保険スタートアップのレモネード(Lemonade)が、インハウスのクリエイティブエージェンシーを作ろうとしている。同社は現在、コピーライター、ストラテジスト、デザイナー、アートディレクターなどの直接採用を検討しているのだ。これによって、クリエイティブを社内でコントロールしようとしている。
保険スタートアップのレモネード(Lemonade)が、インハウスのクリエイティブエージェンシーを作ろうとしている。
同社が先月、クリエイティブマーケティング部門の新責任者に任命したのは、業界歴も長く、最近まで広告エージェンシーの72アンドサニー(72andSunny)でFacebookやGoogleといったクライアントを担当していたヌーノ・フェレイラ氏だ。そんなフェレイラ氏の指揮のもと、レモネードでは現在、クリエイティブチームを作ろうと、コピーライター、ストラテジスト、デザイナー、アートディレクターなどを増やそうとしている。大規模なチームにはならない。同社の共同創業者でチーフレモネードメーカーであるシャイ・ウィネガー氏は、総勢10〜15名のクリエイティブ職を採用したいとしている。狙いは、このインハウスチームの力で、同社のクリエイティブなコンテンツを素早く柔軟に、そして効率よく内製することだ。
「人が毎日出入りして問題に取り組み、私たちが目指す愛されるブランドとはどんなものかを理解するということが、当社のブランド構築に適したやり方だ」と、ウィネガー氏は語る。「エージェンシーとの仕事はどうしてもビジネスライクな取引になってしまう。大抵は時間制だし、予算も決まっているので、その範囲のなかで何とかするしかなく、手を抜くところが出てくる。凡庸なコンテンツになることが多いのは、(エージェンシーが)制限のあるなかでやりくりしているからだ。そういうやり方は、我々には合わない」。
Advertisement
レモネードは、すでに社内に20人ほどからなるグロースチームを持っており、ここ2年ほどはこのチームが、ダイレクトレスポンスマーケティングやプログラマティックマーケティングを取り仕切ってきた。これまでレモネードが行なってきたマーケティングは、大部分がこの2種類で、その制作を今後はインハウスのクリエイティブチームが手がけることになる。また、このクリエイティブチームは、レモネードがデジタル領域以外のマーケティングにも手を広げる推進力となる役割も担い、屋外広告やオフライン広告といった、従来型のマーケティングも開始していくという。
「目指すのは、自分たちが慣れ親しんでいるデジタル以外の領域でも成長することだ」と、ウィネガー氏は話す。「ブランドアイデンティティ周りや、ブランド認知を上げるためのキャンペーンには、まだそれほど手をかけてきていない」。
社内でコントロールする利点
全米広告主協会(Association of National Advertisers:ANA)による2018年度のレポートを見ると、調査の対象となったマーケターのうち78%が、社内にエージェンシーチームを有していると回答しており、その割合は2013年度の58%から大きく増えている。そして、米DIGIDAYの調査からわかるのは、マーケティングをインハウスで行う動きが進んでいる理由に、マーケターがエージェンシーからマーケティングの主導権を取り戻そうとしていることがあるという点だ。
若い企業、特にデジタルネイティブのスタートアップは、エージェンシーではなくインハウスのチームを使うことが多い。一般的にネット直販(Direct to Customer:D2C)ブランドは、その業界をディスラプト(創造的破壊)しようとするものであり、そうした意識を持つブランドだからこそ、エージェンシーと従来の関係を結んでマーケティングを行うよりも、社内でコントロールしようとするのだ。
まだ、外部のエージェンシーと組んでマーケティングを行なっていないレモネードの場合、主導権を取り戻さなければならないという問題はない。だが、ウィネガー氏は、質の高い広告を大量に、かつタイミング良く制作するのに向いているのは、エージェンシーよりも社内のクリエイティブチームになるだろうと考えている。ただ、だからといって、外部のエージェンシーとは一切仕事をしない、というわけではない。社内のクリエイティブチームが行き詰まり、プロジェクトに新たな視点が必要となった場合には、外部に助けを求める道も開かれている。ウィネガー氏は、メディア購入についても、一部は外部のエージェンシーが担当する可能性が高いとしている。
フェレイラ氏は現在、保険ビジネスを学び、チームメンバーの採用に注力しているところだ。それと並行して、数名のフリーランサーとともに、新しい屋外広告や、テレビスポット、デジタルキャンペーン、スタント広告、新しいブランドブックの制作や、メッセージを伝える順序の策定などにもあたっている。
フェレイラ氏にとっては、製品のデザインやUXといったコミュニケーション以外の部分でも、クリエイティブがレモネードのビジネスに影響を与えられる点が魅力的だったという。
専用アトリビューションツール
もうひとつ優れた人材に魅力を感じてもらえるであろう差別化ポイントは、同社が保有している消費者に関するデータのレベルが高く、それをクリエイティブに活用できる可能性がある点だと、ウィネガー氏はいう。レモネードは「モヒート(Mojito)」という専用アトリビューションツールを社内に持っており、そこから消費者に関するきめ細やかなデータを取得して、クリエイティブに反映できる。
「その大部分は、私たちの『秘伝のソース』だ」と、ウィネガー氏は語る。「創業以来、社内のツールやテクノロジーは、広告をどう展開するかを考えて構築してきた。まず重要なのが、適切なアトリビューションだ。優れたアトリビューションシステムがないのは、目隠しをして走っているようなものだろう。これは現在、広告業界が抱えているもっとも大きな課題だ。デジタルプラットフォームであっても、うまくアトリビューションするのは簡単ではない。社内でツールを作ろうというなかでも、アトリビューションはひとつの重要な部分だった」。
このアトリビューションツールを使えば、レモネードは1万種類の広告を、1万の異なるユーザーやセグメントに届けられる。「このツールの開発には、かなりの時間を費やした」と、ウィネガー氏はいう。「予測用のペルソナがあれば、そのペルソナに合った広告を配信できる。そうして、ユーザーの世界観にヒットする可能性や、そのときのニーズに合うかどうかを改善していけば、コンバージョンは劇的に上がる」。
このデータにアクセスできることを魅力と捉える人たちが、インハウスのクリエイティブチームを志望してくるだろうとウィネガー氏は考えているのだ。
「ブランド開発上の課題」
「レモネードは、これまで人的資本を多く使い、専門性を重視してきた業界を、AIを活用してデジタルトランスフォーメーションし、創造的に破壊しようという流れに乗って出てきた企業のひとつだ」と語るのは、米エージェンシー、メカニカ(Mechanica)のCEO兼戦略ディレクターのテッド・ネルソン氏だ。「テクノロジーを使い、従来の人的資本集約型産業のコストを削減するというのがその本質なのだから、内製化してエージェンシーのコストを削減しようとしているのも不思議ではない」。
「問題は、人間が介在していない保険代理店を人間に信用してもらうという、ブランド開発上の課題が非常に大きくなることだろう」と、ネルソン氏は付け加えた。
Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)