ハイネケンはなぜ、アメリカで eコマース を推進するのか?

DIGIDAY無料メルマガに登録しませんか?

平日朝9時にマーケティング業界の最新情報をお届けします。利用規約を確認


消費者への直販がトレンドとなるなか、ビール醸造会社までもが参加しはじめた。

米ハイネケン(Heineken USA)の新しいeコマースサイト、draftforhome.com では、自宅で気軽にドラフト式でビールを飲めるタップマシーンのラインナップを販売する予定だ。接続できる2リットルのビール樽も販売される予定で、同日配達を謳っている。これらの樽は、なかに入ったビールを3週間冷蔵することができるほか、ビールだけでなくコールドブリューコーヒーやアメリカで人気のコンブチャ(Kombucha:甘いお茶を発酵させた健康飲料。昆布は入っていない)が入れられたバージョンも販売されるという。最終的には全米での利用ができるようになる予定だが、現時点ではニューヨーク市のみでアクセス可能となっている。

「お店に実際に出向くのと比べて、便利で迅速なため、人々は買い物の大部分をeコマースへとシフトしている。ビール業界のあらゆる業者とパートナーを組み、私たちのプロダクトが、どのような状況でもオンラインでアクセスできるという消費者の期待に応えられるように取り組んでいる」と、米ハイネケンのイノベーション部門ディレクターであるサンティアゴ・マーフィー氏は語った。

eコマース事業の目的

彼らのeコマース事業は、2017年8月に開始された。テカテ(Tecate)、ドスエキス(Dos Equis)、ストロングボウ(Strongbow)、レッド・ストライプ(Red Stripe)、そしてニューカッスル(Newcastle)といったブランドも所有しているハイネケンは、ハイネケンのみを扱うオンラインストア、now.heineken.com をオープンさせた。同時にドスエキス用のサイト、store.doseeuis.com もオープンさせている。消費者はオンライン上でバラエティがあることを強く好むことをデータが示していたため、4月にはハイネケンは彼らの8つのブランドのビールを販売・配達するeコマースサイトを新しくローンチした。8つのブランドとはハイネケン、ドスエキス、テカテ、ストロングボウ、レッドストライプ、アムステル・ライト(Amstel Light)、ニューカッスル、そしてアフリゲム(Affligem)だ。このサイトのローンチと同時に、ドスエキス専用のサイトを閉じている。

20180620_Heineken1

複数のブランドにまたがる、ハイネケンによる配達サイト

実店舗での販売の場合は、店の販売ペースに合わせなければいけないが、eコマースであればその問題は無い。非常に早くマーケットに届けることができる。「従来のリテールであれば、ビールを海外へと届けるのには長い期間を要した。そして棚の数に合わせた販売個数も厳密に行われる。棚に並ぶ数だけ、販売されるわけだ」と、米ハイネケンのイノベーション部門シニアディレクターであるジェナ・ベーラー氏は言う。消費者ダイレクトのサービスによってハイネケンは、マーケットにすばやく届くことができると、彼女は説明する。

ハイネケンが持つeコマースサイトは両方とも、1時間以内の配達や日にち指定の配達を行う。また配達を受け取るためには、21歳以上の人物が受け取りの署名をしなければいけない。ベーラー氏によると、Amazonのようなeコマースサイトとも交渉を開始しており、商品提供を拡大するための将来的なほかのオプションも探っているという。主要なマーケットにおける広告には主にFacebook広告を使っているが、イベントPRも計画している。7月8日にマンハッタンのマディソン・スクエア・ガーデンで開催されるサッカーの試合のチケットを購入した人々に、前述のホーム・ドラフトシステムと新しいウェブサイトをプロモーションするデジタルのメッセージを送る予定となっている。アメリカのサッカー市場を圧倒したい、というのがハイネケンの狙いだ。

ブルーオーシャン戦略

ハイネケンにとっては、それほど大きくない自身のマーケットシェアを拡大するための手段としてeコマースを展開している形だ。アメリカでは、国内ビールブランドであるバドワイザー(Budweiser)、バドライト(Bud Light)、ミラーライト(Miller Lite)、そしてクアーズライト(Coors Light)の売り上げがもっとも大きい。競合ブランドはいくつかの都市において実験的にゆっくりとeコマースに進出している。2015年、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(AB InBev)はバドライト用のアプリを開発した。ワシントンDCの消費者に1時間以内にビールを届けるサービスを提供するアプリとなっている。また、ミラークアーズ(MillerCoors)は、配達サービスのドリズリー(Drizly)と協働し、ワシントンDC、ボストン、ニューヨーク、シアトルといった地区での無料配達を行っている。ほかの多くの事業はヨーロッパで行われているが、これは規則がアメリカよりも緩いためだ。アブソルート(Absolut)とシーバス(Chivas)のメーカーであるペルノ・リカール(Pernod Ricard)は、ヨーロッパ内で購入できるふたつのeコマースサイトを運営している。

