小売グループのアーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters, Inc.)が、オンラインのレンタルアパレル業界に本気で参入しようとしている。同社はレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)のようなレンタルサービスとして7月30日にヌーリー(Nuuly)をローンチした。
小売グループのアーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters, Inc.:以下アーバン)が、オンラインのレンタルアパレル業界に本気で参入しようとしている。
同社はレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)のようなレンタルサービスとして7月30日にヌーリー(Nuuly)をローンチした。アーバンの小売ブランドには、同社と同じ名前のアーバン・アウトフィッターズやアンスロポロジー(Anthropologie)、傘下のブールドゥン(Bhldn)、テライン(Terrain)、フリーピープル(Free People)などがある。ヌーリーはこうしたブランドに名を連ね、100以上のブランドによる1000以上の商品をレンタルするサービスを展開する。対象商品には、同グループのブランドに加えてリーバイス(Levi’s)やAYR、ギャル・ミーツ・グラム(Gal Meets Glam)といったブランドの商品も含まれる。料金は月額88ドル(約9600円)で、毎月最大6商品をレンタルできる。
同社のプレジデント、デビッド・ヘイン氏はフリー・ピープルのCOOも務めた経歴の持ち主だ。さらに同氏は現在、2001年から勤めるアーバンの最高デジタル責任者も兼任している(ヘイン氏はアーバン・アウトフィッターズのCEO、リチャード・ヘイン氏の息子でもある)。ヘイン氏によると、同社はレンタルの営業モデルについて完全に支配下に置きたいと望んでいた。在庫のデジタル追跡システム、新しいEC体験、発送、配達、返却プロセス、自社によるドライクリーニングに至るまで、すべてをゼロから構築するやり方だ。ヌーリーはアーバンが進めるデジタルイノベーションの一環として誕生した。目まぐるしく変わるミレニアル世代の行動に対応するため、同社の全ブランドのリーダーが集まって新しいプロジェクトを策定したのだ。
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「ヌーリーをインハウスで立ち上げるのは当然の選択だった」と、ヘイン氏は振り返る。同氏はレンタルモデルにおけるコストを3つの主要分野に分類した。商品コスト、配達コスト、カスタマー獲得コストだ。「アーバンはこの3分野でコスト削減が可能な状況で、同社のブランドであるヌーリーもそれによって、より効率的な運用ができるというのが強みだ」。
レンタルシステムの構築方法
インフラの拡大には多大なコストがかかる。ヘイン氏は、レンタルモデルを構築するにあたってアーバンの既存インフラがコスト削減に役立っていると語る。アーバンの各種ブランドの在庫を活用することで、ヌーリーの在庫コスト全体が削減できる。またアーバンの取引先を活用することで輸送コストも抑えられる。必要に応じてアーバンのリソースで倉庫を建てることで配達コストを減らすことも可能だ。カスタマー獲得コストもスタートアップより少なくてすむとヘイン氏は指摘する。ブランドの認知度があり、各ブランドが蓄積したカスタマーデータを活用してヌーリーの潜在顧客にアプローチできるためだ。
一方で新たな費用について考慮する必要もある。レンタルサービスのニーズは普通のファッションブランドのそれとは異なる独自なものだからだ。新しい企業の物流をサポートするにあたってアーバンはフィラデルフィア郊外におよそ2万8000平米の施設を建設し、個別の在庫を監視するため「指紋追跡(fingerprint-tracking)」システムを作り上げた。同施設では専門家を雇い、ドライクリーニングの完全なシステムが運用されている。
ヌーリーはレンタルモデルに興味のあるカスタマーをターゲティングしているが、レント・ザ・ランウェイのようなサービスと比べて安価なカジュアルブランドを対象としている。レント・ザ・ランウェイが提供する「アンリミテッド(Unlimited)」のサブスクは月額159ドル(約1万7400円)で、月額88ドル(約9600円)のヌーリーと比べてほぼ倍近い。またヌーリーのほうが制約は大きく、レンタルできるのは毎月6着までとなっている。レント・ザ・ランウェイのアンリミテッドは、同時に借りられるのが最大4着であることを除けば何着でもレンタルできる仕組みだ。
レント・ザ・ランウェイの現状
レント・ザ・ランウェイの創設は2010年だが、近年になって競争が激化しつつある。現在、ヌーリー以外にもルトート(Le Tote)やアーモア(Armoire)、ヘイバーダッシュ(Haverdash)など複数のブランドがレンタルサービスを提供している。いずれもサブスクリプションでカジュアルブランドを提供するブランドだ。アンテイラー(Ann Taylor)やビンス(Vince)、アメリカン・イーグル(American Eagle)といったブランドも、カスタマーの悩みを解決するためレンタルサービスをターンキー(完全[一括]請負契約システム)で提供するキャースル(Caastle)と提携して、独自のレンタルサービスを展開している。
「こういった企業が成熟と成長を続けているのは素晴らしいことだ。まだまだ成長の余地はある」と、レアラー・ヒプー(Lerer Hippeau)のグラハム・ブラウン氏は語る。「重要なのは、前世代とはまったく異なるインフラと体験のビジネスを展開しており、そこが難しさでもある」。
レント・ザ・ランウェイはいま、ファッション業界における新しいビジネスモデルを成長させるのに苦しんでいる。同社の時価総額は現在10億ドル(約1090億円)でIPOを検討しているとの噂もささやかれる。だが、ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)が7月23日に報じたように、カスタマーサービスや在庫、配送の遅れなどの問題が発生している。こうした問題はカスタマー体験の悪化につながり、とりわけアンリミテッド会員の解約につながりかねない。レント・ザ・ランウェイは収益の詳細については公開していないが、アンリミテッドのサービスを2016年にローンチして以降は、収益の50%ト以上がサブスクリプションによるものと報じられている。
ヌーリーだからこその強み
ヘイン氏は、アーバンのよく整ったECや小売システム、豊富なリソースなどがヌーリーのレンタルアパレル市場参入における強みになると語る。
「こういったサービスで求められるサポート機能である商品の調達や物流、クリエイティブなどはアーバンがすでに備えている。むしろ注意すべきはヌーリー単独の運用にこだわりすぎないことだろう」と、同氏は語り、次のように述べた。「アーバンには投資に使える資金があり、ブランド面でも資金面でも良い立ち位置にある。こういった諸条件を加味して、レンタルサービスに挑戦するのに適切な立場にあるという結論に至ったのだ」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:SI Japan)