日本企業のマーケターは、変革にどう立ち向かうべきか?:JAAセミナー レポート

2018年、マーケティング業界における生き残りは、変化への対応力にかかっている。

WFA(世界広告主連盟)およびJAA(日本アドバタイアーズ協会)は12月5日、コートヤード・マリオット銀座で「『WFAグローバルマーケターウィーク』日本開催決定記念セミナー」を開催。2018年5月にマーケターの国際会議「WFAグローバルマーケターウィーク」が日本で初開催されることを告知する事前セミナーだ。

そのなかの「今、知っておくべき激動する世界のマーケティング潮流」と題したパネルでは、ネスレ日本 専務執行役員/CMO・石橋昌文氏、インフォバーン 代表取締役CEO・今田素子、資生堂ジャパン コミュニケーション統括部長・小出誠氏、フライシュマン・ヒラード・ジャパン シニアバイスプレジデント&パートナー・馬渕邦美氏が登壇。モデレーターは、元日本アイ・ビー・エム デジタルコンテンツマーケティング部長(現パナソニックコネクティッドソリューションズ エンタープライズマーケティング本部長)の山口有希子氏が努めた。

このパネルで浮き彫りになったのは、マーケティング業界の変革に合わせて、それに関わる各組織がいかに変化を問われているかだ。パネルの内容を、以下にまとめて紹介する。

いまのメディアの課題

まず、メディアの現状として、プラットフォーマーの存在が大きくなりすぎているというトピックが議論された。インフォバーン(DIGIDAY[日本版]の関連会社)の今田は、GoogleやFacebookなどのプラットフォームの台頭により、情報リテラシーが個人判断に委ねられている現状と、広告費の大半がプラットフォーマーに流れ込んでいる状況に危機感を示す。

「コンテンツを作るのはメディア。また精度の高いコンテンツ制作には費用もかかる。コンテンツを持たないが膨大なデータを保有するプラットフォーマーとコンテンツを持つパブリッシャーのあいだでバランスをとる必要があり、良質なコンテンツを届けるためにもパブリッシャー側に広告収入を戻していく流れが必要だ」。

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やワシントン・ポスト(The Washington Post)など欧米のパブリッシャーも、あの手この手で収益源の確保に奔走する。一方のプラットフォーム側は、対策に乗り出しているとはいえ、まだほんの一部の動きにとどまっている。

ジャーナリズムを担保するためにも、この問題は、メディアだけでなく、広告主やプラットフォーマーも含めて全体として議論していくことが求められている。

コンテンツマーケティング

デジタルメディアのなかで、コンテンツマーケティングは注目の話題だ。

「海外では、人口全体の平均年齢が日本より若く、メディアはスマートフォンをはじめとするデジタル媒体で見られている。そういう状況のなかで、デジタル上でいかにブランド広告枠を作るのかが課題であり、そのひとつのやり方としてコンテンツマーケティングがある」と、フライシュマン・ヒラード・ジャパンの馬渕氏は語る。

また、これまでデジタル広告ではコンバージョン偏重の傾向があったが、いかにコンテンツのなかでストーリーを伝え、ブランド認知や顧客のエンゲージメント向上につなげるかが重要であり、その文脈でコンテンツマーケティングの注目度が高まっているという流れがある。

たとえばネスレでは、ふたつのオウンドメディアを立ち上げて消費者とのコミュニケーションを図っている。ひとつは、より深くブランドのコンセプトを伝えるため、YouTubeで長尺のショートムービーを公開するネスレシアター。これまで33本作成し、3300万ビューを記録している。もうひとつは、同社の全ブランドサイトを集約したネスレアミューズで、これまでにおよそ7000万人が訪問、会員数も530万人まで伸ばしている。

ネスレ日本の石橋氏は、「コミュニケーションのプラットフォームとしてオウンドメディアを運用しており、コンテンツを通していかにブランドとのエンゲージメントを高めるかを議論してきた。一定の成果は得ていると実感している」と語る。

追い詰められるエージェンシー

「2017年を見ると、アドフラウドやブランドセーフティの問題の影響を大きく受けた。ビッグブランドが軒並みデジタル広告費を削減している。世界の2大広告主であるP&Gは41%、ユニリーバは59%、デジタルの広告予算をカットした」と、馬渕氏は指摘。それに加えて、前述したデータを保有するプラットフォーム企業の台頭に顧客を奪われている現状がある。

さらに海外ではコンサルティング企業の進出が顕著で、デジタルエージェンシー上位10社のうち、半数がコンサルティングファームだ。コンサル各社は、積極的にデジタル人材を雇い入れ、エージェンシー機能を拡大するだけでなく、経営層とのタッチポイントからメディア広告費の最適化などマネジメントサイドからアプローチしてくる。

一方、ユーザーやコミュニティへの理解が強いメディアはエージェンシーを買収し、自社内でブランデッドコンテンツスタジオを持ち、直接ブランド企業の課題解決を行うケースも増えている。また、グローバルではAIの導入が進んでおり、メディアバイイングやプランニングが自動化される日も近いと予測される。デジタルの世界で各プレイヤーの境界線が曖昧になり、テクノロジーが仲介業の役割を担っていくなかで、2018年もますますエージェンシーの価値が問われることになりそうだ。

デジタルは目的ではない

「デジタル化を進めるうえで、組織的な問題がふたつある。ひとつはデジタル化が目的化してしまうこと、もうひとつはデジタルリテラシーの差が意思決定に影響すること」と述べたのは、JAAのメディア委員会の委員長でもある資生堂ジャパンの小出氏だ。

「広告費の何%をデジタルに割り当てるなど、一律の目標値を掲げるのはナンセンス。デジタルへの投資数値は結果であって、目的ではない。意味のある投資をするべきだと、何度も本社を説得した」と、ネスレの石橋氏も続けた。

また、クリティカルな課題として、事業部とマーケティングや、マーケティングと経営層で方針が合わないというケースもある。この課題に対し、「ネスレではマーケティングはあくまで事業部主体で売上・収益の責任も持っており、マーケティング=経営という観点だ。多くのグローバル企業は同じ構造だろう」と、石橋氏は指摘。

一方、資生堂ジャパンは2017年1月よりこれまでのCMO機能を社長が持つことで、意思決定を効率化させたという。「経営者もマーケティングを理解するべきだ。デジタル単体ではなく、マーケティング全体で見たときにデジタルをどう活用するのかという視点で見なくてはならない」と、インフォバーンの今田も述べる。

グローバルまた日本で、逃れられないデジタルの流れに合わせてアドフラウドやブランドセーフティ、メディアの信頼性の問題は引き続き議論の的となるだろう。このような変化の早い外部環境の潮流に、企業は自社内でのマーケティングの変革やデジタルの捉え方を再度見つめ直してみることが求められているのかもしれない。さらに、ブランド、メディア、エージェンシー、プラットフォーム各社が、連携した動きをとることが期待されている。

JPA-WFAseminar1205、

写真左から、パナソニック山口氏、資生堂ジャパン小出氏、ネスレ石橋氏、フライシュマン・ヒラード・ジャパン馬渕氏、インフォバーン今田

Written by 亀山愛
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