公益社団法人日本アドバタイザーズ協会は2016年9月、テレビ媒体への出稿状況に関するアンケートを行った。その内容について、同団体の電波委員長を務める土橋代幸氏(株式会社トヨタマーケティングジャパン取締役)が、去る18日に開催された事業説明会で披露。「結果は衝撃的だった」と、土橋氏は口火を切った。
テレビCMの神通力もいよいよ弱まっているのだろうか。
公益社団法人日本アドバタイザーズ協会(以下、JAA)は2016年9月、100社を超えるJAA会員社に対して、テレビ媒体への出稿状況に関するアンケートを行った。その内容について、同団体の電波委員長を務める土橋代幸氏(株式会社トヨタマーケティングジャパン取締役)が、去る18日に開催されたJAA事業説明会で披露した。
「結果は衝撃的だった」と、土橋氏は口火を切る。
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テレビ利用停止の声がある:35%
「約60%の会員社が5年後には、テレビ媒体への出稿比率が下がっていると予想。約95%の会員社が、テレビ媒体利用の効果について、社内説明が出来ていないと感じている」と、土橋氏。「さらに、なんと約35%の会員社では、社内において『テレビ媒体の利用をやめたらどうか』という意見があったようだ」。
その原因は、テレビ媒体が説明責任を果たせていない状況にあると、土橋氏は付け加える。だが一方で、約80%以上の会員社が、視聴率データの充実があれば、テレビ媒体への出稿意欲が高まると考えていると補足した。
「1990年代から20数年間、この業界に関わっているが、メディア環境と顧客による購買行動の変化は、ここ数年がもっとも激しく、もっとも急激なものだった。テレビCMの価値向上には、メディアをまたいだ効果指標の開発は欠かせない」。
オンライン送稿が今後のカギ
そんななか、テレビCMのオンライン送稿のトライアルが今年度、日本広告業協会(JAAA)の主導でスタートするという。これに対して、土橋氏は広告主側として、「コストおよび納期面で、大変メリットがある。ひいては、出稿量の増加にもつながるだろう」とコメントした。
現在、テレビCMの素材のやり取りは、いまだブルーレイディスクなどの物理媒体を介して行われている。それを、インターネット経由に置き換えることで、さまざまな可能性が見えてくる。その先にあるのが、プログラマティックTVアドの世界だ。
「広告主としては、送稿に関して、カセットからオンラインにすることを目的としているわけではない。しかし、オンライン送稿といえるものは、ほかのメディアにおいてはすでに実現している。なのに、テレビCMに関しては、1週間前に納品しなくてはならない」と、土橋氏は現状を説明する。「それを1日でも早く、しかも安く実施することで、いろんなことができる。地域別だとか、局別とかに、さまざまな素材をタイムリーに入れていける。極端なことをいえば、次の日の天気に合わせて出稿するということも可能だ」。
いまの送稿の期間よりも短くなるというのは、JAAAと握れているという。だが、どれくらい短くできるのかというのは、安全を見ながら運用していくことになるようだ。
オンライン化で価値が向上する
なお、サイバー・コミュニケーションズによる「2016年 インターネット広告市場規模推計調査」によると、2016年におけるデジタル動画広告費の成長率は、実績で前年比168%。2017年の予測は、141%となっている。それに対して、地上波テレビにおける広告費の成長率は、2016年の実績で101.6%しかない。額面では、まだまだテレビメディアに分があるが、勢いがデジタルにあるのは明らかだ。
その一方でいま、フェイクニュースやコピペメディア問題から、ブランドセーフティが声高に訴えられている。今後、ブランド毀損を起こしかねない、インターネット特有のラフな出稿面は淘汰されていく可能性が高まった。そんななか、確実に高いクオリティを望めるテレビ番組のオンライン化が進めば、また新たな局面が生まれるかもしれない。
ちなみにNHKは、2019年を目処にテレビ番組のインターネット同時配信の開始をめざしている。しかし、民放連はそれに対して及び腰だという。18日のJAA事業説明会では、土橋氏は次のように締めくくった。
「デジタルな世界で出来ていることを実現することで、テレビCMの価値があがるのではないかと思っている」。
Written by 長田真
Image from GettyImages