新型コロナウイルスのパンデミックは経済に打撃を与えた。それは広告市場も例外ではないが、ヘルス・ウェルネス分野の広告費は、前年とほぼ同等のレベルを維持し、パブリッシャーはこうした傾向を自らの収益に繋げようと注目している。
新型コロナウイルスのパンデミックは、経済に大きな打撃を与えた。それは広告市場も例外ではないが、ヘルス・ウェルネス分野の広告費は、前年とほぼ同等のレベルを維持し、パブリッシャーはこうした傾向を自らの収益に繋げようと注目している。
バッスルデジタルグループ(Bustle Digital Group:以下、BDG)、コンデナスト(Condé Nast)、スキム(theSkimm)の3社は、いずれも新たなコンテンツと広告製品を開発し、オーディエンスが求めるヘルス・ウェルネス情報をさらに充実させるだけでなく、広告主にそれらを活用する機会を提供している。
「スキンケアカテゴリーの検索需要は、しばらくのあいだ横ばい傾向にあった。しかしGoogleによると、(第2四半期における)同カテゴリーの検索需要は317%増加したという。その背景には、新型コロナウイルスの影響による自宅待機命令と、パーソナルセルフケアへの関心の高まりがある」と、デジタルコンサルタント企業、ジャニュアリー・デジタル(January Digital)でマネージングディレクターを務めるティアニー・ウィルソン氏は述べる。複数の美容系広告主のデジタル戦略を担当する同氏は、「ヘルス・ウェルネスは、いまやれっきとしたライフスタイルカテゴリーのひとつだ」と述べる。
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トラフィックは増加傾向
GoogleアナリティクスとApple Newsによると、BDGの看板メディアブランドであるバッスル(Bustle)における、3月のヘルス関連コンテンツのトラフィック数は、2020年における最大値を記録。今年の月間平均トラフィック数を24%も上回った。なお、3月のバッスルのトラフィック全体のうち、13%がヘルス関連コンテンツだった(コムスコア[Comscore]によると同月のユニークビジター数は2400万人)。
また、BDGの若年女性向けのライフスタイルメディアブランド、エリートデイリー(Elite Daily)も、3月から6月にかけて、ヘルス関連コンテンツへの月間平均トラフィック数が、今年1月と2月の平均値よりも52%増加した。なお、3月のユニークビジター数は1800万人弱だった。
エリートデイリーの編集長である、エマ・ローゼンブラム氏は、読者のヘルス・ウェルネスへの関心の高まりを受け、すべてのヘルス関連コンテンツを掲載するハブサイト「ユアヘルスA to Z(Your Health A to Z)」を構築したと語る。同サイトはエリートデイリーに加え、ミレニアル世代の母親向けブランドであるロンパー(Romper)とも連携する予定だ。
最終目標は、2年以内にBDG独自のヘルス・ウェルネスブランドを新たに構築することだと、ローゼンブラム氏はいう。この目標設定の背景には、読者の同カテゴリーへの高い関心に呼応するように、ヘルス・ウェルネス分野の広告主も意欲を示している事実がある。
「好循環が起きている」
8月、医療品やウェルネス分野の企業からの広告収入は、前年比34%増となり、また消費財分野の広告収入も前年比で17%増加したと、BDGのレベニュー担当 エグゼクティブバイスプレジデントである、エリザベス・ウェッブ・ルニー氏は語る。またそれだけでなく、これらの分野における、取引あたりの広告費も(ドル換算で)それぞれ15%、20%増加しており、ヘルス・ウェルネス関連のイベント事業の規模は前年比3倍にまで成長したという。
「好循環が起きている。ヘルス・ウェルネス分野の製品を購入する消費者が増え、それに応じてブランドは広告費を増やし、広告が需要を促進してさらにサイクルを回している」と、デジタルエージェンシーのクエスタス(Questus)の共同創業者、ジェフ・ローゼンブラム氏は話す。「ウェルネスカテゴリーの広告費は大幅に増加している」。
ウェッブ・ルニー氏も「我々はヘルス・ウェルネス分野の展開を、真剣に取り組んでいる」とし、来年はさらなる強化を予定していると述べた。
非ヘルス・ウェルネス系メディアも進出
一方、ヘルス・ウェルネスに特化したブランドであるコンデナストのセルフ(Self)は、同社の非ヘルス・ウェルネス系メディアが、この分野に進出するための橋渡し役を担っている。
セルフは、編集長のキャロリン・キルストラ氏が執筆する人気ニュースレター、「チェッキング・イン(Checking In)」をベースに、10月6日~10月15日の期間に6回、ニュースレターと同名のバーチャルイベントを開催する。テーマはメンタルヘルスとウェルネスだ。
潜在オーディエンスを拡大するため、同イベントはコンデナストのプラットフォーム「シチズンネットライブ(CitizenNet Live)」を利用して、GQとアリューア(Allure)のFacebookページおよび、YouTubeチャンネルで同時配信される予定だ。
