ビューティ業界で大量発生、創業者たちの「離脱」の裏側

クリスマスはすぐそこだ。そんな時期に、2人の有名な美容製品会社の創業者が巨大な複合企業による買収の後、現職を退いた。

2015年にネイティブデオドラント(Native Deodorant)を設立し、最高経営責任者(CEO)を務めたモイズ・アリ氏が、12月9日、プロクターアンドギャンブル(P&G)とネイティブを去った。この大手消費財メーカーは2017年12月に1億ドル(約109億円)でネイティブを買収していた。同じく9日、ユニリーバはサンダイアル(Sundial)の創業者であるリシュリュー・デニス氏が同ブランドの会長兼CEOの職から退くことになったと発表した。デニス氏は今後、起業家として自身のやりたいことに注力し、サンダイアルの新事業であるソーシャルミッションボード(Social Mission Board)を統括するという。アリ氏とデニス氏が買収前の会社の経営で重要な役割を果たしたのは明らかだし、買収後についても同じことが言える。デニス氏は、シーモイスチャー(Shea Moisture)という製品を通じて、アフリカ系アメリカ人の顧客の声とニーズを文化と美容の最前線に引っ張り出した。

北米ユニリーバ(Unilever North America)で美容製品およびパーソナルケア製品担当のエグゼクティブバイスプレジデント兼COOを務めるエシー・エグルストン・ブレイシー氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトであるGlossy(グロッシー)の取材でこう述べている。「リシュリューは、サンダイアルソーシャルミッション、コミュニティインパクト(Community Impact)、そしてこの取り組みの力の源泉とも言うべきビジネスモデル、コミュニティコマース(Community Commerce)を牽引してきた立役者だったし、それはこれからも変わらない。これは彼の情熱であり、会長としてさらに大きな影響力を発揮してくれると期待している」。

相次ぐ創業者の離脱

若いブランドの買収にあたって、買い手の巨大企業は創業者の物語性の重要さを強調するが、それにもかかわらず、ここのところ創業者の離脱が相次いでいる。同じくユニリーバが所有するシュミッツナチュラルズ(Schmidt’s Naturals)の共同設立者でCEOのマイケル・カマラータ氏もそのひとりだ。また、タチャ(Tatcha)の創業者、ヴィッキー・ツァイ氏も今後数カ月のあいだに会社を去るのではないかという噂が渦巻いている。タチャはこの6月、ユニリーバに5億ドル(約547億円)で買収された。さらに、オールズ+アルプス(Oars + Alps)のローラ・リソフスキー・コックス氏とミーア・サイニ・ダチノフスキー氏も、SCジョンソン(SC Johnson)による6月の買収に伴い、同ブランドを去る模様。買収額は2000万ドル(約21億円)と報道されている。なお、ツァイ氏はただちにこの噂を否定した。

「そのような考えは頭をかすめたこともない。タチャは私のライフワークだ」と、ツァイ氏はコメントしている。

オールズ+アルプスとSCジョンソンも両氏の離脱を否定している。

ダチノフスキー氏本人も次のようにコメントしている。「オールズ+アルプスを支える魔法のひとつは、我々がスタートアップであること、スタートアップらしく思考し、行動することにある。私の仕事は、SCジョンソンの支援を最大限受ける一方で、このスタートアップとしての魔法を維持することだ」。

巨大企業の内部の問題

ある創業者がオフレコで語ってくれたところによると、昨今の買収後の創業者エクソダス(大量離脱)は既存の巨大企業の内部で起きている構造改革と経営体制の刷新によるものという。

「大きな企業は変革のただ中にあるが、縦割りの構造はいまも残る。P&Gではオフラインとオンラインのような構造改革を模索中だし、経営陣の総入れ替えも進行している」と、この人物は言い、後者は2018年11月にポール・ポールマン氏の退任以降の連鎖反応だと指摘した。

だが、大きな企業には重大な目標がある。率直に言えば、規模だ。ネイティブの新CEOで、現在、P&Gアジアのスキンケア部門を率いるヴィニート・クマル氏は、WWDに「ネイティブを10億ドル(約1095億円)規模の事業にしたい」と語っている。創業者のアリ氏やツァイ氏はそれぞれのブランドを売上1億ドル(約109億円)の事業に育て上げたが、5億あるいは10億ドルの売上を生み出せるだろうか?