「この分野には、ほかのビール会社のプッシュはあまり行われていない。競合他社がまだ参加していない分野に入っていくのは、非常に楽しい」と、ベーラー氏は言う。

ハイネケンのサイトによって、ビールの購入は便利になるだけではない、バラエティも増える。販売対象はハイネケンが所有するブランド以外にも広がる予定だ。draftforhome.com では、パートナー契約を結んだ250のローカル、インターナショナル、両方のさまざまな醸造元からのビールをホームタップシステムの商品として販売するという。消費者がいろいろと試せるバリエーションを提供すること、そして、それを通して会社が消費者の移り行く好みに適応することが狙いだ。これは従来のリテール販売では不可能だ。アメリカでは消費者の好みは継続して輸入ブランドやクラフトビールへと移行している。2017年輸入ブランドのセールスは8.4%増加し、65億ドル(約7100億円)を越している。一方でバドワイザーやバドライトといった国内プレミアムブランドは、2.9%減少し130億ドル(1.4兆円)ほどとなっている。これは、リテールデータを提供するIRIワールドワイド(IRI Worldwide)のデータによる。

プロダクトの狙い

またコールドブリューコーヒーやコンブチャをオプションとして販売することで、ホーム・タップマシーンは日中でも使えるアイテムとなっている。

「消費者にとって台所のスペースを専有するデバイスは、ひとつの機能だけでは十分ではない。ビールが好きな人であっても朝9時にビールを飲む人はほとんどいない。コールドブリューコーヒーを朝に飲み、コンブチャを午後に飲み、そしてその後にビールを飲む、というオプションを提供することで、マシーンは日中を通して役に立つことができる」と、ベーラー氏は説明する。

draftforhome.com では、ドラフトビールにフォーカスしている。これは消費者の70%がドラフトビールを好むにもかかわらず、ドラフトビールを飲む機会は少ないという、ハイネケン独自の調査結果によるものだ。2リットルのビールを抱えることができるホーム・タップマシーンは1台179.99ドル(約1万9700円)で販売、小さい樽は19.99ドル(約2190円)で販売するという。また、限定のセット価格も提供予定だ。別サイト now.heineken.com の方でもマシーンを特別価格で販売するという。

また最終的には、draftforhome.com で8リットル用の新プロダクトであるブレード(Blade)を販売する計画がある。このプロダクトは、主にバーやほかのビジネスをターゲットとしたものだ。ラスベガス、ボストン、ニューヨークといった都市において、通常ではビールを売らない床屋などに販売することがハイネケンの狙いだ。

20180620_Heineken2

ハイネケンによる、新しい draftforhome サイト

欧米間における違い

ヨーロッパに限って言えば、ハイネケンにとってeコマースは特別新しい事業ではない。マーフィー氏によると、オランダを拠点とするハイネケンは2014年からビールやホーム・タップマシーンをオンラインで販売・販促してきたという。しかし、アメリカでの事業開始は、ただ同じ事の繰り返しというわけにはいかなかった。eコマース事業のローンチは、ほとんどのケースではシンプルなプロセスだ。分野についてリサーチをし、注文をさばくのに十分な在庫を常に確保することだ。しかしビール会社のeコマース事業となると取り組む課題が増える。特にアメリカでのローンチにはヨーロッパではハイネケンが経験しなかった障害にも直面している。

ヨーロッパとは違いアメリカでは、ビール醸造会社であるハイネケンは消費者にダイレクトに販売してはいけないという規則がある。ビールはまずディストリビューターに販売し、ディストリビューターがリテーラーに販売し、リテーラーが消費者に販売しなくてはいけない。そのため消費者が now.heineken.com、もしくは draftforhome.com 上で購入すると、ハイネケンとドラフト・フォー・ホーム(Draft For Home)の商標の下、消費者の地域に合わせて免許を持つ地元のリテーラーから購入している形になっている。

サイトのシステムに関してパートナーを組んだのはホップシー(Hopsy)、ドリズリー(Drizly)、そしてミニバー・デリバリー(Minibar Delivery)だ。彼らがそれぞれ支払い、注文処理、そしてビール配達を担当する。ドリズリーとミニバー・デリバリーが自分たちのビジネスを運営する方法とコンセプトは同じであると、マーフィー氏は説明した。オンラインに行き、消費者に近い店舗からビールを購入する、という流れになっている。またそれぞれの州によって異なる法律を持っているアメリカでは、オンライン販売においても注意をしなければいけない。現在、now.heineken.com は、アメリカの19州において販売をすることができる。州法が許す範囲でハイネケンは、新しい州も追加する予定だ。

社内の大きな変化

アメリカにおけるeコマース事業のプッシュは、ハイネケン社内の大きな変化と時を同じくしている。先日、ハイネケン史上初の女性CEOとして、マギー・ティモニー氏が発表。また、2カ月ほど前には最高マーケティング責任者として、ジョニー・ケイヒル氏が就任している。

現時点では、now.heineken.com での販売は好調だと、ハイネケンは述べている。また、週を経るごとに注文数は増加しているとのことだが、具体的な数字は公表しなかった。顧客の多くが複数のブランドにまたがって購入していることからも、ハイネケンの8ブランドをひとつのプラットフォームに集めたことが功を奏していると語っている。ドラフトに特化したサイトでも消費者からの強い関心を受け取ることを期待しているとのことだ。ホーム・タップマシーンの販売に関しては収益増加のためのプロダクトというよりは、ブランディングの一環として捉えていると、ケイヒル氏は語った。

「マシーンが何千万台も売れるかというと、それはノーだ。ブランドイメージには良いだろう。友人がマシーンを所有しているのを見た人が購入する傾向にある。我々は家族経営の会社だ。こういったことを遊び心に加えるのだ」と、彼女は語った。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:塚本 紺)