第55回スーパーボウルは、現地時間2月7日(日)にフロリダ州タンパのレイモンドジェイムズスタジアムで開催される。だが今年は、いまや我々の生活全般について言えることだが、この国民的な(それどころか国際的な)メディアイベントにも、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが色濃く影を落としている。
第55回スーパーボウルは、現地時間2月7日(日)にフロリダ州タンパのレイモンドジェイムズスタジアムで開催される。テレビ中継を担当するのはCBSだ。例年なら、30秒でざっと550万ドル(約5.7億円)という広告枠をめぐり、広告主の顔ぶれが大きな注目を集めたり、新しいCMがリークされたりする。
だが今年は、いまや我々の生活全般について言えることだが、この国民的な(それどころか国際的な)メディアイベントにも、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが色濃く影を落としている。たとえば、CBSはいまだに広告枠の販売を終えていない。昨年のスーパーボウルを中継したフォックス(Fox)の場合、前年11月の感謝祭あたりには完売していた。ヒュンダイ(Hyundai)、アヴォカドフロムメキシコ(Avocados from Mexico)、リトルシーザーズ(Little Caesars)など、年来の広告主の多くが今年は出稿を見送った。CMのお披露目も数えるほどで、いつもの勢いはない。先ごろ、スナック菓子のチートス(Cheetos)が俳優のアシュトン・クッチャーを起用したサスペンスタッチのティーザー広告を公開したが、いまのところはその程度だ。
一方で、アンハイザーブッシュ(Anheuser Busch)やトヨタ(Toyota)など、今年は常連の復帰が見られるほか、スーパーボウルに初めて出稿する企業もいくつかあり、この記事の執筆時点では、ファイバー(Fiverr)、ヴルーム(Vroom)、スコッツミラクルグロー(Scotts Miracle Gro)などの名が上がっている。また、ペプシ(Pepsi)は試合の広告主ではないが、ハーフタイムショーの公式スポンサーは継続するという。今大会では、ザ・ウィークエンド(The Weeknd)がパフォーマンスを披露する。
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普通なら、試合の中継以外にも、スーパーボウルのブランド戦略を担う者たちは、衆目とクリック数を稼ぐためにさまざまな趣向を凝らすところだが、スタジアムの観客動員数にも制限がかかるため、そのような活動も現時点では鳴りを潜めている。では、もっとも甚大な影響を受けるのは誰なのか? ほかでもない、開催地のタンパだ。
「この状況によって誰よりも大きな損害を被るのは、タンパであり、地元の産業であり、常であればスーパーボウルをめぐって生じるさまざまなブランディングの機会だろう」。こう指摘するのは、ハバスメディア(Havas Media)で戦略的投資を担当するシニアバイスプレジデントのジェフ・ガニエ氏だ。「タンパの地元民にとっては、期待とはかけはなれたものになるだろう」。
予測が難しい視聴率の数字
今回のスーパーボウルの視聴率がどのような数字になるのか興味深い。例年なら国のあちこちで開かれるであろう観戦パーティも、コロナ対策で自粛の傾向が強まることが予想される。自宅で観戦する人が増えれば、視聴率は上がるかもしれない。実際、あるバイヤーは、感謝祭からクリスマスにかけて総世帯視聴率(HUT)が上昇したと指摘している。
その反面、スモールマーケットの対戦(たとえば、バッファロー対クリーブランド)では、視聴率が低迷する可能性もある。実際に、アラバマ大学がオハイオ州立大学を下した1月中旬の大学フットボール全米王座決定戦では、視聴者が前年よりも700万人減少した。さらに、NBAファイナルとワールドシリーズも低い視聴率に甘んじた。
オムニコム(Omnicom)のスポーツマーケティング部門であるオプティマムスポーツ(Optimum Sports)で、マネジングディレクターを務めるジェレミー・キャリー氏は、スーパーボウルとほかのスポーツイベントではまったく比較にならないと指摘する。「大学フットボールでは、試合日程の制限が視聴率に影響した。オハイオ州立大学が優勝決定戦までに戦った試合数はたったの9試合だ」。一方で、キャリー氏は、NFLがブラックライブズマター(Black Lives Matter)運動の擁護派であることを考えれば、連邦議会議事堂への乱入事件と大統領就任式を経て、大きく二極化の進んだ社会情勢や政治情勢が、最終的な視聴率に影響を与える可能性も否定できないと指摘する。
もとよりスポーツの視聴率低迷にあえぐ市場にしてみれば、視聴率の低いスーパーボウルなど話にならない。匿名で取材に応じたあるバイヤーが指摘するように、スポーツの日程変更が広告主に及ぼした影響はあまりにも甚大で、スポーツの権利所有者たちは、広告主になにかしらの埋め合わせを提供しなければならない状況だ。もしかしたら、CBSの広告枠の売れ残りは、それほど悪い話ではないかもしれない。スーパーボウルほどのスポットなら、大きな埋め合わせになるだろう。
わずかながらもありがたい日常
少なくとも、スーパーボウルは開催される。おかげですべてのアメリカ国民は、わずかながらも日常のありがたみを味わうことができるだろう。新年早々の政治的、社会的な騒動を思えばなおさらだ。「テレビに関するかぎり、平常運転だ」と、ハバスのガニエ氏は言う。「この現状を遠い未来から振り返れば、今年はいつもと違う年に見えることだろう。いずれにしても、この数カ月で、[NFLとテレビ局は]大きな試合を困難な状況下で成功させる術を学んだにちがいない」。
[原文:Media Buying Briefing: Is Super Bowl LV on third and long, trailing in the game?]
MICHAEL BÜRGI(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)