反トランプのスパイス企業、「意見広告」で60%の売上増:「紙をやめて、売上は順調かつ安定」

先ごろ、ビル・ペンジー氏は怒れる顧客から1通のメールを受け取った。「これで4通目の絶縁状だ」と書かれていた。ペンジー氏はペンジーズスパイシーズ(Penzeys Spices)の最高経営責任者(CEO)なのだが、怒りの原因は商品への不満ではなく、Facebookへの投稿だった。

ドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国の大統領に選出されて以来、ペンジー氏はFacebookを使って、政治問題や世界情勢、そしてときには店で売っているスパイスについて、自分の意見を述べてきた。直近の投稿は1500語を超える内容で、こんなふうにはじまる。「我々の知る共和党の終焉だというのに、気分がいいわけないだろう」。

続けて彼は、「共和党は保守派の価値観に背を向けた」と、その心情を綴った。ついでに、何百種類ものスパイスと関連商品を販売する自身のスパイス事業とニュースレターにも言及している。この投稿は4万4000回シェアされ、5万4000件を超えるコメントと、25万3000件を超えるリアクションを受け取った。

「うちはスパイス屋だ」。米DIGIDAYの兄弟サイト、モダンリテール(Modern Retail)のインタビューで、ペンジー氏はそう述べている。「料理はとても個人的なものだ。そして我々の仕事は、顧客の価値観に理解を示すことだ」。

人目を引く投稿は、ペンジー氏によるペイドメディア施策の一環だ。実は、ペンジーズスパイシーズは弾劾に関するFacebook広告では2番目に大きな広告主で、9月29日から10月5日にかけて、弾劾に賛成するコンテンツをプロモートするために9万2000ドル(約1000万円)という多額の予算を投じている。予算の額でペンジー氏を上回ったのはドナルド・トランプ大統領本人のみで、アクシオス(Axios)によると、その額は71万8000ドル(約7800万円)にのぼるという。

政治広告で売上が増加

Facebook広告によると、10月第2週、ペンジーズスパイシーズのFacebookページはFacebookに11万9000ドル(約1200万円)近い金額を投じた。2018年5月から2019年10月7日の期間に使った金額は240万ドル(約2億6000万円)を超えた。先に引用した広告は、テキサス、イリノイ、ペンシルヴァニア、ミシガンを含む、相当数の激戦州(いわゆるスウィングステート)をターゲットとするキャンペーンに使われた。

スパイスを売る会社があからさまに政治的なメッセージを宣伝するというのは、いくばくかの困惑を生じるが、これがここ3年、ペンジーズのデジタルコミュニケーションの基本路線となってきた。2016年12月、同社のCEOがトランプ勝利の余波について意見広告を出したところ、売上が大きく伸びた。ミルウォーキービジネスジャーナル紙によると、この月、カレーやシナモン、ミックススパイスなどのスパイス商品の売上が60%近く増加し、さらに贈答用の詰め合わせに至っては135%も伸びたという。

以来、ペンジー氏のメッセージは首尾一貫している。つまり、首尾一貫してアンチトランプということだ。4年前、氏はダイレクトメールの送付に、送料や取扱手数料を含め、1日当たり2万9000ドル(約315万円)以上を使っていた。そしてFacebookで行ったはじめての政治的な投稿に火が着いたとき、昔ながらのDMにかかるコストをデジタルに回してみようと思いついた。「カタログの郵送をやめて広告費を削減した」と氏は言う。代わりに、「意見広告」とニュースレターの電子メール配信に注力した。現在では、カタログの郵送を一切停止して、全予算をデジタルに投じているが、そのコストはDM送付時の数分の一であるという。その結果、「売上は順調かつ安定している」と、ペンジー氏は言っている(氏によると、Facebookはいまや、実際に政治的な内容であるか否かに関わらず、氏の投稿をすべて政治的と見なし、そのように扱っているという)。