男性向けファッション・ライフスタイルのGQ、美容・メイクアップのアリューアは、いずれもセルフと違ってヘルス・ウェルネスへの専門性を備えてはいない。しかし、パンデミックが続くなか、両メディアのオーディエンスはセルフケアに関心を示していると、キルストラ氏は語る。
連携が生み出すシナジー
コンデナストはGQとアリューアの連携により、ヘルス・ウェルネス系イベントの視聴者を爆発的に増やすことができると見ている。GQのFacebookメインページのフォロワーは280万人、YouTubeのチャンネル登録者は550万人だ。また、アリューアはそれぞれ150万人のフォロワーと160万人のチャンネル登録者を有する。両者と比べると、セルフの規模は比較的小さく、YouTubeチャンネル登録者は75万人、Facebookフォロワーは170万人にとどまる。
このイベントの立て付けは、8月に実施されたコンデナストのバーチャルイベントでも概説されたように、広告主からより収益性の高いオファーを引き出すという、同社の戦略に基づいて考案されている。
コンデナストで、ライフスタイル部門の最高事業責任者を務めるジェン・モーマイル氏によると、同イベントは、参加者募集を開始してからわずか数時間の時点で、1000人もの申し込みがあったという。また、スポンサーの一社であるサプリメントブランド、ビビスカル(Viviscal)は、発表と同時にスポンサーに名乗りをあげた。
潜在ニーズがコロナ禍で顕在化
ヘルス・ウェルネスは、コロナ危機のあいだにセルフケアに傾倒した人々による、単なる一時的な流行にとどまらない可能性が高い。
スキムは、サブスクリプション登録者の80%近くが、ヘルス・ウェルネスコンテンツの拡充を求めているという見解を受け、3月よりずっと以前から(つまりコロナ禍前から)、ウェルネスに特化した、新たなバーティカルメディア「スキム・ウェル(Skimm Well)」の開発を進めてきた。
スキム・ウェルは現在、Webサイトと毎日のニュースレターで展開されている。
「我々のオーディエンスとブランドパートナーからは、以前からヘルス・ウェルネス分野で、我々独自の意見と視点を提供して欲しいとの要望があった。今後は、広告主企業と、より大規模な取り組みが展開できる」と、スキムのレベニュー担当 シニアバイスプレジデントであるアレクシス・ゴールドスタイン氏はいう。
実際、大手ダイエット企業、WW(旧ウェイトウォッチャーズ[Weight Watchers])とのスポンサープログラムは、2021年前半まで継続することが決定した。スキムはこのスポンサーシップの取引額を明らかにしていないが、同社の広報担当者によると、現時点における今年度のスキムの広告収入は、前年比で約16%増加しているという。
CBD製品の広告展開も加速
データコンサルティングを展開するカンター(Kantar)によると、2020年1月~6月のあいだに、ヘルス・ビューティ業界(化粧品、美容補助用品、ビタミン・ミネラル、体重調整補助用品、栄養補助食品からなる)が支出した広告費の総計は15億ドル(約1583億円)で、2019年の同時期と比べ17%、約3億ドル(約317億円)の減少となっている。
ただしカンターによると、このなかでビタミン・ミネラルと栄養補助食品の2カテゴリーだけは、いずれも広告費が前年比で4%増加した。
カンターのカテゴライズでは、大麻成分であるカンナビジオール(以下、CBD)を含む製品は、ヘルス・ビューティから除外されているが、同カテゴリにおける2020年3月~6月の広告費は400万ドル(約4億2200万円)を超え、2019年の同時期の80万ドル(約8440万円)から5倍以上増加している。
「ここ3~6カ月のあいだに、数十のCBD製品ブランドがペイドソーシャルやGoogle広告を展開しているのを目の当たりにした。以前、CBDはこうしたチャネルにおいて報告対象だったため、ほとんど存在しなかった」と、CBDカテゴリーのブランドにコンサルティングサービスを提供する「ラグジュアリー・ミーツ・カンナビス・カンファレンス(Luxuary Meets Cannabis Conference)」で、エグゼクティブディレクターを務めるジェド・ウェクスラー氏は語る。
さらに注目が高まる見込み
ハバスメディア(Havas Media)でエグゼクティブバイスプレジデントおよびヘルス・ウェルネス実践担当責任者を務めるリッチ・ギャグノン氏によると、製薬とヘルスの2カテゴリーにおける広告費の増加は、とくに医療従事者を重点的にターゲットにしたキャンペーンの増加が背景にあるという。
また、オムニコムメディアグループ(Omnicom Media Group)で、パートナーシップ担当 マネージングディレクターを務めるスティーブ・ブルーム氏によると、ヘルス・ウェルネスに特化していないブランドであっても、この分野のコンテンツは、広告主にとってブランドセーフティとエンゲージメントが高い傾向にあるため、昨今のニュースサイクルを考えると、今後さらに注目が高まっていくことが予想されるという。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:村上莞)
Illustration by IVY LIU