ロレアルは過去4年、デジタル広告の支出を増やしたことがビジネスに大きく貢献しているという。過去5年で、ロレアルのメディア支出におけるデジタルの割合は2倍以上になった。英国、アイルランドにおけるデジタル責任者のニック・バックリー氏は、なぜロレアルがこれだけ積極的に支出を増やしているのかを語ってくれた。
世界最大規模の広告主であるP&G(Proctor&Gamble)とユニリーバ(Unilever)がオンライン広告支出を削る一方で、ロレアル(L’Oréal)はGoogle、Facebook、Amazonといったプラットフォームでの広告支出を増やしている。
ブランドたちがデジタル広告を縮小しているのは投資に見合った効果が出ていないという懸念からだ。しかし、ロレアルは過去4年間、デジタル広告の支出を増やしたことは大きくビジネスに貢献しているという。過去5年間で、ロレアルのメディア支出におけるデジタルの割合は2倍以上になっている。2013年に13%だったのが、2016年に30%になった。
2017年前半の半年間に注目すると、デジタルに費やされる資金は年比較で5%増加している。これはメディア支出の35%にあたる。しかしメディアレーダー(MediaRadar)の調査によると、1月から5月にかけて、P&Gのデジタル広告支出は年比較で41%、ユニリーバは59%も落ちている。
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ロレアルがデジタルにこれだけ強気でいられる理由のひとつに社内に増えたデジタル専門家たちの知識がある。2010年以降、ロレアルは1600人のデジタル専門家たちを雇ってきた。英国、アイルランドにおけるデジタル責任者のニック・バックリー氏は他ブランドが注意深くなっているなか、なぜロレアルがこれだけ積極的に支出を増やしているのかを語ってくれた。以下、読みやすさのために若干の編集を加えている。
――デジタルメディアにおける支出をどう割り当てているのか?
我々は20%、50%、100%という3つの数字を中心にデジタル支出計画を振り分けている。全体の収益の20%をeコマースから来るようにしたいと考えている。これには我々のサイト、ブーツ(Boots)やテスコ(Tesco)といったデジタル成長を加速させているリテイラー、そしてAmazonやイーベイ(eBay)などが含まれる。特にAmazon、イーベイでは今後もっとも大きな成長を見込んでいる。次の計画は、我が社のコミュニケーションのうちの半分(50%)は、CRMによってきちんと一人ひとりにパーソナライズ化されたものにし、オウンドメディアのコンテンツがデータによって最適化されることだ。そして最後は、100%愛されるブランドにしたいということ。フワフワした言葉に聞こえるかもしれないが、これはペイドアクティビティを取り除いてもオーガニック分野で非常に力強い数字が存在しているということ。自然検索からのトラフィック流入の割合、バウンス率、滞留時間、ソーシャル上のオーガニックなエンゲージメント、閲覧ページ数といった数字が強い。
――P&Gは直近の四半期においてデジタル支出を1億4000万ドル(約153億円)も削減するとニュースになった。しかも、それは売上に影響を与えていないようだ。ロレアルは似たようなことを考慮したことはあるのか。
(デジタル投資に関して)トップダウンのアプローチをする社とそうでない社がある。トップダウンのアプローチをとる会社は「二桁の支出をする必要がある」という考え方をするが、それは我々にとってはふさわしいアプローチではない。我々は売上だけでなく投資収益率を見て判断をする。消費者が以前よりもエンゲージしているかどうか、見極めるための指標がほかにもたくさん存在している。デジタルに投資を増やしているのは我々にとっては効果が見えているからだ。
――今年のはじめにブランドセーフティに関して騒動があった。それはロレアルも巻き込まれている。それによって自信が揺らいだりしていないか?
目的から目をそらすと物事が間違った方向に進んでしまうことがあるということを、すべての広告主があの一件で学んだ。プロセスを再度レビューし、いまではあらゆるプラットフォームにおいて我々の広告がどのように配信されているか、より厳密なプロセスを施行している。(広告が誤った場所に表示されてしまうことが)もう二度と起きないと信じるほどウブではないが、モート(Moat)やインテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)といった外部団体と協働し、オンラインで我々が購入しているものをちゃんと確認してもらうことは、非常に重要なプロセスとなっている。
――「より厳密なプロセス」とはどんなものか?
ポイントは我々がメディアを購入するチャンネルやクリエイティブにおいて、広告ターゲティングがどう処理されているか、という点にある。Googleのダブルクリック・ビッド・マネージャー(DoubleClick Bid Manager)であれFacebookでの広告購入であれだ。さらにいうと、Googleとロレアル、両方においてエラーがないようにデータをチェックする人々がいるということは重要だ。
――FacebookとGoogleにおけるブランドセーフティ問題がきっかけでプライベートマーケットプレイスを検討したりはしなかったのか。それともパンゲア・アライアンス(Pangaea Alliance)や、ガーディアン(the Guardian)、ルビコン・プロジェクト(Rubicon Project)のトラブルがためらいを生んでいるのか?
ダイレクトな取引はすでに、さまざまなパブリッシャーと交わしている。しかし、マーケットとしては非常にダイナミックであり、自分たちのコントロールの効かない出来事の影響を受けることがある。ルビコンとガーディアンの論争ではそれが見られた。広告主の視点からの連携がダメージを受けた。またパンゲアのプロジェクトも現時点でいくつかの困難を抱えている。特に在庫やパートナーという点で問題がなければ、プライベートマーケットプレイスを完全に拒否しているわけではない。しかし、ロレアルにとって非常に説得力があるものは、まだ見つけていない。
Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)
Image from 米DIGIDAY