ペンジー氏は売上の数字を明かさなかったが、Facebook広告のインパクトについて、従来の顧客の一部を失うことにはなったが、かつてない数の新規顧客を会社にもたらしたと述べている。「顧客離れがあったにも関わらず、1桁台後半の売上増を達成した」。

究極の政治的商品

氏はこの状況を予見していたわけではない。むしろ自分の発言は顧客にそっぽを向かれるとさえ考えていた。大統領選の直後、明確な政治姿勢の表明は、ほぼ確実に自分の事業にマイナスの影響を及ぼすだろうと思った。実際に起きたのは、想定とはかなり違った。

ペンジー氏は政治広告や意見広告と無縁ではなかった。15年前、彼の会社は料理雑誌を発行し、その第1号で、三つ子を育てる同性カップルをテーマとした自社広告を掲載した。「おかげで一部の顧客が離れていった」と、氏は振り返る。「それでも、何かビビビと感じるものがあった」。

スパイスはどこにでもある何ら害のない商品だと見る人がいる一方で、ペンジー氏の目には、究極の政治的商品だと映る。「スパイスは私たちの生活のなかで、とても興味深い役割を果たしている」と、氏は言う。「なぜなら、スパイスは世界中のあらゆる土地からやって来るからだ。にもかかわらず、スパイスの原産国からやって来る人々は、米国では軽視されたり疎外されたりしている。私たちの商品は彼らを社会から閉め出してはいけないことを示している」。

ペンジーズスパイシーズは、ブランドが政治的なメディア戦略を積極的に活用する顕著な事例かもしれないが、唯一の事例では決してない。ナイキのような大企業も最近、コリン・キャパニック選手のようなスポークスマンを立てて政治的スタンスを表明した。「これはここ最近の現象で、明らかな変化だ」と、ニューヨーク大学(NYU)の非常勤教授でメタフォース(Metaforce)の共同設立者兼マネジングディレクターのアレン・アダムソン氏は言う。「従来の経験則に照らせば、旗幟を鮮明にすると、味方にした人数と同じだけの人数を遠ざけることになる」。しかし2019年、政治はもはや単一の領域に押し込められるものではなくなった。「何が変化したのかと言えば、分極化があまりにも烈しく、人々の不満や失望が高じて、自分たちの思いを吐露する何か別の出口を求めはじめたことだ」。

実際、今年になってから、200社近い大企業の経営者が集まり、目的意識をもって企業経営に取り組むための「ビジネスラウンドテーブル」という非営利団体を結成した。もちろん、この動きを企業の価値観の変化というよりは、むしろマーケティング戦略と見る向きは大きい。それでも、経済界の首脳たちが政治とは無関係という立場を放棄しつつある事実は、これまでとは明らかに異なる変化を示している。

「感情的なつながり」

ブランドが人に影響を与えうる正真正銘政治的な発言をするとしたら、その中心にあるのは感情だ。「力のある企業は必ず、顧客とのあいだに感情的なつながりを持っている」と、アダムソン氏は言う。

ペンジー氏もこの感情という部分が氏の戦略の要であると見ている。しかし、すべての企業が拙速に事を進めるべきではないとも警告する。「崖から飛び降りてから、飛べるかどうか判断する人はいない」と、氏は言う。「むしろ段階的にやるべきだ」というのが氏の考えだ。2016年当時、ペンジー氏自身もその通りにした。Facebookでの反応に目をとめ、デジタルへの投資を徐々に増やし、やがてそれがマーケティング予算の主要な部分を占めるに至った。

一方で、もっとダイレクトに、あるいはより豊かなコミュニケーションを通じて、顧客と価値を共有するための、一定のルールは定まりつつあるとペンジー氏は見ている。「料理の中心にある優しさがこの国のためにできることを示す、すばらしい機会が開けると思う」と、氏は言う。「もっと多くの企業が我々のモデルに共感してくれると期待している」。

Cale Guthrie Weissman(原文 / 訳:英じゅんこ)