買収後の創業者の現実

ボビイ・ブラウン氏のように、ブランドの創業者が買収後も長期にわたって経営に関わりつづけるのは、もはや遠い過去の話だ。ブラウン氏は自分の名前を冠したブランドがエスティローダーカンパニーズ(Estée Lauder Companies)に買収された後も、22年にわたってこのブランドにとどまった。

ブラウン氏は以前、Glossyにこう語っている。「ある時点を過ぎると自覚する。『ねえ知ってた? 私はもうボスではないのよ』。最初の18年から20年、私はボスだった。会社の方針を決めるのは自分だと心から信じていた。人事だって私がやった。それなのに突然、状況は変わってしまった。そして『自分はもう自分の信じることをやっていない』と気づいたとき、もう一度ボスに戻ろうと思った。私は起業家だ。自分の思う通りに行動したい。でも、大きなブランドの一部である限り、それは必ずしも適わない」。

もちろん、大企業には大企業なりのやり方がある。だが、創業者との関係を絶つことは、ときに難しい問題をはらむ。ブラウン氏の名前を冠したブランドは、当のブラウン氏が離脱して以降、足場固めに苦戦し、北米での売上を伸ばすために、ほかのメイクアップアーティストやインフルエンサーに頼らざるをえなくなった。10月、軟化しつづける米国の化粧品市場を背景に、ボビイブラウンはイタリアに進出した。

「ひとつの顔に頼りたがらない」

ドランクエレファントは資生堂グループに買収されたが、創業者ティファニー・マスターソン氏の去就は明らかでない。ナーズ(NARS)のフランソワ・ナーズ氏、ローラメルシエ(laura mercier)のローラ・メルシエ氏はいずれも会社を去っている。

投資会社が絡む場合も厄介だ。セレブ御用達のメイクアップアーティスト、キャロル・ショー氏も自身が立ち上げたブランドのロラック(LORAC)を離れたが、原因は投資会社のアンコールコンシューマキャピタル(Encore Consumer Capital)との方向性の違いだった。しかし、ロラックを買収したマークウィンズビューティブランズ(Markwins Beauty Brands)は、ショー氏の離脱によりブランドの価値が減衰したとして、氏との関係回復を図っている。

離脱組の別の創業者は、巨大企業が同じ道をたどって成長することを考えると、これは興味深い現象だという。

「大企業はチャネルを増やし、カテゴリーを増やし、市場を増やして成長するが、ひとつの顔に頼りたがらない」と、この人物は指摘する。

起業家精神旺盛な場合も

反面、創業者のなかには、起業家精神旺盛で、新しい牧場はもっと青いだろうと期待しながら、事業を興したがるものもいる。

これはカマラータ氏にもあてはまる。氏はシュミッツナチュラルズを辞して、カナビス(大麻)を扱うネプチューンウェルネスソリューションズ(Neptune Wellness Solutions)に加わった。来年の第1四半期中に、美容、パーソナルケア、ホームケア、ペットケアを含む、麻を使用した製品ラインとしてフォレストレメディーズ(Forest Remedies)をリリースする予定という。

「私はブランドを作るのが好きだ」と、カマラータ氏は言う。「カナビスには大きな機会があると思う。これほど革新的なブランドを作るチャンスは二度と来ないかもしれない」。

カマラータ氏はシュミッツを離れる前の4月、このブランドで麻から抽出した成分のデオドラントを発売した。2017年12月にユニリーバに買収された当時、シュミッツはデオドラントのみのブランドだった。今日、製品ラインは、美容、パーソナルケア、ホームケアに拡大されている。

「苦戦する姿は見たくない」

1933年にブリス(Bliss)を設立したマルシア・キルゴア氏は、株式の過半数をLVMHに売却し、続いてソープ&グローリー(Soap & Glory)を創設、今度はそれをブーツアライアンス(Boots Alliance)に売却した。現在は新しいプロジェクト、ビューティパイ(Beauty Pie)に注力している。最近、ブリスはマスティージ(マス+プレスティージ)路線から量産路線に転換し、商品展開とスパ事業を分離した。

ブリスの現在の状況に関して、キルゴア氏は次のように述べている。「苦戦する姿は見たくない。自分が作ったブランドには成功してほしい。特にそのブランドのために尽力した人々のためにも。でも、それは私の責任ではない。だから見ていられない。私は何事もうまくやりたいし、自分で実行したい。自分の支配下になければ、何をするのも難しい。だから見ないことにする」。

それでも、巨大企業による創業者ブランドの買収が減速するわけではない。

究極的には当事者次第

オールズ+アルプスのダチノフスキー氏は次のようにコメントしている。「SCジョンソンのようなパートナーを迎える良い時期だと感じたとき、オールズ+アルプスは2歳半という若い会社だった。会社を作ったとき、私のお腹には3人目の子どもがいた。会社を売ったとき、私のお腹には4人目の子どもがいた。オールズ+アルプスはもうすぐ幼稚園というよちよち歩きの子どもみたいなもの。今後も関わりつづけたいし、私はオールズ+アルプスの成功には必要な存在だと思う。この夏には新しい製品を大々的に発表する。いまはこれに心血を注いでいる」。

つまり、ブランド創業者の方向性とブランドの方向性の擦り合わせは、究極的には関係する当事者次第ということだ。

ブラウン氏はこう助言する。「私のアドバイスは常にこうだ。あなたのストーリーはほかの誰のストーリーとも異なる。だから自分がやりたいことを見つけなさい。ただし、ブランドを売却したら、これまでと同じままというわけにはいかないと知るべきだ」。

PRIYA RAO(原文 / 訳:英じゅんこ)