髭剃り・整髪・スキンケアなど、男性向けの「グルーミング(身だしなみ)」プロダクトは、その範囲を拡大している。本稿では、男性消費者が、どのように新しいグルーミング製品を発見しているのか? について追っていく。
髭剃り・整髪・スキンケアなど、男性向けの「グルーミング(身だしなみ)」プロダクトは、その範囲を拡大している。本稿では、男性消費者が、どのように新しいグルーミング製品を発見しているのか? について探る。
ニック・バン氏が共同創設者アナリス・ヒルマン氏と一緒に創設したZ世代向けのグルーミング・ブランド「フロントマン(Frontman)」。その主要プロダクトについての説明を聞いたとき、筆者は「彼らの男友達がそのプロダクトをすぐに『理解』できたのか」を尋ねた。その理由は、フロントマンのメインプロダクトであるフェード(Fade)は、ほとんどメイクと同じようなプロダクトだったからだ。ニキビを撃退するためのサリチル酸を含む、薬用かつコンシーラーのような、このクリーム。バン氏とヒルマン氏は、ハーバード大学の学部生だった2018年に、フロントマンの開発に着手した。バン氏は2019年に卒業し、ヒルマン氏はその翌年に卒業したという。
「このアイデアを検討していたとき、それを聞いたルームメイトのひとりは『オレは絶対にメイクをしたりしない』と言った。しかし卒業式の日、彼の顔には大きなニキビができていた。すると彼は『ごめん、作ってたメイク、少し使わせてもらえる?』と聞いてきたんだ」と、バン氏は説明した。フェードはルームメイトのニキビを隠しただけでなく、その治療にも役立った。つまり、彼はニキビを隠すという即時の効果と、ニキビが治ったあとのキレイな肌のふたつを、ひとつのプロダクトで手に入れたのだと、バン氏は言う。フロントマンは先月、同社のeコマースサイトを通じて公式にローンチした。ヒルマン氏は、フェードがニキビに悩む男性にとってのフェンティ・ビューティ(Fenty Beauty)のようになることを期待している。現在、フェードには4種類の色合いがあり、この夏にはさらに多くの色合いが登場する予定だ。
Advertisement
フロントマンが目論む勝機
フロントマンは、グルーミング製品とは何か、を再定義している。ヒルマン氏とバン氏によると、グルーミングの未来は剃刀やデオドラントではないという。しかしハリーズ(Harry’s)、ダラー・シェーブ・クラブ(Dollar Shave Club)、ネイティブ(Native)といったブランドによって、男性市場で起きているイノベーションの多くは、まさに剃刀とデオドラント分野だ。
フロントマンはまた、Z世代のティーンエイジャーや男性たちが、若い女性のような買い物行動を見せていることに賭けている。一部のミレニアル世代と同様に、彼らは母親や彼女・妻にグルーミング製品の購入を頼るよりは、オンラインでリサーチをし、ソーシャルプラットフォームやインフルエンサーを通して、プロダクトを発見している。
「我々は、男性のグルーミングを先進性のある曲線として捉えている。男性のなかには母親や彼女から(メイクなどのグルーミング製品を)借りている人もいる一方で、自分自身でセフォラ(Sephora)やウルタ(Ulta)に行く人もいる。我々は、新しいことにオープンな主流の(一般的な)男性たちに商品を使ってもらうことを主眼に置いている」とバン氏は語る。1月にデビューして以来、このブランドはマーケティング予算の大部分を、有料のソーシャル戦略と、スティーブン・アントニーニやネイッコ・ブレルといった比較的小規模なTikTokインフルエンサーへの商品贈呈に費やしてきた。
男性顧客をいま狙うべき理由
マッキンジー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)のアソシエイト・パートナーであるエミリー・ガーステル氏は、ブランドたちは若い男性の買い物客をもっと喜んで歓迎すべきだと述べた。「女性の場合は、家事の負担を負っているため、1箇所で買い物をすることが多い。それがコロナウイルスの期間中に大規模な量販店が繁盛した理由だ。男性は買い物をするとき、自分のために買い物をする傾向があるので、購買客としてはモチベーションが高く、正規価格で買い物をする可能性が(女性と比べて)高い」と、彼女は述べた。
ガーステル氏はマッキンゼーの消費者調査を引用し、雇用と経済の点では男性は女性よりもコロナウイルスの影響を受けにくいことが分かっている、と指摘する。このことは上記の男性買い物客の重要性にもつながる。
