パンデミックの第3波のなか、クロロックス(Clorox)の殺菌ウェットシートは人気商品で、在庫不足は新年まで続くと予想されている。同社のD2C部門ゼネラルマネージャーを務めるジャクソン・ジェヤナヤガム氏は、この(需要増から来る)優位は新しい人材の雇用力にも良い影響を与えていると述べた。
パンデミックの第3波が勢いを増すなか、クロロックス(Clorox)の殺菌ウェットシートは依然として人気商品であり、在庫不足は新年まで続くと予想されている。この大きな需要は同社全体の売上高の増加につながっており、株価は今年に入って3分の1上昇した。
クロロックスのD2C部門ゼネラルマネージャーとして、新規のデジタル・ベンチャー事業やブランド群を統括するジャクソン・ジェヤナヤガム氏は、この(需要増から来る)優位は新しい人材の雇用力にも良い影響を与えていると述べた。
米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)のポッドキャストに出演したジェヤナヤガム氏は、「私はクロロックスの人間として、NetflixやAirbnb、ワービーパーカー(Warby Parker)、ペロトン(Peloton)の社員を移ってくるように呼び込もうとしているが、クロロックスのことをD2Cと捉えている人なんていない」と語った。「優秀な人材を雇うのは簡単なことではない。しかし、(雇用を巡る)状況はちょうど12カ月前とは似ても似つかない」。
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今回のポッドキャストで彼は、採用へのアプローチ、クロロックスがD2Cチャンネルを構築するために試している新しい方法、そして同社が新しい分野や製品ラインをどのように検討しているかについて話した。
たとえば、クロロックスの子会社バーツ・ビーズ(Burt’s Bees)は最近CBD(カンナビジオール)を含むプロダクトラインを立ち上げたが、それはいくつかのユニークな課題をもたらした。一部のマーケティングチャンネルは大麻ベースの製品には利用できず、また製品自体もアメリカのなかでも25州でしか販売できないとジェヤナヤガム氏は言う。「それにもかかわらず、市場は飽和状態になっている。雑音が多く、市場には劣悪なプレイヤーがたくさんいる」。
本稿では、この会話のハイライトをいくつか紹介する。以下、読みやすさのために若干の編集を加えている。
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カスタムD2Cテックスタックの構築について
「私が最初にやりたかったのは、ブランドを最終的にマジェント(Magento)やセールスフォース(Salesforce)のような外部のクラウドソリューションから外して、カスタムのテックスタックに移すことだった。ショッピファイ(Shopify)も使いたくなかった。それは規模、コスト、多くの理由からだ。私は自社の製品リリースの計画をコントロールしたいと思っていたし、自分たちが望む機能を構築したいとも思っていた。また、プラットフォームに依存したくはなかった。そのため、自分たちで構築した。プラットフォームを構築するのにある程度のリスクは伴うが、既存のブランドを移行することもでき、逆にまったく新しいブランドを構築することもできる。それによって、クロロックスやほかの消費財ブランドに、イノベーションを繰り返し、育成するプロセスのひとつのあり方を見せることができる」。
「消費財プロダクトの場合、イノベーションとは通常、異なる香り、異なるパッケージサイズ、そして異なるバリエーションといった形で現れる。それはただ『まったく新しいブランドとまったく新しいサイトを立ち上げる』ことではない。そこで、私はいくつかのことを実行したいと思った。コマース用のプラットフォームとしてのテクノロジーの責任と安定性をテストすること。また、ブランド構築のプロセスを繰り返し、5年後には4つのブランドを立ち上げて、そのポートフォリオのうちの2つが失敗しても、ほかの2つを成功させられると証明することだ。ちなみに、大規模な調査会社を起用して1年半かけて調査を実施し、プロダクトを全国的にローンチさせて失敗をする、といった(従来の)プロセスと比べて、はるかに少ない資金を使っている」 。
クロロックスにとっての人材市場の変化
