくなったと思います。
――その課題解消に、どんな方針を立てているのでしょう?
流通の多様化により表出した大きな課題は、ブランドイメージが分散してしまったことです。そこで、従来の「皆に好かれるブランド」ではなく、「ターゲット層にとって欠かせない具体的なベネフィットを提供できるブランド」と再定義し、個性を尖らせないとお客さまにとって分かりづらいと考えました。
さらに、分散したブランドイメージを一本化するため、今年ブランドサイトを大幅にリニューアル。プロダクトを使用している人の生活を感じさせるようなサイトにしました。
また、我々の考えるターゲットは「スマートシンプル層」。忙しくても賢く効率よく綺麗になりたいという方です。リサージの主力アイテムは、「個肌」をテーマに一人ひとりに最適なものを紹介する、3つの価格帯および14種類の化粧液スキンメインテナイザー。カウンセラーとともにきちんと選んでいただくものとなっています。
――佐藤可士和氏がブランディングに参画されていますね。
佐藤さんにはブランドサイトのリニューアルに際しても、全体的なディレクションを行っていただきました。2005年からのお付き合いで、ブランディングディレクションから、広告などについても相談しています。
彼は、何を残すべきで、そのために何を削ぎ落とすべきかを、常に考えていらっしゃる方。そうした視点を共有することで、ブランドメッセージがブレないようにしています。
――リサージが取り組んでいる、主なデジタルマーケティング施策は?
ビジュアルを変更するような大きなプロモーションを実施するときは、ディスプレイ広告を実施していますが、いまはコンテンツデリバリーを行なうことが多いです。記事広告に対して、ディストリビューションで誘導広告を入れるなどですね。
また、毎月「スマートニュース」にも出稿しています。ブランド商品を強く訴求していない広告を定期的に出して、認知してもらうことが目的です。
それに、ちょうどいま、女性メディア「gene」にて、ブランドチャンネルというメニューを実施しています。これは、記事広告を6本連載して、それを格納する特別ページをメディア内に設けるというものです。
――オウンドメディアではなく、ブランドチャンネルを選んだ理由は?
今回「gene」に求めたのは、リサージのキーワード「個肌」を軸に、ライフスタイルを含めたストーリーを展開し、ターゲット層をより明確にして読者に届けること。しかも、連載という塊で、既存メディアの読者にリーチできるので、自社のオウンドメディア以上の効果を期待できます。
現代は、デジタルで自分に必要な情報を優先的にカスタマイズして受け取れる時代。忙しい女性に向けて、リサージが掲げるパーソナライズドというブランドの特性と、デジタルでパーソナライズドされた広告展開、つまりターゲットに向けてカスタマイズされたスポンサードコンテンツは、親和性が高いと思っています。
効率よく綺麗になりたいというのは女性のニーズですが、肌だけキレイになればいいというわけでもありません。そこで、「gene」のブランドチャンネルではニューバランス様とコラボし、ボディケアのためのランニングや快眠ヨガもご紹介しました。より良い自分を作りたい、前向きな女性をターゲットにしたのです。
――消費者データはどのように入手し、活用していますか?
定量調査を定期的に実施しており、グループインタビューやデプス調査も頻繁に行っています。顧客がどのような認知経路を辿って、店舗でどのような刺激があったからプロダクトの購入に至ったのかを調べていますね。
そんななか、消費者は購入前にデバイスで入念に下調べをし、評価サイトで自分と似た人の評価を見て定期的に購入しているということがわかりました。そうした認知経路の過程で評判形成を行なうため、定期的にモニターキャンペーンも行なっています。
また、DMPも実装しており、記事広告のコンテンツデリバリーを行うときに、ターゲティングに利用しています。リサージ・メン(LISSAGE MEN)をローンチしたとき、興味関心のありそうな他社ブランドのターゲティングをひたすら行ったところ、ダイソン様と親和性が高いことが分かりました。家電製品にこだわる人と相性が良いのかもしれません。
――ソーシャルメディア活用は行っているのですか?
ソーシャル運用については、現在取り組んでいるところです。リソースが限られるため、適した人材を育てられないという課題もあります。ソーシャルは共感を可視化できるメディア。リサージとしては、どのように共感を貯めていけるかを模索しているところです。ソーシャルに広告出稿するよりも、ネイティブなユーザーの体験をどう創出していくか、UGC(ユーザー生成コンテンツ)をどのように貯めていくかを考えています。企業発信ではなくユーザー自身がブランドや商品への共感を発信してくれることが理想です。
――ということは、インフルエンサー活用も?
現在、企画が進行している最中です。社内で好事例の多いインフルエンサーによるメイクトレンドの発信は、フロー型コンテンツになるのに対して、リサージが中心的に扱うスキンケアは商材の特性的にストック型コンテンツとなるため、やり方が違ってくる。インフルエンサーと一緒にストック型のコンテンツの作り方を考えています。
――販売員のノウハウを、デジタルで蓄積しているブランドもいます。
具体的には言えませんが、そうした方法論はリサージも活用しています。どのような活動をすれば実績が上がるかという傾向はつかんでいますが、それだけでは味気がない。その部分は流通の力を借りながら、人の心を動かせるような取り組みを行っています。
しかし、販売員の魅力があることは良いことですが、それを超えたブランドの価値を消費者にご理解いただきたいと考えています。また一方、リサージに期待されるカウンセリングの品質管理も重要と考えています。
そのため、店舗でのリアルなカウンセリングの質を平準化することに注力しています。そうした意味でも、来年の25周年はカウンセリングの研修の骨格を作り直す時期だと思っています。
――マス広告に対しては、どんなことをお考えですか?
マス広告だけではなく、いかに実際の体験であるとか、パーソナルに情報を届けるWebと組合せられるかが、いまマーケターに求められている課題だと思います。ブランド企業はマスコミュニケーションだけに頼る時代ではないと思います。
▼荻野智子
株式会社カネボウ化粧品 リサージブランドマネージャー1963年、大阪府生れ。同志社大学法学部法律学科卒業。大阪での営業を経て、本社商品開発部に異動。ブランシール、トワニー、ルナソルなど多くの商品開発に携わる。1992年リサージ上梓にあたり、商品開発担当として参加。1998年㈱リサージ マーケティング部に転籍。商品及び美容情報開発を担当。2014年㈱カネボウ化粧品マーケティング部門カウンセリングブランドグループに復帰。リサージ ブランドマネージャーに就任。
Written by 中島未知代
Photo courtesy of 渡部幸和