2年の開発期間を経て、あるウェアラブル製品が販売開始された。ただし、これは手首に取り付けるウェアラブルではない。 「ナディエックス パンツ&パルス(NADI X PANT & PULSE)」と名付けられたこの製品は、コネ […]
2年の開発期間を経て、あるウェアラブル製品が販売開始された。ただし、これは手首に取り付けるウェアラブルではない。
「ナディエックス パンツ&パルス(NADI X PANT & PULSE)」と名付けられたこの製品は、コネクテッドアパレル企業のウェアラブルエックス(Wearable X)が開発したヨガパンツと「パルス」発生装置のセットで、価格は229ドル(約2万5000円)からとなっている(ヨガパンツは199ドル[約2万2000円]で追加購入可能。ヨガパンツに取り付けるパルス発生装置は1台のみ購入すればよい)。
ヨガを行うときにこのヨガパンツを着用すると、パンツに仕込まれたファイバーがユーザーの身体の動きに合わせて振動し、姿勢をガイドする。また、ユーザーが無理な姿勢を取ってケガをする恐れがある場合は、振動を連続的に発生させて警告する。パルス発生装置をヨガパンツの隠しポケットに入れることで、くるぶしや膝や臀部に振動が集中的に伝えられる。
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ナディエックスのような衣服型ウェアラブルは、かなり前から登場が予想されていたが、実際に販売されることはほとんどなかった。そのため、いまは製品について学んでもらう段階だ。ヨガの初心者であれベテランであれ、身体の動きに応じて発生する振動に従って姿勢を修正する方法を習得している人は、まだいない。また、パルス発生装置を使ったあと、ヨガパンツを充電することを忘れないようにしなければならない。
ウェアラブルXの創設者であるビリー・ホワイトハウス氏にとって、ナディエックスの発売は、ウェアラブルに対する人々の考え方を変え、機能性アパレルと人間との関係をより良いものにしたいという目標の実現に向けた最初のステップだ。
「ウェアラブル業界全体が、『健康を数値化する』といういまの流れから転換する必要がある。我々の目標は、ウェアラブルを日常の活動に組み込むことだ。私としては、ウェアラブルをよりソフトでフェミニンなものにしなければならないと考えている」とホワイトハウス氏はいう。「ウェアラブルはいまや陳腐なものになってしまった。(中略)だが、うまく取り組めば、もっと大きなアパレル業界にとって不可欠な存在になる。我々は、テクノロジー企業としての地位だけでなく、ファッション企業としての地位を得たいと考えている」。

ナディエックス
ホワイトハウス氏が述べたような問題が、ウェアラブル業界の規模拡大を長いあいだ阻んできた。「ウェアラブル」という言葉は現在、フィットビット(Fitbit)の製品だけでなく、パーソンズ美術大学(Parsons School of Design)とインテル(Intel)が(デモしたような自ら変化する衣服、あるいは人間の動きに反応するヨガパンツなど、非常に広範囲なものを指すようになっている。その結果、最新の衣服と実生活との結びつきは失われやすい可能性がある。
インテルの研究施設では多くのイノベーションが生まれているが、それらが市場で販売されることは決してない。同じように、ファッションブランド「クロマット(Chromat)」のデザイナー、ベッカ・マッカレン氏が手がけたウェアラブルデザインは、ランウェイでは大きな話題となったものの、彼女の既製服ラインとして販売されることはなかった。
「ファション企業はイノベーションが苦手」
起業家、インテルなどの企業、製造メーカー、そしてベンチャーキャピタリストの誰もが、ある考え方に同意している。それは、スマートアパレルの未来は布地にあるというものだ。
「ファッションを投資対象としてみたとき、技術革新が起こるのは生地のような分野だと考えるようになった」と、投資会社ブルー・ラン・ベンチャーズ(Blue Run Ventures)のパートナー、シェリル・チェン氏はいう。
現時点では、生地におけるイノベーションが、大量の「テクニカルファブリック」製品を市場にもたらしている。汗の乾きやすさやシワのつきにくさが大きく向上したことを売りにした製品だ。機能性アパレルの分野では、アスリータ(Athleta)の「スカルプテック(Sculptek)」など、伸縮性やフィット感を向上させた製品が、大衆向けブランドの大きな進歩と考えられている。だが、スマートファブリックのポテンシャルを活かした製品が一般向けに発売されたことはない。たとえば、健康上の問題を発見したり(乳ガンを発見できるブラジャーなど)、体温や外気温に反応したりする製品だ。その理由は、洗濯機で洗うことが難しかったり、着心地が良くなかったりといったことにある。
