Facebookアプリの責任者だったフィジー・シモ氏は7月第1週目、食料品配達アプリの インスタカート のCEOに就任すると発表した。同氏がインスタカートのビジョンとして掲げたのが、「週に何度も開き、食べもののコンテンツに触発され、オンラインで食料品を購入したくなる、信じられない消費者向けアプリ」というものだ。
食料品配達アプリを運営する米インスタカート(Instacart)による新CEO起用は、同社がより伝統的なソーシャルアプリの足跡を辿ろうとする野心を示した。
Facebookアプリの責任者だったフィジー・シモ氏は7月第1週目の週末、インスタカートの上場が噂されるなか、同社CEOに就任すると発表した。CNBCとのインタビューに応じたシモ氏が、インスタカートのビジョンとして掲げたのが、「週に何度も開き、食べもののコンテンツに触発され、オンラインで食料品を購入したくなる、信じられないような消費者向けアプリ」というものだ。同氏の説明によると、インスタカートは、スーパーアプリに近いもの、少なくとも、従来の食料品の注文だけでなく、コンテンツを通じてユーザーを呼び込むことを優先したバージョンになるということだ。
ソーシャルメディア化に活路
シモ氏は、インスタカートが引き抜いたFacebook幹部の中でもっとも新しい人物となる。その幹部のなかには、Facebookのプロダクトチームの出身の人も含まれるが、シモ氏の起用は、インスタカートが、将来的によりソーシャルメディアに近いものにシフトするということ、また、ユーザーが日常的に利用することや広告に重点を置くようになることを示している。同社はすでに、食料品以外のカテゴリーにも着目しており、顧客が処方箋からペットフードまで、あらゆるものを注文する場所になることを目指している。デジタルマーケティング会社カタリスト(Catalyst)のマネージングディレクターであるタリック・ムギスディン氏は、メールインタビューで次のように述べている。「インスタカートは単なるオンライン上の食料品店ではなく、気づけば多くの消費者にとって日常生活の中核をなす存在となるまでに成長した」。
Advertisement
市場調査会社パッケージドファクツ(Packaged Facts)の食品・飲料アナリストであるカーラ・ラッシュ氏もメールを通じ、「インスタカートが食品コンテンツで消費者を刺激するような、素晴らしい消費者向けアプリになる、というシモ氏のビジョンは、オンライン食料品市場全体のゲームチェンジャーになる可能性がある」と話す。シモ氏は、Facebook在籍時、FacebookウォッチやFacebookライブなど、Facebookアプリのなかでもより大きな役割を果たすゲームや動画に深く関わっており、Facebookアプリと同じ機能を持つインスタカートの将来の姿を潜在的に予見していた形となった。
ラッシュ氏は、オンライン食料品店が「消費者のロイヤルティを高めるために、レシピやブログ、献立計画のサポートを提供するようになってきている」一方で、ソーシャルメディアならではの感覚、特にソーシャルコンテンツの共有のしやすさを再現しているところは少ないと指摘する。もしインスタカートが、レシピや動画を使ったソーシャルな体験を取り込むことができれば、「友だちとコンテンツを共有したり、食を通じてライフスタイルを変えるきっかけになり、人々が週に何度も開きたくなるようなアプリにすることができるかもしれない」と話す。
広告ビジネスにも波及
シモ氏のビジョンは、インスタカートの広告ビジネスにも大きな影響を与えると見られる。広告ビジネスの売上はすでに3億ドル(約330億円)にまで成長しており、同社のビジネス全体の20%を占める。人々がインスタカートのアプリをより頻繁に利用するようになれば、理論上は、より多くの広告料を請求できるようになる。
インスタカートはここ数カ月、広告面がブランドにとってより魅力的なものになるよう取り組んできた。ブランド側がインスタカート上での商品の表示や説明を編集できる新機能を追加したが、これは、ブランドがアプリ上での表示をよりコントロールできるようにするための一歩となる。シモ氏はFacebook時代、「Facebook広告を利用した新しい企業を数多く見てきた」といい、このパターンは、彼女がインスタカート在任中にも発生すると予想している。
eコマース広告プラットフォームのパーペチュア(Perpetua)で成長担当バイスプレジデントを務めるアダム・エプスタイン氏は、「シモ氏が、アプリのエンゲージメント向上に注力することを期待している」と話し、「エンゲージメントの高いユーザーが増えれば、当然、広告収入も飛躍的に増加する」と加えた。
従来の戦略に課題も
注目を集めた新役員の起用だったが、インスタカートはさらに多くの課題に直面している。たとえば、食品デリバリー業界の最大手ドアダッシュ(DoorDash)のような競合企業は、食料品分野への投資を増やしている。ドアダッシュは6月、食品スーパーのアルバートソンズ(Albertsons)との、食料品の配達に関する重要な契約を獲得した。インフォメーション(The Information)の報道によると、インスタカートは長いあいだ、食料品分野でのエクスクルーシブなパートナーシップに頼っており、小売パートナーの85%が独占契約を結んでいるが、そのうち数社は独占契約期間の終了を迎える。さらにインフォメーションは、消費者行動データ分析サービスのブルームバーグセカンドメジャー(Bloomberg Second Measure)のデータを引用し、週間売上高がパンデミック時のピークから落ち込んでいることを報告した。3月最終週から6月第1週までの売上高は、前年同期比で16%減少したが、ウォルマート(Walmart)のような同業他社は同期間中に20%増を達成したという。
インスタカートが、アプリを顧客が習慣的に訪れる場所に変え、広告主が投資のターゲットにしたくなるように取り組むことは、同社が安定したペースを保つためのひとつの方法かもしれない。食料品店の競合クローガー(Kroger)も広告に投資しているが、インスタカートは比較的リードしている。ラッシュ氏は、今後のインスタカートの広告について、「特に地元の食品生産者、生協、ファーマーズマーケットが、この方法で消費者とのエンゲージメントを高めようとする可能性は大いにあると思う」という。
[原文:Instacart’s new CEO signals a social media-like future]
Michael Waters(翻訳・編集:戸田美子)