現在あらゆる大手ブランドが、EC戦略の見直しを急ピッチで進めているが、米国の家庭用洗剤メーカー、クロロックスカンパニー(Clorox Company)は長いあいだ、この課題に取り組んできた。
現在あらゆる大手ブランドが、EC戦略の見直しを急ピッチで進めている。だが、米国の家庭用洗剤メーカー、クロロックスカンパニー(Clorox Company)は長いあいだ、この課題に取り組んできた。
時価総額が270億ドル(約2兆9100億円)にもなる同社は、1年半ほど前にD2C担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーとして、ジャクソン・ジェヤナヤガム氏を迎えている。米DIGIDAYの姉妹サイトのモダン・リテール(Modern Retail)に対し同氏は、まずD2C分野において自社ブランドの存在感を高め、それをもとに事業全体により密着した戦略の実現を目指していると語る。そこで同氏は、中核となるチームを雇用し、クロロックスのD2C販売に基づく成長戦略を支えるカスタマイズされた技術群を導入。現在のチームメンバーはおよそ70人規模だ。大半はジェット(Jet)やApple、リテールミーノット(RetailMeNot)、プレイテッド(Plated)といった企業に勤めていた人材となっており、いまはクロロックスのD2Cチャネルに向けた、新ブランドの立ち上げや既存ブランドの追加に携わっているという。
現在、米国全体でEC分野は2桁成長を見せており、店舗の営業が停止しているなか、多くの企業が対応策を打ち出している。ジェヤナヤガム氏は、カスタマーデータの改善と景気の乱高下に影響されにくいチャネル確立のための手段として、D2Cを位置づけている。「不況が来るといわれているが、いつ来るのかは誰にもわからない」。
Advertisement
全方位的なアプローチ
ジェヤナヤガム氏によれば、消費財業界におけるD2C戦略へのアプローチは、これまで大きく3つに分類できたという。ひとつ目は、D2Cのアプローチを研究する小規模なチームに投資し、ゼロから作り上げるというアプローチ。ふたつ目は、逆に買収によってD2C部門を獲得する方法だ。ユニリーバ(Unilever)によるダラーシェーブクラブ(Dollar Shave Club)の買収はその最たる事例といえる。「買収された企業は、買収後に4分の1ほどの社員がいなくなる場合もある。試験的に運用を行い、規模の拡大が可能なアプローチを生み出せるよう願うことになる」と同氏は語る。そして最後のアプローチは、P&Gベンチャーズ(P&G Ventures)のように、投資部門を作ることだ。これによってスタートアップブランドを育て、いくらかの投資を行ったのちに、その企業の経営陣からコツを学ぶ。クロロックスの手法は「これらすべてを混ぜたもの」となっているという。
ジェヤナヤガム氏に与えられた指令は、技術的な側面が大きい。同氏のチームは、ショッピファイ(Shopify)を彷彿させるようなプラットフォームを構築した。このプラットフォームは、ECやCRM、カスタマーサービス、販売技術といった分野をサポートする、いわばブランドが自社のECサイトを構築し、マーケティングやフルフィルメントと統合するための手段といってもよい。
同社はマルチビタミンのサプリを販売する、ナチュラルバイタリティ(Natural Vitality)など、複数企業の買収も行っている。そしてD2C専門の健康ブランド、オブジェクティブ(Objective)も立ち上げた。
オブジェクティブは、クロロックスにとって特に重要な存在だ。同ブランドは、時価総額が数十億ドル(数千億円)を超えるような企業における、ブランド立ち上げ前の研究開発とは、異なる方法で立ち上げられた。「オブジェクティブは5カ月でローンチした。答えを見つける必要のない課題がたくさんあったのだ」とジェヤナヤガム氏は語る。また、クロロックスの経営陣にとって、同ブランドは参考となるデータ収集を行う役割も担っているという。
最低限の商品を揃える前にローンチされた同ブランドは、まずオーディエンスを見つけることからはじめ、そこを出発点とした。オブジェクティブの戦略は「マーケティングはあまり行わない。どのSKU(ストック・キーピング・ユニット:受発注・在庫管理を行うときの、最小の管理単位のこと)が効果的かを分析し、最適化を行う」ことにあるという。