ホワイトハウス氏はナディエックスの開発にあたって、衣服型ウェアラブルは未来的なデザインでなければならないとか、オリンピック選手や最先端の軍隊のものだという通念を否定したいと思っていた。ナイキ(Nike)やニューバランス(New Balance)などのブランドは過去にそうした製品を目指してきた。
「我々がターゲットにしているのは女性だ。そのため、高機能を競う分野で製品を立ち上げたくなかった。これは、心地よい気分にしてくれる最新の高級品なのだ」と、ホワイトハウス氏はいう。「問題は、ファッション企業がイノベーションを苦手としていることにある。だが、テクノロジー企業の方も、ファッション性を高めることが苦手だ」と彼女は指摘した。
「ヨガ界のペロトンサイクル」
ホワイトハウス氏は、ヨガパンツを開発中、まるで5つの別々の企業を同時に経営している気分になったと語る。彼女のチームは、社内外の製品デザイナー、技術者、衣類のエンジニア、製造業者、フロントエンドおよびバックエンドの開発者で構成されていた。そして、すべてのメンバーが同時並行的に仕事をし、歩調を合わせられるようにしていたのだ。
チームは、身体の動きに合わせて触覚フィードバックをユーザーに返せる独自の布地を開発。また、衣類を充電できるスリムな外部デバイスとコネクテッドアプリを開発した。ホワイトハウス氏が「他家受粉が得意な花粉の運び手(※参考)」と呼ぶチームは、最終製品のどこかにひとつ変更が加えられるたびに、全体をテストし直した。
チームがこうした取り組みを数百回も繰り返したおかげで、4つのカラーが用意され、洗濯機で洗えるヨガパンツが完成した(ただし、ホワイトハウス氏は手洗いを勧めている)。ナディエックスのウェブサイトには、ユーザー向けガイドとデモ動画が掲載されている。

ナディエックスの利用マニュアル
こうして誕生したヨガパンツは、「ヨガ界のペロトンサイクル(Peloton Cycle)」になる可能性があるとホワイトハウス氏は考えている。ペロトンの自転車を買ったユーザーはインターネットで自転車のトレーニングを受講できる(※参考)が、振動でガイドしてくれるヨガパンツがあれば、ユーザーはヨガのインストラクターに直接教えてもらわなくても済むようになるからだ。
ここで重要なのがアプリだ。アプリを使えば、ヨガのレベル(初級、中級、インストラクター)を選んで、難しい姿勢や習得したいポーズを選択できる。すると、ヨガパンツがユーザーの姿勢を認識し、その姿勢に合わせた振動を送って正しい姿勢をガイドする。ユーザーが無理な姿勢を取ったり、ケガをしそうな場合は、強い振動を送ってユーザーに警告する。
「当初から、最新のライフスタイルブランドとして、このブランドを構築していた」と、ホワイトハウス氏はいう。「人々は、ヨガパンツが快適であれば、それをサポートする技術にお金を払うことを厭わない。だから、我々はそうしたメッセージを発信していきたいのだ」。
新しいタイプのアスレチックブランドの構築
ゆくゆくは、ヨガなどの特定の用途が、ファブリックテクノロジーを特徴とする新しいスタイルが受け入れられる素地を作り出すかもしれない。
「まずはアーリーアダプターが、特定の目的に合わせて衣類を利用するようになるだろう。その後、こうした製品が少しずつ浸透し、さらに広いユーザー層に届くようになる」と、非営利の教育機関プラット・インスティテュート(Pratt Institute)で教えるレベッカ・ペイルズ・フリードマン氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトであるグロッシー(Glossy)のインタビューで語っている。
ホワイトハウス氏は、2018年に新製品をリリースする計画をすでに立てている。狙いは、ランニングやウェイトリフティングなど、ガイドなしに行うことの多い活動でガイドが得られるようにして、人々の役に立つことだ。
「ヨガから取り組みはじめた理由は、あまりに多くのものを一度に提供して人々を混乱させたくなかったからだ。だが、2018年にはほかの類似製品をリリースする計画だ」と、ホワイトハウス氏はいう。「我々は最初から、触覚を利用したブランドを目指している。当初の目的は、タッチテクノロジーを利用してユーザー体験を強化することだった。我々はこれを、日常生活の一部にしたいと考えている」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)