イケア(IKEA)が過去1年間にわたって複数の市場でテストしてきたアプリ。その米国版がついに登場した。2020年初頭にアプリ戦略の刷新計画を発表したイケアは今回のモバイル版リリースによって、eコマースの勢いをさらに強化したいと考えている。
IKEA(イケア)が過去1年間にわたって複数の市場でテストしてきたアプリ。その米国版がついに登場した。
2020年初頭にアプリ戦略の刷新計画を発表したIKEAは今回のモバイル版リリースによって、eコマースの勢いをさらに強化したいと考えている。IKEAはもともとアナログ志向だったが、今回の動きはそこからの脱却への新たな一歩だ。有名なカタログも2020年末で廃盤になった。
IKEAによれば、ウェブデザインスタジオのワークアンドカンパニー(Work & Co)がデザインし、2020年12月、従業員向けに社内リリースされた新アプリは、店舗での買い物とオンラインショッピングの隙間を埋めることを目的としている。いろいろな部屋のインスピレーションとして、ショッピング機能が付いたPinterest(ピンタレスト)風の画像が何千枚も用意されている。また、ユーザープロフィールを作成、管理したり、IKEAファミリー(IKEA Family)のアカウントをひも付けしたりできる。
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これは、より統合された新しいデジタル戦略の一部だ。IKEA米国法人の最高デジタル責任者、ウメシュ・スリパド氏は、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)の取材に対し、全世界の最高デジタル責任者であるバーバラ・マーティン・コッポラ氏が2018年に開始したデジタル移行がベースになっていると話す。「米国はIKEAにとって最大の市場のひとつであり、第2の本社もあるため、長期的なデジタル戦略が重要だ」。コッポラ氏は入社以来、デジタル関連の実験的なアプローチを続けており、そのなかには家具レンタルのサブスクリプションサービス、アリババ(阿里巴巴)傘下のTモール(天猫)との提携などが含まれる。
アプリリリースへの動き
アプリリリースへの動きは、オンライン販売の急成長とも重なっている。2019年、オンライン売上は売上全体の10%だったが、2020年には16%を占めるまでになった。顧客のオンラインショッピングへの関心が高まったことで、IKEAはアプリのリリースを加速させることになった。
このアプリはオールインワン型で、過去のモバイルソリューションとは異なると、スリパド氏は説明する。カタログアプリ、AR/VRを用いたルームデザインソリューション、店舗別アプリなど、「これまでは複数のアプリがバラバラに存在していた。新アプリは本当の意味で、IKEAの店舗体験の代わりとなるものだ」。
IKEAによれば、このアプリは2020年夏、地元スウェーデンとフランス、オランダでリリースされ、これまでに490万人がダウンロードしているという。この先行リリースのおかげで、カーブサイドピックアップ(店舗近辺の路上等での商品引き渡し)など、米国に必要な独自機能を見極めることができたと、スリパド氏は話す。
また、この新しいモバイルプログラムは、ユーザーのプライバシーを重視している。IKEAのカスタマー・データ・プロミス(Customer Data Promise)に則り、パーソナライズされたブラウザで買い物したり、検索履歴をすべて削除したりできるようになっている。スリパド氏によれば、商品の評価とレビューを導入する計画もあり、検索機能や返品、返金処理の改善も予定されているという。
eコマースへの注力
新型コロナウイルスの影響で、IKEAはeコマース戦略の見直しを迫られた。この1年間に、米国の50拠点にクリック&コレクト(ネットで購入した商品を、自宅以外の他の場所所で受け取れる仕組み)のマイクロフルフィルメントセンターを併設し、ニューヨーク、マンハッタンのミッドタウンをはじめとする都市部に小規模なショールームをつくった。
今回のリリースはさらに、伝統的なマーケティングチャネルからの脱却の流れを汲んだものでもある。IKEAは2020年12月、消費者の関心が低下したことを理由に、70年間にわたって郵送してきたカタログを廃盤にすると発表した。四半期ごとに発行されていた紙のカタログは、店舗売上を促進するための重要なキャンペーンだった。しかし、年を追うごとに、デジタルマーケティングの成果がカタログを上回るようになり、IKEAは成長中のeコマースチャネルに軸足を移した。
ガートナー(Gartner)傘下のソフトウェア・アドバイス(Software Advice)でシニアコンテンツライターを務めるアンドリュー・コンラッド氏は「IKEAは何十年ものあいだ、店舗体験に大きく依存できた」と話す。これには、丁寧につくり込まれた商品ディスプレイ、セルフガイドのショールーム、スウェーデン風のフードコートなどが挙げられる。しかし、ポストコロナの世界では、eコマースへの注力は「やるかやらないかの問題ではなく、いつやるかの問題だ」。
IKEAの紙のカタログは象徴的な存在だったが、刷新されたアプリはその代わりになるだけでなく、改良版になる可能性すらあるとコンラッド氏は考えている。IKEAがeコマースを完全に受け入れたのは少し遅かったが、「このアプリのリニューアルには、さまざまな思いが込められているように見える」と、コンラッド氏は語った。
[原文:Inside Ikea’s new app strategy]
GABRIELA BARKHO(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)