「金を掘るよりも、つるはしを売る方が手堅い」: D2C ブームに便乗する新興インフラ企業たち

D2C(Direct-to-consumer)ブランドは、(創業者たちの)あらゆることを自ら実行したいという願いから誕生した。そうした想いは、小売パートナーのような中間業者を排除し、顧客との直接的な関係を確立することで、インサイトに支えられた製品開発のフィードバックループを生んだ。その目標は、より少ない人手でより良いブランドを作ることだった。しかし、オンラインの成長は無限ではないことが証明されている。

テクノロジーパートナーの新たなブームには、この次世代D2Cの機会をつかむチャンスがある。規模の拡大は困難であり、たとえ優れた製品と優れた顧客ベースを持っているブランドでも、テクノロジーの進化に追いつけなければ、シュリンクしてしまう可能性があるのだ。ショッピファイ(Shopify)やDTXカンパニー(The DTX Company)、ワンマーケット(OneMarket)などの企業は、スタートアップと持続性のある小売企業とのあいだにあるギャップを埋めようとするD2Cブランドをターゲットとしたサービスをローンチしている。いまや彼らは、技術的な問題を解決する単なるプラットフォームパートナー以上の存在としての地位を手に入れはじめた。彼らは新規のブランドに、より効率的なエコシステムへのカギを与えている。このエコシステムに入れば、顧客の獲得や、サードパーティによるカスタマーデータの活用、オンライン注文の処理、新たな出店といったことが可能になる。こうしたことをきちんと行うための費用を投じていれば、廃業に追い込まれることはない。

こうした現状を「採金者につるはしを売るようなもの」と語るのは、ルマ・パートナーズ(LUMA Partners)のCEOを務めるテリー・カワジャ氏だ。

「(D2C)ブランドを待ち受けているのは、多くの損失を被ることになる世界、セグメントが成熟するに従って、整理・統合されていく世界だ」と、カワジャ氏は語る。「つるはしを売るほうが、金を採掘するよりも手堅い。そしてこれこそが、さまざまな企業がいままさに乗じようとしている次のチャンスだ」。

D2Cブランド自身にとっても、これは成長戦略になっている。自社ブランドのダーティ・レモン(Dirty Lemon)のために「テキストツーオーダー(Text-to-Order)」テクノロジーに投資し、そのうえにデータベースを築いてきた飲料メーカーのアイリス・ノバ(Iris Nova)は、今後5年間で1億ドル(約109億円)をさまざまな消費財(CPG)ブランドに投資する計画を今年6月に発表した。アイリス・ノバの創業者であるザック・ノーマンディン氏は、このチャンスを次世代のコカ・コーラを築くための手段になぞらえた。アイリス・ノバが築いた物流のフレームワークを活用し、2日以内の出荷やモバイルコマースの独自展開を行う能力のない、ほかブランドにもそれを広げるのだ。

「こうしたブランドにアクセスできれば、顧客ベースの拡大を実現しながら、我々の事業インフラも大きくできる」と、ノーマンディン氏はいう。アイリス・ノバはいまのところまだ、社外のブランドに投資していない。「同じ考えを持ったブランドなら、この顧客ベースを利用できる。この分野における消費行動を中心としたデータセットを構築すること──これこそが、以前から変わることのない我々のビジョンだ」。

Amazonが定義したeコマースの基準と歩調を合わせる。投資家に利益をもたらす。買収やIPOに向けて動く。あるいは、売上1000万ドル(約1兆円)のラインを突破する──こうした、さまざまなプレッシャーにさらされているD2Cブランド各社はいま、独自性を保ちつつコストを削減するために、バックエンドの物流を束ねはじめている。

3層のケーキ

ティム・アームストロング氏はDTXカンパニーの創業者だ。同社は、D2Cブランドのためにテックプラットフォームや顧客獲得プラットフォームに投資し、それらを築いている。アームストロング氏は、これらブランドがバックエンドで効率性の向上を必要としている、3つの顕著な分野を認識している。

「我々はD2Cをめぐる状況に3層のケーキを見出している」と、アームストロング氏はいう。いちばん下の層は「サプライチェーン」と「効率的生産」。真ん中の層は、製品の販売や出荷が行われる「フルフィルメントインフラ」と、顧客が注文時に経る「eコマースとストアのエクスペリエンス」。いちばん上の層は「顧客の獲得」と「マーケティング」「直接的な関係の構築」だ。アームストロング氏によれば、DTXの現在の活動の場はいちばん上の層だという。DTXは現在、最新ツール「アンボックス(Unbox)」を活用して、ブランドクライアントにサービスを提供している。彼らがめざしているのは、ブランドが新たな手法(特にイベントをはじめとする「リアルライフ」な広告)で顧客にリーチできる機会を増やすことだ。

「我々はいま、ブランド各社が顧客に直接リーチするためのインフラとクリエイティビティの構築に取り組んでいる。我々が革新を起こしたいと思っているのは、ブランド各社が取り組む顧客獲得の試みをネットワーク効果によって改善できるエリアだ。我々のエクスペリエンスなら、デジタルスペースからすぐにでも抜け出すことができる」と、同氏はいう。