同氏は現在、より多くのブランドをプラットフォームで展開しようと取り組んでおり、新規ブランドの立ち上げだけでなく、既存ブランドの追加も考えているという。たとえばブリタ(Brita)やバーツビーズ(Burt’s Bees)は、いずれもジェヤナヤガム氏のチームの技術により、D2Cブランドとしてより広く展開できると期待されている。また、新規ブランドのローンチは、少なくともあと2四半期ほどは行われないだろうと同氏は語っている。
急ピッチで進む消費財業界のD2C
ほかの大手企業にとっても、D2Cをいかに成長させるかは重要な課題だ。ペプシ(Pepsi)をはじめ、独立したWebサイトで商品販売を行うことを発表した大手ブランドは多い。コカ・コーラ(Coca-Cola)など、多くのブランドがコロナ禍の影響で卸売チャネルが機能せず、販売が大きく落ち込んだことを発表している。
eマーケター(eMarketer)で主席アナリストを務める、アンドリュー・リップスマン氏は「消費財分野は内部での苦戦が続いている」と語る。1年前、消費者にリーチするため、独立型のECサイトなどの直販チャネルを確立すべきかを検討していた大手ブランドは多い。同氏は現在「各社の尻に火がついて『これはやらねばいけない』という衝動にかられている」と述べる。
だが、大半の消費財企業にとって、これまで獲得した世界的な販売網にまでD2Cを拡大する方法は存在しない。だからこそ、これまでD2Cへの投資は後回しになってきたのだ。だが同氏は、EC業界全体が2桁成長となっているいま、各社は急いで対策に乗り出していると述べている。D2Cについて同氏は「現状の規模は小さいものの、成長率は不釣り合いなほどに高い」と指摘する。オンラインでの商品購入は急増しており、どのブランドもこの波に乗るべきだと認識しているのだ。「eコマースは今後、そのブランドの成長率の30%を占めるようになる可能性がある。しかしいま、D2Cの盛り上がりに乗り遅れれば、成長する機会を失うことになりかねない」。
あらゆるD2Cブランドが今後成長する
ジェヤナヤガム氏の見方もこれに近い。「もしひと晩で300%の成長を達成できたとしても、小売の規模には決して近づかないだろう」と同氏は語る。同社の最新の業績発表によれば、掃除洗濯の製品需要が32%伸びたことで、売上は15%増加した。だが同社では、供給面の問題でサプリメントの売上が減少しており、チャネルの多様化が必要だと考えている。
クロロックスの戦略は、別の販売ルートを探すだけでなく、より確固としたデータを広範囲にわたって収集することにある。ウェブサイトに来る人が増えるほどデータの精度が向上し、企業にとって、将来に向けた意思決定の役に立つ。同氏のチームはより直接的なフィードバックループの構築を試みている。規模としては縮小するかもしれないが、D2Cブランド構築の効果はそれを上回ると考えているという。
D2Cブランドの構築は、何が成功して失敗したのか、その判断やより細かな改善を可能にする。ジェヤナヤガム氏は、Webサイトのトラフィック、直帰率、参照率、AOVを参考にしていると語る。それに加え、カスタマーが何を購入しているか、どの時点で支払を行ったかを観察しているという。新興の小規模ブランドが「ひと晩で100万ドル(約1億円)のヒット商品を出すとは誰も期待していない」と同氏は語る。
ジェヤナヤガム氏は、成長に関する具体的な数字は明かしていないが、買い物における人々の動向の変化に伴い、クロロックスは同氏のチームへより多くの資金を投入している。「当社の規模や浸透、販売全体といった多くの点で、昨年よりも成長すると考えている」と同氏は語り、次のように述べている。「あらゆるD2Cブランドが、今後大きく飛躍することになるだろう」。
[原文:https://www.modernretail.co/retailers/inside-cloroxs-accelerating-dtc-strategy/]
GUTHRIE WEISSMAN(翻訳:SI Japan、編集:Kan Murakami)