THE AMAZON EFFECT

Amazon の「Launchpad」は、消えゆく運命にあるのか? :誰も知らないアクセラレータープログラム

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おそらくほとんどの人は、スタートアップを支援するアクセラレータープログラム、Amazon Launchpad(アマゾン ローンチパッド:以下、Launchpad)のことなど聞いたこともないだろう。

Amazonは2015年、スタートアップ企業による新製品の市場投入を支援するプログラムとして、Launchpadを発表。特にクラウドファンディング的な要素はないが、支援の対象はクラウドファンディングプラットフォームのキックスターター(Kickstarter)のように、物語性を秘めた自由で斬新なプロジェクトを想定しており、Amazonがその市場試験とプロモーションを行うというものだった。Launchpadの承認を受けたセラーは、Amazonのリソースをより広範に活用できる特典と引き換えに、通常の15%の販売手数料に加え、5%の追加料金をAmazonに支払う必要がある。

これまでAmazonは、このプログラムを通じて2万を超えるプロダクトを支援してきた。にもかかわらず、現在このプログラムが軌道に乗る気配はない。Wi-Fiルーターを展開する「eero(イーロ)」や、折りたたみ式電動スクーターを展開する「URB-E」など、いくつかの成功事例はあるものの、Launchpadの存在を知るAmazon利用者もほとんどいない。しかも、Launchpadを活用したセラーのなかには、コストに見合うだけのメリットはないと感じる企業も見られる。

では、Launchpadの成長を阻んでいるものは何か。皮肉なことに、それはAmazon自身にあるのかもしれない。というのも、同社が次々に中小企業やスタートアップ向けのプログラムを立ち上げ続けたことで、Launchpadの存在感が薄まってしまっているのだ。

立ち上げの経緯

Launchpadがスタートして間もなく、Amazonはアンドリーセンホロウィッツ(Andreessen Horowitz)を含むベンチャーキャピタル100社以上と契約し、あるシステムを構築した。これは、契約したベンチャーキャピタルが将来有望なプロダクトを見つけたら、Amazonがこのプロダクトをマーケットプレイス上の目立つ位置に掲載し、販売を後押しするというものだ。また、Amazonは前出のキックスターターとも提携しており、同社の数百におよぶプロジェクトをAmazon Launchpadで紹介している。加えてAmazonは、クラウドファンディングプラットフォーム、インディゴーゴー(Indiegogo)で目標額を獲得したプロダクトにも同様のオプションを与えている。その見返りとして、Amazonは通常の手数料に加えて、5%の追加料金を請求する。場合によっては、Amazonまたは各社のeコマースストアでの限定販売や、最低12カ月の契約期間を要求することもある。

一時は、スタートアップ企業の立ち上げ支援のあり方を、Amazonが一変させるのではないかと思われた。実際、Amazonは米ABC放送の番組『シャークタンク(Shark Tank:日本の「マネーの虎」的な番組)』出身の起業家と連携し、同番組で紹介されたいくつかの商品を販売したことで、同番組からのお墨付きを獲得した。しかし、それから5年あまりを経たいま、Launchpadは低迷している。

「今日、セラーたちのあいだでさえ、このプログラムの知名度は高くない」。そう語るのは、ハイドロライト(Hydrolyte)のブランド名でサプリメントを販売する、ミナ・イライアス氏だ。「Launchpadのことなど誰も知らない」。

ただ、1年半前にLaunchpadの支援を受けたイライアス氏は「コンセプト自体は称賛に値する」と述べる。「彼らは、革新的なブランドやプロダクトを取り上げて、迅速な成長を促すためのプラットフォームを提供したいと考えているようだ」。

特典の中身

Launchpadは基本的に、創業にまつわる魅力的なストーリーを持つ小規模なブランドを選び、AmazonのメールマガジンやWebページ、各種の記事やテキストに掲載するなど、プロモーション上の特典を与えて支援するプログラムだ。なお、支援を受けた企業は、ブランドビルディングに精通しているAmazon担当者からアドバイスを受けることもできる。

こうした特典のうち、イライアス氏が特に期待していたのがプレミアムA+コンテンツ(Premium A+ Content)だ。これは、プロダクトページにインタラクティブな画像や動画を組み込むことを可能にするもので、Amazonがセラーに公開している機能のひとつだ。通常、利用には数十万ドル(数千万円)の費用を要するこの機能が、Launchpadの特典に標準機能として含まれている。

しかしイライアス氏にとって、Launchpadは期待に叶うプログラムではなかった。

Launchpadの失敗点

プレミアムA+コンテンツを活用しても、イライアス氏が運営するブランドの売上はほとんど変化しなかった。同氏は、「統計的に有意な増加はまったく見られなかった」し、いくら各種指標を確認しても、「売上が伸びているとは思えなかった」と語る。

実は、プレミアムA+で効果を出すには洗練されたデザインチームが必要になる。しかし一般的に、Launchpadが対象とする小規模なセラーはこのようなチームを持っていない。改善を実感できない原因は、おそらくその辺りにあるのだろう。