DTXの目標は、プラットフォーム(特にFacebookとGoogle)に依存しているブランド各社をそこから引き離すことだ。これらのプラットフォームで、デジタルブランドの大半はまず、パフォーマンスマーケティングに費用を投じている。DTXは、ブランド各社にサードパーティがプールしたデータを提供している。その目的は、試行錯誤のFacebook戦略に資金を投じることなく、新たな顧客層に切り込み、彼らをうまくターゲティングする方法を見つけてもらうことだ。また同時に、プラットフォームに依存しすぎているブランドは、自社の顧客が見えていないという危険にさらされてもいる。とりわけ、FacebookやGoogleがデータプライバシーをめぐる懸念に対処している昨今においては。

「エンドツーエンドの顧客データやターゲティングについていえば、ブランドサイドには大きな課題がある」と語るのは、クリアアライナーメーカーのスマイルダイレクトクラブ(SmileDirectClub)で最高マーケティング責任者を務めるジョン・シェルドン氏だ。「この件をめぐっては、我々はFacebookやGoogleなどの人気プラットフォームと衝突している。これらのプラットフォームは、プライバシーに関する厳しい調査の真っ只中にいるからだ。そのため、顧客のことをもっとよく知るためには、彼らを我々のプラットフォームに移動させなければならない。これがもっとも大変だ」。

主にファーストパーティカスタマーからなるデータセットを構築し、ほかの同じようなブランドから調達されるサードパーティカスタマーの付加的インサイトにそれを重ねる──こうすることにより、顧客獲得にかかる費用を抑えつつ、新規顧客へのリーチを促進できると、カワジャ氏はいう。

「ほかのD2Cブランドが経験を通して身につけた数多くの知識がある。ならば、それを活用しない手はない」と、同氏は語る。「いちいち車輪を再発明する必要などない。特に創業から間もない小規模ブランドは、マーケティングサイドで経験を積んできた先輩格の他ブランドから学べば、その知識を活用できる」。

コストの高騰とチャンス

バックエンドやロジスティクスの分野において、ショッピファイはD2Cやeコマースブランドの頼れるパートナーとしての地位を揺るぎないものにしている。同社は、主力のウェブサーバープロダクトから手を広げ、小売店舗のオープンや商品の出荷においてブランドをアシストするツールもローンチしている。ショッピファイは今年6月、Amazonスタイルのフルフィルメントセンターをオープンした。そのセンターでは、eコマースブランドのために在庫管理や出荷、配送などの業務が処理されている。ブランドが独自に行う場合よりも処理にかかる時間は短く、受注量の多さが配送業者に支払う料金を引き下げるため、かかる費用も安い。

かつてのショッピファイは、eコマース業界におけるAmazonの影響に反応を示していた。であるならば、いまは他社がショッピファイの影響に反応を示しているといえる。D2Cブランドのあいだで高まる物流上のニーズに応えてデータを共有する。インストアテクノロジーを運用する。成長に合わせて、バックエンドの効率を高めていく。こうしたことに、いま彼らは目を向けているのだ。ブランドが売上1000万~5000万ドル(約10.9億~54.4億円)のラインに到達すると、成長を続け、この最初のマイルストーンを超えるために、より大規模なロジスティクスが必要になってくると、DTXカンパニーのアームストロング氏は述べる。そこには、センス抜群のブランディングや、トレンドに即した製品開発、Facebookキャンペーン以上の仕事が絡んでくるという。

こうしたロジスティクスに投資するブランドは、この仕事をほかのブランドに外注し、自身を守るための堀を築き、売上を伸ばせるというという競争上の強みを持っている。

「製品提供の自然な拡大は、その企業と、関係する全ブランドに効率性をもたらす」と、ダーティ・レモンのノーマンディン氏は語る。「ポイントは、ブランドが消費者に直接アクセスできるかどうかだ。これこそが、誰もがいま考えていることだ。企業各社はいま、余分なコストをかけずに、顧客との関係を強化できる次の手を模索しているところだ」。

必然ともいえる整理・統合の波がD2Cカテゴリーに向かってくるとき、ブランド各社を助けるものがあるとすれば、それはバックエンドロジスティクスの増強と、マーケティング戦略の効率の向上だ。持続的な事業を一から築き、利益を出しているブランドほど、価値が高いとみなされるだろう。

「今後3年間でブランドの大規模な整理・統合が起こると、私はにらんでいる。関係者は大きな変化に備えておくべきだ」と語るのは、水着ブランド、サマーソルト(Summersalt)でCEOを務めるロリ・コールター氏だ。「サプライチェーン全体の関係において、さまざまな小売業者や卸売りブランド、消費者が及ぼす影響に大きな変化が起きてきた。テック系スタートアップの考え方を借りるならば、ある意味それは反復的だ。先駆者になること、新たなルールを素早く学ぶこと。これが生き残るための秘訣だ」。

Hilary Milnes (原文 / 訳:ガリレオ)