オールバーズの評価額はここ数年で急上昇している。事業を開始してからの7年間の成長は目覚ましいが、それでもナイキやアディダスに比べれば微々たるものだ。最近はナイキと比較されることも出てきたが、同ブランドの共同ファウンダーのティム・ブラウン氏は、ナイキのビジネスモデルや戦略を真似するつもりはないと語っている。
オールバーズ(Allbirds)の評価額はここ数年で急上昇している。昨年9月におこなわれた同社最新の1億ドル(約106億円)の資金調達ラウンドの結果、評価額は17億ドル(約1819億円)前後となり、株式公開の噂に油を注いだ。事業を開始してからの7年間の成長は目覚ましいが、それでもナイキ(Nike)の年間売上240億ドル(約2兆5650億円)、アディダス(Adidas)の150億ドル(約1兆6000億円)に比べれば微々たるものだ。
ナイキは、年間を通じて多くの製品を発表し話題を提供することで、少なくとも過去5年間でもっとも売れたスニーカーブランドとなっている。フットウェア企業であればどこであれ、大きなスケールへと成長したいと考える場合は必然的にナイキに対抗することになる。オールバーズも最近ナイキと比較されることが出てきたが、オールバーズとしてはこのビッグネームと直接競合する気はなさそうだ。同ブランドの共同ファウンダーのティム・ブラウン氏は、ナイキのビジネスモデルや戦略を真似するつもりはないと語っている。
ナイキと真逆のアプローチ
ナイキがこれまで市場を支配してきた主な要因は、頻繁なプロダクトリリースや「ドロップ」と呼ばれる限定スニーカーモデルの発売が牽引力となって生み出される話題性だ。ナイキはコラボレーション、新モデル、既存モデルの新色、スペシャルエディションを合わせ、毎年100本以上の新作スニーカーをリリースしている。
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ドロップスニーカーは再販価格が高いことからスニーカーマニアたちにアピールすることが多く、低価格でベーシックな製品の豊富なカタログはカジュアルな消費者をターゲットにしている。それに対してオールバーズは、成長に対して異なるアプローチを取っている。
ブラウン氏は昨年12月、米DIGIDAYの姉妹サイトであるグロッシー(Glossy)の取材に対し、「ほとんど、(意識的に)ナイキとは正反対にしようとしてきた」と語った。「オールバーズの当初のアイデアは、靴をもっともシンプルな形にすることだった。これは小さな変更を加えて無数のバージョンを生み出すストリートウエアのやり方の正反対だ。私たちは競争したいし、成長したいと思っているが、それをまったく異なる方法(小売店を開き、オーディエンスを拡大することによって)でおこないたいと思っている」。
店舗とマーケティングの強化
オールバーズにはランニングシューズのモデルが3つしかなく、各モデルのカラーバリエーションは10種類以下だ。コラボレーション企画は頻繁にはおこなわれず、昨年リリースされたのは3つだけだ。なかでも注目すべきデザイナーは、チャイナタウン・マーケット(Chinatown Market)とジェフ・ステイプル(Jeff Staple)で、どちらもオールバーズの主なターゲットであるカジュアルやワークウェア市場ではなく、ナイキが支配するストリートウェア市場と密接に関連している。当時ブラウン氏は、ナイキのビジネスモデルに切り替えることなく、スニーカーマニアを惹きつけたいと考えていた、と述べた。
ナイキはオンラインとオフラインの売上はちょうど半分半分となっているが、オールバーズの全世界23店舗の売上は売上全体の4分の1に満たない。オールバーズは2021年末までに店舗数を36に増やし、新たな市場を開拓してリーチを拡大する計画だ。ナイキは昨年、マーケティング費用に37億ドル(約3950億円)以上を費やしたが、これは毎月3億ドル(約318億円)以上に相当する。オールバーズにも現在の数字を求めたが回答しなかった。しかし、2016年には、同社はマーケティングに月40万ドルから50万ドル(約4270万円から5340万円)を費やしていた。
「オールバーズはナイキなどの巨大企業と競争しようとしているが、彼らとの競争には代償が伴う」と、eコマースコンサルタント会社アヴィオノス(Avionos)のデジタル戦略業務担当ムスーミ・ベハーリ氏は述べ、「消費者が同社の製品とブランドに親しむためには、オールバーズは小売店への投資と同時にマーケティング支出を増やす必要があるだろう」と語った。ナイキのグローバルなリーチはモバイルアプリ(特に同社のSNKRSアプリ)、実店舗、eコマース、ソーシャルプラットフォームに広がっているが、オールバーズの消費者タッチポイントは比較的狭いと、べハーリ氏は言う。
「ナイキの成功は真似できない」
1足の靴を購入し、それを何年も履き続けるよう推奨することがオールバーズのアプローチだ。そのため、このアプローチにはナイキよりも高いレベルでの迅速な顧客獲得とオーディエンスの成長が必要だと、インフルエンサー・マーケティング会社スターファンド(Starfund)のパートナーであるジル・アイアル氏は言う。こうした顧客獲得は通常、投資家の資金を使った多額の広告費に基づいておこなわれ、長期的に持続可能でないことが多い。
「オールバーズが成し遂げたことの素晴らしさを認める必要がある一方で、彼らがナイキの成功を再現できるとは思えない」とアイアル氏は述べた。「長年愛用できる高品質の靴を作ってしまうことで、3足目や4足目をしばらく買わない顧客を生み出し、彼らの生涯価値を下げることになる。これは、ナイキの顧客とは異なる。ナイキの顧客は、複数の靴を購入して最新のファッションをキープし、好きなアスリートの靴を入手し、古い靴を新しい物に切り替える」。
[原文:‘The opposite of Nike’: Inside Allbirds’ growth strategy]
DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)
※記事公開後、「17億ドル(約107億円)」という間違った表現を「17億ドル(約1819億円)」に正しました。ご指摘ありがとうございます。