しかし、プレミアムA+コンテンツだけでなく、ほかの特典も奏功しなかった。イライアス氏によると、Amazon側の担当者に問い合わせを行っても、返答までに数週間から数カ月かかることもあったという。また、AmazonのWebページへの掲載など、目玉とされた特典も、必ず保証されたものではなかった。蓋を開けてみると、Launchpadに参加したセラーたちは、掲載スポットをめぐって互いに競争していたのだ。「毎月辛抱強く申込みを続けても、まったく載せてもらえなかった」とイライアス氏は嘆く。「これでは特典とはいえない。特典獲得の『チャンス』が与えられただけだ」。

しかし、セラーたちにとって何よりも不満だったのは、効果を測定する機能が欠如していることだ。そう明かすのは、Amazonコンサルタントのアンドリュー・ケイン氏。同氏自身はもちろん、同氏が抱えるクライアントもまた、Launchpadの利用経験がある。「Launchpadの根本的な問題は、5%の手数料に見合う成果を、利用者が具体的に確認できるレポートがまったくないことだ」とケイン氏は指摘する。「収益の5%が、まったくのブラックボックスになっている」。

Amazon広告の購入と比べてみよう。Amazon広告に広告料を支払えば、インプレッション数とクリック数、CTR、および販売数を確認できる。一方、Launchpadに利益の5%を投入しても、「Launchpadからは何のデータも得られない」とケイン氏はいう。「Launchpadでは、インプレッション数、ページやユーザーやセールスの詳細など、何ひとつ分からない」。同氏によると、Launchpadは何年も前からレポートを公開すると約束してきたが、いまだに実現していないという。

埋もれてしまっている

Launchpadは疲弊しているのかもしれない。AmazonはLaunchpadのスタート以降も、数多くのインキュベータープログラムを打ち出してきた。アクセラレーター型のプログラムも少なくない。たとえば、ブランドアクセラレーター(Brand Accelerator)、スモールビジネスアクセラレーター(Small Business Accelerator)、IPアクセラレター(IP Accelerator)などがそうだ。それぞれの目的は少しずつ異なるものの、LaunchpadはAmazonが運営するこうした多種多様なプログラムに、埋没していったとも考えられる。

しかし、AmazonはLaunchpadを撤退させる意向はないようだ。同プログラムを統括するニック・ラブ氏は、米DGIDAYの姉妹サイト、モダンリテールにこう語っている。「今後も、引き続き革新的なブランドや中小企業が、我々のマーケティングツール、イベント、試験的なプログラム、eコマースに関する専門的な知見、そして大規模な顧客基盤を有効活用できるように支援していきたい」。

これに対し、前出のケイン氏は懐疑的だ。「Amazonはこれまでにも、同様のプログラムを次々と立ち上げてきたが、大きな成功や利益をもたらさないものは、途中で脱落している。Launchpadにも同様のことが起きるのではないか」。

それでも、一部のセラーはLaunchpadに満足している。Amazonによると、Launchpadのパートナー40社は、同プログラムに参加して以降、年間1000万ドル(約10億円)超の売上を達成しているという。確かに、Launchpadによって大きく飛躍するプロダクトがないわけではない。AmazonのWebページに掲載されるだけで、ゲームチェンジャーになる可能性はある。問題は、プログラム上そのような特典を手にできる参加者が、ごく一部に限られているということだ。

また、Amazon専門のマーケティングエージェンシー、ポディアン(Podean)のグローバルCEOを務めるトラヴィス・ジョンソン氏は、Launchpadを歓迎する多くのセラーを知っていると述べる。「プレミアムA+だけでも5%の手数料を支払う価値があるところ、ほかにもいろいろな特典がついてくるからだ」。

残された可能性

Launchpadは新興市場では効果的なのかもしれない。実際Amazonは、進出が比較的遅かったオーストラリアでLaunchpadを積極的に展開している。つい先ごろは、同プログラムに参加するオーストラリアのセラー5社に、8万ドル(約830万円)の助成金を支給した実績もある。「Amazonが新規市場に参入する際は、必ず大きな敵意や反発にさらされる。現地企業から、巨大な多国籍企業がやってきて、地元の小売業界を破壊するという懸念を持たれるからだ」と、ジョンソン氏は話す。「Amazonが地域社会を支え、中小企業の成長を助ける姿勢を示すのに、Launchpadは悪くない仕組みだろう」。

さらにLaunchpadに批判的な人々も、データの提供さえあれば、大きな可能性が見いだせるとしている。Amazonコンサルタントのケイン氏は、「可能性は認めるにしても、まずは5%分のROIを見せてほしい」と要求する。Launchpadの巻き直しがあるとしても、いま現在、それは起きていないと同氏はいう。同氏と取引のあるセラーのあいだでは、Launchpadはすでに注目されていないようだ。

「Launchpadの影は薄くなる一方だ」とケイン氏は語る。「私の推測では、今後数年のうちに、突然姿を消すか、次第に消えるかするだろう」。

[原文:‘It wasn’t really a perk’: How Amazon Launchpad has been left to languish

MICHAEL WATERS(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)