日本の業界関係者たちは、2022年にどんな課題を感じ、2023年にどんな可能性を見出しているのか? この年末年始企画「IN/OUT 2023」では、 DIGIDAY[日本版]とゆかりの深いブランド・パブリッシャーのエグゼクティブ、次世代リーダーたちに伺った。
明るい未来、という表現はやや陳腐だが、2022年はコロナ禍を踏まえて次のフェーズに進む「新たな1年」になると、誰もが考えていたのではないだろうか。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、世界的な景気低迷とそれに伴う広告・メディア支出の混乱など、波乱に満ちた1年となった。DIGIDAY[日本版]恒例の年末年始企画「IN/OUT 2023」では、 DIGIDAY[日本版]とゆかりの深いブランド・パブリッシャーのエグゼクティブや次世代リーダーに、2022年をどのように受け止め、2023年にどのような可能性を見出し、新たな一年を切り開いていこうとしているのか伺った。
株式会社大丸松坂屋百貨店にて、経営戦略本部DX推進部・専任部長を務める岡崎路易氏の回答は以下のとおりだ。
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――2022年を象徴するトピック、キーワードを教えてください。
「社員インフルエンサー」です。新規事業の一環として、インフルエンサー事業のPoCを一昨年から開始しました。2022年はこのPoCが飛躍的に成長する一年となりました。私たちは、クライアント企業の商品の新たな価値を世の隅々までお届けするのが百貨店の使命だと考えています。そもそも百貨店は、出店されているテナント・お取引先様の商品の価値を店舗を通じて、お客様である一般消費者に向けて発信してきました。そのなかで、物販に対して利益を得るような小売業や、場所をお貸しする不動産業といった手法で収益化しています。我々の新規事業では、この百貨店の使命を現代風に解釈し、お取引先様のSNSでの情報発信を支援することによって収益化するビジネスを実施しています。
そのために、まず社内でインフルエンサー候補を発掘しました。当社には偏愛力の高い社員や、店頭販売やPR対応で培った表現力豊かな社員がいます。偏愛力とは、ある特定の領域に対して専門性や愛情がすごいことを指します。このような偏愛力と表現力の高い社員を発掘し、インフルエンサーとしてのコンテンツ制作力、コンテンツ運営力を身につけるべく育成します。そして、社員インフルエンサーとして認知が拡大することによって、ビジネスにつながっていくことになります。
現在、事業として主に活動している3つのサービスがあります。ひとつは、SNSでのPR動画の制作および配信をしているということ。当社の社員インフルエンサーの「お菓子食べすぎ会社員」アカウントにおいてクライアント企業様のPRの案件を受託しています。百貨店でお取引のあるお菓子ブランド様だけでなく、大手食品メーカー様からも案件をいただけるようになりました。さらに、当社の社員インフルエンサーだけでなく、社外の著名なインフルエンサーをキャスティングし、クライアント企業様のより大きなPRの企画も実施できるようになりました。さらに、フリーランスや他の事務所に所属しているインフルエンサーと業務提携をすることによって、当社所属のインフルエンサーも増えていきます。
2つ目は、インフルエンサーとのコラボ商品開発です。モロゾフ様のプリン発売60周年を記念する「お菓子食べすぎ会社員」とのコラボプリンを開発、販売いたしました。これからもインフルエンサーのIPを活かしたコラボ商品・サービスを開発を実施していきます。
最後に、アカウント運用コンサルティングサービスも実施できるようになりました。他社様のTikTokのアカウントの運用に対してアドバイザーとして支援したり、運用の代行を受託したりもできるようになりました。
――2022年にもっとも大きなハードルとなった事象は何でしたか?
昨年1月にTikTokをスタートする前、YouTubeを中心に発信をしていましたが、それがなかなかうまくいかず苦戦していました。うまくいかなかった理由ですが、まず前提としてSNSプラットフォームのなかでもYouTubeは競争が激しいということがありました。さらに、もっともも苦労したのはいろんな人の意見が入ってきてコンテンツがどんどん丸くなってしまったということです。
周りの人は、「老舗百貨店なんだから、こうあるべき」という考え方が強く、実際にこれまで前例がないことだったので、守りの姿勢が強まってしまっていました。「こんな企画がやりたい!」「こんな表現がしたい!」と思いついても、実現できない。このように企画段階で潰れてしまうことも多々ありました。視聴者に面白いと思ってもらえるコンテンツ作りができるようになるまでは、とても時間がかかりました。
そうしたなか訪れたのが、「撤退寸前!3,000人の壁」です。YouTubeでの発信に5カ月取り組みましたが、フォロワー獲得は300人ほど。厳しい状況が続きましたが、新規事業のPoCのため、いつまでも続けるわけにはいきません。年明け早々、2月末までに3,000人のフォロワーが獲得できなければ、プロジェクトは打ち切りとなる話が出てきました。2カ月であと2700人。まさに崖っぷちでした。達成は無理だろうと皆が思っていたと感じます。
このような逆境のなか、1月16日にはTikTokでの動画配信をスタートさせることになりました。結果は、目標の3,000人を超える4,111人のフォロワーを獲得することができました。YouTubeが振るわないなかで、TikTokは上向きでした。そのあと、アカウント運用開始から10カ月でフォロワー数15万人まで飛躍的に成長しました。また、おかげさまで総再生回数が1億回を超えることができました!! 直近の平均再生数も100万回以上あり、フォロワー数が多いだけでなく、非常にエンゲージメントの高いアカウントであるといえます。プラットフォームであるTikTokから「優秀投稿」にも選出いただきましたし、ニュースから情報番組、ビジネス誌から専門誌と、幅広くメディアに取り上げていただけるようになりました。
――2023年に必ず取り組むべきだと考えていることは何ですか?
企業・業界横断的な社員インフルエンサーの集まり、団体を作りたいと思っています。社員インフルエンサーとは、会社員として……
- 専業でインフルエンサーをしている人
- ほかの業務(営業職やマーケティング担当など)を主務としながらインフルエンサーをしている人
- 副業が認められている場合は、会社に所属しながら副業でインフルエンサーをしている
という場合があります。
こういう方々には、インフルエンサーに共通する悩みもあると思いますし、会社に勤めているインフルエンサーならではの悩みもあると思います。そういう悩みを共有し、インフルエンサーが元気に楽しく活動できるようにしたいと思っています。また、企業側の整備も必要だと思います。インセンティブの構築であったり、運用体制であったり、リスクマネジメントだったり。まだまだ、社員インフルエンサーという働き方に対して企業が追いついていません。このような課題を解決するために取り組むことは、社員インフルエンサーという領域で、先駆者である私たちの役目なのではと思っています。