先日来日した米アドビ システムズ マーケティング担当バイスプレジデント、ジョン・メラー氏への独占インタビューをもとに、DIGIDAY[日本版]が書き起こしたコラム。これからの時代のマーケターは、ユーザー体験の専門家であり、「エクスペリエンス・リーダー」でなければならないと説く。
また、これはマーケティング部門に限った話ではなく、日本の持つ文化的な強みを今後のビジネスに活かすためには、企業全体としてカスタマー・エクスペリエンス中心に変革していかなければならないということでもあるという。
この記事は、先日来日した米アドビ システムズ マーケティング担当バイスプレジデント、ジョン・メラー氏への独占インタビューをもとに、DIGIDAY[日本版]が書き起こしたコラムとなります。
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はじめに、これだけは言っておきたい。これからのマーケティングにおいて、もっとも重要な要素はユーザー体験、すなわち「カスタマー・エクスペリエンス」であるということだ。
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結論を先に言ってしまうと、「ある顧客が自社をどのように見つけてくれたのか、どのようにして我々の製品を試し、購買に至ったのか」。そして「その製品やサービスを使うことによって、どんな成果を上げただろう、どうしたらもっと買ってくれるだろう…」という関係性を見極められる人こそ、これからの時代に求められる理想的なマーケター像なのだ。むしろ私は、そういう人こそが企業のCEOであるべきだとさえ考えている。
ここでは、カスタマー・エクスペリエンス中心の時代において、マーケターやブランド企業がどういった変革をしていくべきかについて、グローバル・マーケティングの潮流を踏まえた上で、日本の皆さんにお伝えしたい。
エクスペリエンス主導時代
今日のブランドマーケティングは、ただ広告キャンペーンを作ることではない。広告、営業、製品、サポートといったそれぞれの部門が作ってきた小さなユーザー体験を、全部つなぎあわせて提供するものへと変化しつつある。
たとえば小売業界では、リアルとオンラインストアでユーザー体験に矛盾があってはならないし、自動車などのプロダクトの世界でも、先進的な企業ではディーラーでの体験、購買体験、車の使い勝手そのものから、オイル交換、サポートに至るまで、あらゆるユーザー体験を統合的に改善する取り組みを進めている。
これはすなわち、縦割りの組織構成から脱却し、マーケティング部門だけでなく、企業全体としてカスタマー・エクスペリエンス中心の組織へと変革しなければならないということを意味する。言い換えれば、こうした企業文化を変えることの難しさが、マーケティング上の障壁(バリア)になり得るとも言えるのだ。
「エクスペリエンス・リーダー」という存在
このように、統一されたユーザー体験に関する規律が生まれつつある昨今、マーケティングの定義そのものが大きく変わっていくことになるはずだ。ここで必要となる人材こそ「エクスペリエンス・リーダー」である。彼らは、マーケティングはもとより、一部のプロダクト開発やサポート業務にも関与し、良質なユーザー体験を作り上げていくことになる。
この領域では、マーケティングの原則が重要になることもあり、今日のマーケティング担当者は、やがてエクスペリエンス担当者へと変化していくだろう。しかしながら、エクスペリエンス・リーダーになるために必ずしもマーケティング業務の背景は必要ない。事実、ITの担当者がエクスペリエンス・リーダーの役割を担っている企業もあるくらいなのだから。
そういったほかの職種との競争もあって、これからの時代のマーケターを育てようと思った場合、彼らにはマーケティングの枠組みから飛び出してきてもらう必要がある。タイム・ワーナー・ケーブルなどの米大手パブリッシャーの採用においても、マーケターを雇う際には業界の経験などは考慮せず、カスタマー・エクスペリエンスとは何かを理解している人が欲しいという話が聞かれるようになってきているのが、その証左だ。
日本のマーケターの強み
ここで日本に目を向けてみると、日本独特の「関係性を重んじる」文化は、これからのマーケティングにおいてプラスに働くものとして注目している。マーケター自身が自然な感覚として、顧客との関係性を理解している、ということは、エクスペリエンス主導時代において大きな強みとなるだろう。
その一方で、日本の組織は他の国とはマーケティングのあり方が大きく違っているように感じられる。米国その他の地域ではまずマーケティングありきで、それに付随して広告や販売促進を展開していくが、日本企業のマーケティング・チームの多くは、広告や販売促進の部門の下位に位置付けられている。ポジションそのものが逆転しているのだ。
そのため、まず日本のマーケターたちにとっては、自分たちの立ち位置をより戦略的なポジションへと切り替えていくことが重要なテーマとなるだろう。コストのかかる部門として敬遠されがちなマーケティング部門も、戦略的ビジネスドライバーとして認識されるようになれば、投資の内容が変わってくるはずだ。
また、これはマーケティング部門に限った話ではなく、日本の持つ文化的な強みを今後のビジネスに活かすためには、企業全体としてカスタマー・エクスペリエンス中心に変革していかなければならないということでもある。
ジョン・メラー / John Mellor
アドビのデジタルマーケティング事業部に関する戦略、ビジネスディベロップメントおよびマーケティング担当バイスプレジデントとして、Adobe Marketing Cloudの戦略を率いている。
(文:ワタナベダイスケ)