D2Cブランドが、消費者にインスタグラム(Instagram)広告をクリックさせることに成功したら、次に彼らが狙うのは、電子メールの受信箱だ。 クリステン・ラフランス氏は、サブスクリプションプロバイダーのために未払金の回 […]
D2Cブランドが、消費者にインスタグラム(Instagram)広告をクリックさせることに成功したら、次に彼らが狙うのは、電子メールの受信箱だ。
クリステン・ラフランス氏は、サブスクリプションプロバイダーのために未払金の回収を代行するチャーンバスター(Churnbsuter)で成長戦略とコミュニティ戦略を統括する人物だが、D2Cで靴下を販売するボンバス(Bombas)から、65日間に24件の電子メールを受信した件について詳しく語った。また、小売企業向けのコンサルティング会社、ルーススレッズ(Loose Threads)によると、アパレル販売のアウトドアボイシズ(Outdoor Voices)とマットレス販売のキャスパー(Casper)は、7月1日から9月25日の期間に、それぞれ43件と44件の電子メールを送信した。ルーススレッズは小売企業のメーリングリストに自ら登録することにより、企業が送信するメールの件数を追跡している。
過剰なメールを送りつけるブランドについて、ルーススレッズの創業者、リッチー・シーゲル氏は「まるで癒えない渇きのようだ」と表現した。
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D2Cブランド特有のジレンマ
顧客に対して、週に何件もの電子メールを送りつけるという習慣は、なにもD2Cのスタートアップ企業が発明したものではない。電子メールは小売企業にとって、割の良いマーケティングチャネルだ。なにしろ、金がかからない。顧客に電子メールを送るのに、金を払う必要はない。払うとすれば、メールソフトなど、マーケティングソフトウェアの代金のみだ。もちろん、隠れたコストはある。過剰なメール配信は、しばしば、購読者の登録解除を招く、そうなれば、顧客の新規獲得にもっと金をかけざるをえなくなる。
一方で、D2Cブランドは、メーリングリストから登録解除する人を引き留めることに関して、ほかの小売企業にはない、固有の課題を抱えている。まず第一に、D2Cブランドの多くは、ひとつ、もしくはほんのいくつかという限られた品揃えで事業を立ち上げる。マットレスやスーツケースのような、数年に一度しか購入しない製品を販売する企業にとって、単純にメールの件数を増やしたところで、もっと買ってもらえるとは限らない。
第二に、彼らのようなD2Cブランドの多くは、年に何度もセールをしないようにしている。キャンドル販売のアザーランド(Otherland)でマーケティングディレクターを務めるエリカ・アマトリ氏によると、同社がセールを実施するのはブラックフライデーの時期だけという。
コンテンツの中身で勝負
「あるブランドが、消費者向けのブランドで、しかも販売する商品がひとつしかない場合(と言っても実のところ、いまあるD2C企業のほとんどはこの条件に当てはまるのだが)、それをライフスタイルブランドと位置づけ、また、[ユーザーのコミュニティが]配信されてうれしいコンテンツを理解することが重要だ」と、アマトリ氏は語る。
顧客宛てに送る電子メールの適正な件数を特定するのは、科学というより芸術だ。今回、米DIGIDAY兄弟サイトのモダンリテール(Modern Retail)は4社のD2Cブランドに取材したのだが、そのほとんどが1週間に送るメールは2件以内と回答している。ただし、この数字は、メーリングリストに登録はしたが、商品を購入したことはない、あるいはチェックアウトで商品の購入を放棄したなど、いくつかの要因次第で変動する。
次の新商品を発売するまでのあいだ、顧客との関係を維持していくために、モダンリテールが取材したD2Cブランドはみな、商品関連の情報に、ハウツー情報やライフスタイル系のコンテンツを融合させたメールを送るようにしているという。
たとえば、スキンケアとフェミニンケアの製品を扱うブルーム(Blume)は、電子メールで性教育関連のコンテンツを配信している。同社の成長戦略を担当するクリスティン・エバース氏によると、この試みは「あらゆるタブーを打ち破る」という社是にも通じるという。一方、アザーランドは、冬用のキャンドルコレクションのプロモーションとして、メルマガの購読者に「寒い日々をほっこり過ごす」アイデアを提案した。さらに、加重ブランケットを販売するグラビティプロダクツ(Gravity Products)は、5月の電子メールキャンペーンを「メンタルヘルス意識向上月間(Mental Health Awareness Month)」と結びつけ、心の病を抱えた友人をサポートする方法や不安発作への対処法などをテーマに、約10件のニュースレターをメール配信した。
それでも、競合する企業が一斉にセールを実施する期間など、顧客を電子メール攻めにせざるをえないときもある。グラビティプロダクツのデジタルマーケティングと成長戦略を統括するキャラリン・ザモラ氏が編集部に宛てた電子メールによると、通常は週に2件以上送信することはないが、ホリデーシーズンに実施した「10日間のプレゼント」キャンペーンでは、参加ブランドが提供する多様な製品に焦点を当てて、1日に10件の電子メールを送信した。
どんな指標を追跡すべきか?
もうひとつの課題が、電子メールキャンペーンの成果を正しく評価するために、追跡すべき指標を特定することだ。値引きを宣伝する電子メールをより多く送ることが、はじめから有利に評価されるような不公平な指標では話にならない。「当然、[グラビティプロダクツの場合]開封率という点でもっともパフォーマンスの良いメールは、セールの告知や景品の提供に紐付いたものだ」と、ザモラ氏は述べているが、具体的な開封率への言及は差し控えた。
一定期間に過剰なメールを送れば、顧客に鬱陶しがられる危険もある。もはや購読しつづける価値がないと思えば、彼らはメーリングリストから退会してしまうかもしれない。ルーススレッズのシーゲル氏の言葉を借りるなら、「超えてはいけない解除率や退会率があるわけではないが、前週比や前月比は常にプラスでなければ意味がない」。
エバース氏によると、ブルームでは開封率だけでなく、メールに対する顧客の返信も追跡している。コンテンツ重視のメールには概して反響が大きく、たとえば性教育関連のコンテンツを扱ったメールも好評だったという。
「内容を評価するフィードバックが続くかぎり、[顧客への]訴求はうまくいっていると思う」と、エバース氏は言う。氏によると、もっとも活発な顧客に対しては、週に数件の電子メールを送信するという。
ザモラ氏によると、グラビティプロダクツは、メンタルヘルス意識向上月間に関連づけた5月の電子メールキャンペーンを成功と評価した。というのも、同社は数カ月後に、新製品の涼感ブランケットの発売を電子メールで告知したのだが、この電子メールは昨年、ブラックフライデーとサイバーマンデーに送った電子メールを除けば、もっとも高いパフォーマンスを記録したからだ。
ザモラ氏いわく、「グラビティはメルマガ購読者との関係構築に注力してきたが、その努力が実を結んだ」。
「最高のマーケティングチャネル」
多くのブランドが「顧客に過剰な件数のメールを送っているとは思わない」と言う一方、問われているのは、収益目標が引き上げられても、メールの件数を増やさずにいられるかということだ。
「残念ながら、[電子メール戦略の]多くは、社内的な販売目標に左右されがちだ」と、シーゲル氏は嘆く。アマトリ氏も「多くの企業は、メルマガを使って顧客の獲得コスト全体を抑えようとしがちだ」と言っている。
アマトリ氏は最後にこう言い添えた。「電子メールはタダで使える最高のマーケティングチャネルだ」。
Anna Hensel(原文 / 訳:英じゅんこ)