消費者向けのプロダクトを取り扱うD2Cブランドにとって、コロナ禍によって受けたショックは大きく、当面の資金を確保することに奔走したブランドも少なくない。不透明な先行きにVCの投資も控えられていたが、ここ数カ月で投資家たちの関心も戻りつつあるようだ。すでにコロナ以降を見据えた資金調達に関する動きが活発化している。
今年3月、アクセレレーター・エージェンシーとベンチャーキャピタルファンドのハイブリッド企業であるブリッシュ(Bullish)のマネージング・パートナー、マイケル・ドゥーバ氏は米DIGIDAYの兄弟サイト、モダンリテール(Modern Retail)の取材に、D2Cスタートアップの資金調達をめぐる状況は「完全に凍りついていた」とコメントした。今、振り返ると3月ははるか昔のことのように感じられる。
ここ6カ月のあいだ、自宅リフォーム、ヘルス・ウェルネス、フードといった分野におけるD2Cスタートアップの多くがビジネスを大きく成功させている。顧客獲得コストが減る一方で、彼らのオンライン売上は2〜3倍となっている。今回改めてモダンリテール(Modern Retail)が取材をした4人のベンチャーキャピタリストによると、消費者向けカテゴリーの投資家たちは、取引をまた開始しているという。
今後も継続されるだろうeコマースの流れを加速させる企業への投資を探しているようだ。以前であれば顧客獲得コストが高いことを理由にデジタルネイティブのスタートアップに対して難色を示していた投資家たちも、態度を改めつつある。この6カ月でこれらの企業が大きな成長を見せたからだ。
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コロナ以降を見据えた投資対象
「2020年4月ほどビジネスが死に絶えた月は経験したことがない」とドゥーバ氏は言う。「6カ月前と比べてここ3カ月の投資取引はよくなっているか、そうでなくとも同等の勢いを見せている」。通常状態に完全に戻ったわけではない。以前はハリーズ(Harry’s)とペロトン(Peloton)に投資していたブリッシュだが、昨年以降は新しい企業に投資をしておらず、ようやく8月にふたつの新規投資をおこなった。
モダンリテールが取材をした投資家たちの多くは、アーリーステージもしくはローンチ前のブランドにフォーカスしている。こうした投資対象を求める姿勢はパンデミック中も変わらなかったという。しかし、今世界で起きていることは短期的な「コロナウイルスによるつまづき」程度ではないと見ているため、彼らの興味の対象は広がったようだ。パンデミック終了後に非常に大きな成長を、しかも継続して見せるだろうと想定される分野だ。
「パンデミック前から我々は消費者向けのプロダクトを販売するブランド以外にも興味を持ち、eコマースのインフラや遠隔医療、オンライン教育に注目していた。ここ6カ月でその視点が間違ってなかったことが確認された」とイマジナリー・ベンチャーズ(Imaginary Ventures)のプリンシパルであるローガン・ラングバーグ氏は言う。
もうひつの注目分野はヘルスとウェルネスだ。コロナウイルスのパンデミックが起きたことで、消費者たちは健康に対して「予防」の視点を持つようになったと投資家たちはにらんでいる。ブルックリン・ブリッジ・ベンチャーズ(Brooklyn Bridge Ventures)のファウンダーであるチャーリー・オドネル氏は過去数カ月で彼が行った数少ない投資のうちのひとつがベイス(Base)だと明かした。ベイスは睡眠や健康状態の在宅検査アプリスタートアップだ。良質な睡眠を増やす、ストレスを減らすといった健康関連の目標達成をサポートをするサービスとなっている。
持ち直しつつあるD2Cブランド
スーツケースを扱うアウェイ(Away)や、アパレルレンタルサービスであるレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)のように収益が大幅に減少したD2Cブランドは、パンデミック中に新たに資金調達を余儀なくされた。しかし、成長途上の投資先を多く抱えるレアラー・ヒプー(Lerer Hippeau)のプリンシパル、アンドレア・ヒプー氏によると、同社のポートフォリオ企業のうち収益化に成功しているブランドは、資金調達の機会を待っている段階だという。
パンデミック当初、D2Cブランドはビジネスにおいて大きな変更をおこなうか、厳しい不景気に突入した場合に備えて既存の投資家たちから十分な資金を集めるか、いずれかの選択を迫られた。「我々が抱える、事業化に成功した消費者向けプロダクトを扱うブランドの多くは、第1四半期が非常に大きな資金調達期間になると思う」とヒプー氏は指摘する。
「多くの指標が改善され、オーガニックな顧客獲得も増え、広告経由での顧客獲得が逆に減っている」と彼女は付け加えた。このことはブランドにとって新規の資金調達に乗り出す必要が生じた際に、より有利な立ち位置をもたらすはずだ。さらに、eコマースの流行が継続すれば、D2Cスタートアップから声をかけられることに興味を持つ投資家の数も増えるかもしれない。「消費者向けカテゴリーから離れると言っていた投資家や手をつけないと言っていた投資家たちの多くが、再びそうしたブランドに注意を払うようになった」とヒプー氏は言う。
ブリッシュのドゥーダ氏は「2019年秋、我々はシリーズA資金調達をしていたD2Cブランドに投資をおこなっていたが、そうしたブランドは『長期的に見て、D2Cモデルが持続可能かはわからない』と言われていた」と振り返る。今ではスタートアップが2〜3年以内で実店舗に展開する計画を持っていた場合、ベンチャーキャピタリストたちが「なんでそんなことをするんだ。今はすべてが(店舗不要の)D2Cじゃないか」と言う場面が出てきているようだ。「ベンチャーキャピタリストの『逆張り』意識が欠けている」と彼は付け加えた。
投資家たちは今でもまだオムニチャネルに賭けており、ブランドの流通戦略はカテゴリーごとに変わってくると主張する。「卸売の食品カテゴリーに投資をしている投資家たちは大きな見返りを手にしている」とイマジナリー・ベンチャーズのラングバーグ氏は述べ、自宅待機の期間中に食料雑貨の売上が急激に増加した点を指摘する。
新規ブランドには高めのハードル
Zoomでの売り込みに投資家たちもスタートアップのファウンダーたちも慣れたものの、直接対面でミーティングをおこなえるようになるまでは、完全には元に戻らないという声も聞かれる。ブルックリン・ブリッジ・ベンチャーズのオドネル氏によると、パンデミック中は初めてスタートアップを立ち上げたファウンダーたちには厳しい状況となったようだ。自分たちを売り込むためのトップレベルのベンチャーキャピタルとのコネクションが欠けているからだ。
「今後も(新興のD2Cブランドへの)投資はおこなわれるだろう。しかしそのハードルは少し高くなっている」とオドネル氏は言う。
[原文:‘It is all DTC now’: VCs are eager to strike deals again]
Anna Hensel(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)