夏の終わりといえば、米国では通常、新学期に向けた買物、バックトゥスクールショッピング(新学期に向けて必要なものを買い揃えること)の時期だ。今年は何もかもがいつもと違うが――。
夏の終わりといえば、米国では新学期に向けた買物、バック・トゥ・スクール・ショッピング(新学期に向けて必要なものを買い揃えること)の時期だ。今年は何もかもがいつもと違うが――。
親も学校側も、リモートラーニングやソーシャルディスタンスを確保した教室作りに備えるとともに、再度のロックダウンの可能性も頭に入れている。キッズアパレルメーカーはそれでも、子どもたちが新しい衣服を必要とすることを期待している。
「今年のバック・トゥ・スクール・ショッピング・シーズンは、これまで目にしてきたどの年とも違う」と、市場動向分析/コンサルティング企業のNPDグループで、アパレル分野のマーケティングインサイト部門のディレクターを務めるクリステン・クラッシ・ズモー氏は述べる。業界にとって、バック・トゥ・スクール・セールの重要性はきわめて高く、例年、キッズアパレルの年間売り上げの大半を占める。NPDグループによると、たとえば2019年の第3四半期の5~18歳を対象としたアパレルの売上は120億ドル(約1.2兆円)で、前年比3%増加している。なお、これは同年齢層を対象としたアパレルの年間売上の30%を占めている。
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衣類よりもテック機器が人気
米金融サービス企業S&Pのデータ によると、7月、輸入キッズアパレル製品の売上は第2四半期に続いて激しい落ち込みを見せ、前年同期比で、輸入キッズフットウェア製品は44%減、輸入キッズアパレル製品は29%減だった。一方、バックパックの輸入品は、第2四半期の売上が23%減、7月は5%増だった。これに対し、ノート型パソコンの売上は伸びを見せ、輸入品は第2四半期に14%増、7月も6%増を記録した。
今年度は、例年ならば新学期用の衣類に割かれる予算の一部がテクノロジー機器に充てられると、クラッシ・ズモー氏は予想しており、実際多くの家庭はすでに、新しい衣服よりも、オンラインラーニング用のパソコンやタブレットの購入を優先していると指摘する。
「親の目がテック機器に向いている以上、今年度のアパレル業界は苦戦することになる。このままさらなる景気刺激策が打たれず、失業給付額が下がるとなると、なおさらだろう」。
とはいえ、成長期にある子どもには当然新しい衣類が必要だ。「無論、親は子どもに衣類を買うことを止めはしないだろうが、例年と異なり、必要に迫られて、という意味合いが強くなる」とクラッシ・ズモー氏は続ける。「となると、快適とベーシックがキーワードとなる。大多数の子どもは、自宅でのリモートラーニングを強いられるため、自然と快適に過ごせる服を欲しがるはずだ」。
「やりがいのある時」
幼稚園生から高校生までの教育情報に特化したニュースサイト、エデュケーションウィーク(Education Week)のデータによれば、 米国最大規模の学区20のうち17の学区で、新学期の基本モデルとしてリモートラーニングが検討されており、400万人以上の生徒がその影響を受けると見られている。また、ニューヨーク市をはじめ、教室での授業を再開する学区の多くは、物理的距離を確保しつつ通学とリモートの複合モデルの採用を予定している。
それゆえ、今秋は例年のような新学期前の一度切りだけではなく、季節の移り変わりや子どもの成長に合わせるかたちで、買物の時期が分散することになるだろうと、クラッシ・ズモー氏は予想する。
当然、マーケターは対応策を講じている。たとえばギャップ(Gap)は、多くの生徒がリモートラーニングとなる状況を踏まえ、今期のキャンペーン名を例年の「バック・トゥ・スクール・スクール」ではなく「バック・トゥ・ラーニング」としている。
「学習の形に関わらず、Zoomを使ったオンライン授業でも、通常の教室での勉強についても、弊社は子どもたちをサポートしていきたい」と、ギャップのブランドCMO メアリー・アルデリート氏はいう。「マーケターにしてみれば、やりがいのある時だ。時代に即応した思考を持ち、視線をつねに消費者に向けていなければ、これを乗り切るブランドにはなれない」。
なお、今春は全国的に買い控えが生じため、多くのリテール分野が打撃を受けたが、ギャップの子ども服の売上はさほど影響を受けずに済んだという。
「弊社のキッズおよびベビーアパレル事業の前年度売上は40億ドル(約4258億円)近くを記録しており、ギャップは依然、キッズアパレルを牽引している。キッズアパレルは、リテール業界の上下動による影響をさほど受けないカテゴリーだ」と、ギャップの社長兼CEOソニア・シンガル氏は6月のアーニングコールで投資家らに語った。
マスク販売がブランド認知に
また、同アーニングコールでの発表によれば、ギャップは5月、非医療用の布製マスクを自社ブランドから300万個販売し、その多くは子どもたちの親が購入したという。
実際、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が、2歳以上の子どもに対して、ソーシャルディスタンスを取れない場合のマスク着用を推奨するなか、マスクはいまや子どもを含め、全世代必携のアクセサリーになっている。
実際、2008年にLAで創業したキッズアパレルメーカー、ジョアラヴ(Joah Love)は、柔らかく、紐もゴム製ではなく本体と同じ布地を使った、子どもに優しいマスクで新たな市場の開拓に成功している。
「ジョアラヴの名を聞いたこともなかった多くの人々に、マスクを通じて弊社のことを知ってもらえた。さらに、マスク購入者の大半は衣類も買ってくれるようになった」と、同社の創業者アイヨン・ストーバー氏はいう。「弊社は一貫して快適さを追求してきたブランドであり、だからこそ、全商品が心地良さと感染防止という、いまのニーズに合致している」。
[原文:‘An interesting time to be a marketer’ How brands adjusted their strategies for back-to-school]
KARA BLOOMGARDEN-SMOKE(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)