「とても、とても大変だった。そしてパンデミックが起きた。4月の段階まででは、まだ積極的に採用を進めていた。ご存知のように、多くの会社は積極的な採用をしていなかった。5月になると、多くの企業が解雇をし始めていた。優秀なスタートアップからも人材は解雇されていた。多くの優れたスタートアップが何らかの人員削減を始めており、これは酷い状況だった。(パンデミック)前に人々に面接したときは『(ジェヤナヤガム氏と)一緒に働きたいと思う。あなたの仕事は好きだ。ただクロロックスという会社を理解できてないんだ』と言われた。彼らは私が以前一緒に働いたことがある人たちや、ほかの会社で以前私が雇ったことのある人たちだったが、それでもクロロックスに移るよう説得することができなかった。しかし、その少なくとも半分はパンデミックから2カ月以内に私に連絡してきて『まだ(人材を)探しているのか? 実は興味がある。国がどこに向かっているのか、そしてクロロックスという会社が持つチャンスに気付いた。とても面白い状況だ』と述べた。私は彼らを責めるつもりはない。同じ状況なら私も同じことを言っただろう」。
「私自身もクロロックスに移るのは難しい判断だった。それを考えると、クロロックスを舞台にした3段階の寓話のようだ。最初に私がやって来たとき、次に私が幹部たちを採用したとき、それからパンデミックが訪れたあと。簡単だとは言わない。優秀な人材を雇用するのは決して簡単ではない。しかし、12カ月前に求人を出して自分が求めていたほどの人材が得られなかったときとは似ても似つかない」 。
ゆっくり進めて、物事を壊さないこと
「スタートアップには常に『早く動く』という意識がある。『早く動くことが差別化のポイントだ』という意識だ。それは事実かもしれないが、ときにスタートアップは早いこと自体が目的となってしまうことがある。少し足を止めて『なぜ私たちは早く動いているのか。私たちは本当に速く動く必要があるのか』と考えることをしない。というのも、速いスピードで移動し続けると、物事を見落とすことがあるからだ。それは避けられない。だから、スタートアップのなかには、何も考えずに早く動いてしまうこと自体が問題となっている所があると思う。私たちが自らに問いかけたのは『この件に関して、早く進める必要があるのか。もし私たちが7月ではなく10月にローンチすることになったら、最悪の事態が訪れるのか』ということだ。そして、早く動く必要がないことを理解した。ランダムに割り当てられた日付目標を達成するために駆け足で進めるのではなく、時間をかけて成功させることを選んだ。正しく仕事を行うことに2カ月余分な時間をチームに与えたことで、自分も正気を保てた。実際、私には白髪がたくさんあるが、いくばくか黒い髪をキープすることができた」。
CBDプロダクト・ラインをローンチするための学び
「バーツ・ビーズは、非常に細かいデザイン、見た目、観点を持つブランドだ。15歳の人なら誰でも知っている。バーツ・ビーズが大好きなティーンエイジャーの甥や姪が私には何人もいる。また50歳の人も皆、このブランドを知っている。複数の世代にとって関連性を持っているという点で、とても面白いブランドだ。これを達成するのは、消臭剤や石鹸といったプロダクトでなければ非常に難しい。ブランドがしっかりと存在しているため、面白いと思った。我々はブランドを再発明するつもりはない。しかし『D2Cコンバージョン、ファンネルの最適化』という視点からブランドに関連性を持たせるにはどうすればよいのかを考え出すのが我々の目標だった。大量の試行錯誤があった。ブランド自体について学ぶ必要があった」。
「2点目には、特に具体的に複数のマーケティングチャンネルが使えない場合、CBDをどうやって立ち上げるか、という課題がある。マーケティングをさせてもらえない。それにもかかわらず市場は飽和状態となっている。雑音も多いし、劣悪なプレイヤーも多い。法的には約束できないような効果を謳う粗悪なブランドがたくさんある。第3に、どうやって発送するか、という問題がある。ニューヨークにいる人は入手することができない。彼らはサイトを見ることはできるが、プロダクトを受け取ることはできない。では、どのように消費者が持つ期待をコントロールすればよいのだろうか。これは大変な勉強が必要だった。正直なところ、私たちはまだ学んでいる最中だ」。
[原文:‘It’s never easy’: Clorox’s Jackson Jeyanayagam on hiring DTC talent in a post-pandemic world]
Pierre Bienaimé(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)