一部ブランドにとっての仮想現実(VR)はPR用のギミックだが、英自動車ブランド、ジャガー(Jaguar)にとっては、成果に結び付くテクノロジーだ。
今年のウィンブルドントーナメントでジャガーは、同ブランド初のVRキャンペーン「#FeelWimbledon」を展開した。同トーナメント男子シングルスの優勝者であり、ジャガー大使も務めているアンディ・マレー選手になって、ウィニングショットを決める体験をユーザーに提供するキャンペーンだ。
一部ブランドにとっての仮想現実(VR)はPR用のギミックだが、英自動車ブランド、ジャガー(Jaguar)にとっては、成果に結び付くテクノロジーだ。
2016年のウィンブルドントーナメントでジャガーは、同ブランド初の大型VRキャンペーン「#FeelWimbledon」を展開した。同トーナメント男子シングルスの優勝者であり、ジャガー大使も務めているアンディ・マレー選手になって、ウィニングショットを決める体験をユーザーに提供するキャンペーンだ。
テニス選手になれるVR動画
ジャガー・ランドローバーUK(Jaguar Land Rover UK)で広報担当責任者を務めるロバート・ハード氏によると、この動画は6月半ばの公開以来、9700万インプレッションを獲得しているという。ジャガーの目標は5000万だった。
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「我々のライバルたちの念頭にあるのは、エンジニアリングに対する、どちらかと言えばドライな礼賛だ。#FeelWimbledonが大きな成功を収めたのは、感覚や感情、体験を非常に大切にしているからだ」と同氏は語る。
動画のなかで視聴者は、オールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブ(AELTC)の敷地(数カ所にF-PACEモデルが戦略的に配置されている)の上空を飛び、センターコートに着地する。マレー選手のクローズアップショットのあと、視聴者の視点は、1万4000人のファンの前でトーナメントのウィニングポイントを決めるマレー選手の視点へと切り替わる。
VRに傾倒するジャガー
この動画はオンラインだけでなく、現実世界にあるいくつかの地点でも視聴できた。たとえば、ロンドンにあるウォータールー駅の利用者も、選手権期間中にこの動画を体験できたという。それに合わせてジャガーは、2万個の「Google Cardboard」ヘッドセットを配布。同時に、トーナメント期間中の「ミドルウィークエンド」には、イギリス国内104カ所にある同ブランドのショールームでもVRヘッドセットを配布している。
これらの店舗は、2014年にジャガー・ランドローバーがIBMとパートナーシップを結んで以来、VR技術のホームグラウンドとなった。サムソン(Samsung)の「Gear VR」ヘッドセットを装着したユーザーが、選んだモデルをリアルタイムでカスタマイズできる仮想デモスペースが設置されたのだ。
また、同ブランドは「ディスカバリースポーツ」モデルの発表でも、VR技術をトライ。ショールームに置かれたマーカーとなる「箱」を、ユーザーがヘッドセットを通して見ると、ディスカバリースポーツモデルのクルマへと変身する。ユーザーは、このVRモデルの周囲を歩きながら、その機能のデモも見ることもできた。
「VRを活用することにより、ローンチサイクルの初期段階でクルマのデモが可能になる。VRは製品体験のための確かな手段だ」とハード氏は説明。ジャガーが「チャレンジャーブランド」としての地位争いを演じているさなかにおいて、これが同ブランドへの予約注文を後押ししてくれたと同氏は付け加える。
投資の価値はあるのか?
しかし、VRは安くない。#FeelWimbledonキャンペーンは、エージェンシーのスパーク44(Spark44)とハンマーヘッド(Hammerhead)と組んで、3カ月におよぶ作業を要した。マレー選手に加えて、制作チームはクルマ、そして脇を固める総勢1万4000人の観客もスキャンした。
「非常に大がかりな仕事」だったことをハード氏は認めているが、そのROI(投資利益率)は──同社が実施しているすべてのVR活動と同じく──ジャガーの拡大するマーケットシェアによって証明された。ジャガー・ランドローバーの2016年前半の売上は、昨年同期と比べて24%増加しており、ハード氏によると、VRがその成長に大きな役割を果たしたという。
同社は2007年からVR技術をデザインプロセスにも活用してきた。このビジュアルデータが同社のマーケティング活動に有用であることは実証済みだが、これを使うことで、製品が工場から出荷される前に超リアルなイメージを伝えることもできる。
VRが販売促進の根幹に
ジャガーは小売店でのVRの活用を継続する意向だが、その一方で、同ブランドのオンライン体験におけるVRの比重を拡大することにも目を向けている。ハード氏は詳細こそ明らかにしなかったものの、同ブランドにとってVRは、今後の製品発売の「根幹」になるだろうと述べた。
「パーソナル化の機会に目を向けるなら、ブランドオーナーにパーソナル化されたソリューションを提供するためにソーシャルメディアが利用してきたものを、どのように家電メーカーが利用するのか、今後が楽しみだ」とハード氏は語った。
Grace Caffyn (原文 / 訳:ガリレオ)