男性はまた、ビューティ商品を使うことに対する心理的なハードルがより高いようだ。「(男性はグルーミング商品を)社会で一般的になっているから購入する、というよりは自分の判断として購入している。そのためビューティ商品を購入すると決めた男性は、クリーンかつナチュラルな規格と効果を期待している、とガーステル氏は言う。マッキンゼーの調査によると、女性の買い物客の65%が美容品を買う際に価格を優先しているのに対して、男性は35%だった。しかし、プロダクトのポジショニングがクリーンでナチュラルなものか、プロダクトに高級感があるか、を重要視するかという点に関しては女性消費者の55%に対して男性消費者も45%、となっていた。
老舗ブランド・アックスの事例
老舗の男性向けグルーミングブランドでさえ、Z世代に購入してもらうアプローチは、ブーマー世代やX世代とは異なることを理解している。アックス(Axe)は、グルーミング分野に手を出そうとしている若い男性を顧客のメインターゲットとしている老舗ブランドだ。彼らもまた2021年には、新たなビジュアルと広告メッセージを開発してマーケティングを刷新したと、アックスのブランドディレクターであるマーク・ロドウィック氏は述べた。
また、製品群のアップデートも行ったという。「トレンドが変化し、好みが変わるなかで、私たちは常に進化し続けなければならない。フレグランスは多くの若い男性のグルーミングカテゴリーの中心であるため、アックス(のプロダクト)の新鮮さと衛生面をレベルアップさせた」と、ロドウィック氏は語る。
それに加えて、アックスはTikTokやTwitch(ツイッチ)のような新しいプラットフォームにも初めて登場。「さまざまな人々にアプローチをする場合、ひとつのやり方で全員に対応するようなマーケティングはもはや通用しない」とロドウィック氏。「Twitchでは、ゲーミングのオーディエンス向けにキュレーションをして、彼らに本当の意味での語りかけを行っている。Z世代の意見を尊重し、価値を理解しなければ、彼らは反応しない。我々の新しいキャンペーンでは、男性たちに直接話しかける。ユーモア、音楽、多様性、色彩を強調して、彼らをワクワクさせる」。
「今、非常に注目を集めている」
フロントマンもまた、マーケティングにおけるよりダイレクトなアプローチに集中している。同社のウェブサイトの「ニキビガイド」セクションには、次にように書かれている。「ウェブMD(WebMD:北米で人気の医療情報サイト)でニキビに関する情報を読んで(その量に)圧倒されたこと、ある? あるよね、私もだ。君の大事な時間を節約するため、必要な情報をすべてここにまとめておいたよ。ほかに質問があれば、この番号にメッセージを送ってくれ:(213)214ー1242」。それに続いて、「にきびの原因は何か?」「肌の手入れはどうすればいいか?」「にきびを早く治すにはどうしたらいいか?」といった見出しのついた記事が、何分で読み切れるかの時間も表示されて、掲載されている。
同ブランドは現在、200万ドル(約2.2億円)のシード資金調達を目指してVCファンドと交渉中である。プレシード段階では、成長中の男性マーケットを攻略するためにスティラ(Stila)のファウンダー、ジャニン・ロベル氏とリチャージ・キャピタル(Recharge Capital)などから15万ドル(約1640万円)の資金を調達した。ミリオン・インサイツ(Million Insights)のデータによると、男性のグルーミング市場は2025年までに790億ドル(約8.6兆円)近くに達すると予測されており、スキンケアとヘアがその成長を支えている。
ヒルマン氏は、ビューティマーケターが男性消費者、ましてや14歳から24歳の男性消費者を完全には押さえていないことを認め、「多くの大企業はこの市場に参入する方法を知らないが、我々であれば自分の年齢の男性に役に立てることを知っていた」と述べた。「成長する過程で、スキンケアや化粧品、グルーミングに関して、女子と男子では異なった経験を持つ。(女性である)私は若い頃からいろいろと試せる自由があったが、ニックにはなかった。しかし、男性のための(グルーミングの)ブランド発見は今、非常に注目を集めている」。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: Inside the male shopper’s new path to purchase]
PRIYA RAO(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)