米国ではBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)にさまざまなブランドが参加し、インクルーシブな職場の実現に向けて大規模な改革の断行を約束している。そんななか、アメリカ先住民が経営するブランドも注 […]
米国ではBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)にさまざまなブランドが参加し、インクルーシブな職場の実現に向けて大規模な改革の断行を約束している。そんななか、アメリカ先住民が経営するブランドも注目を集めている。NFLチームのワシントン・レッドスキンズ(Washington Redskins)は、これまでもその名称が差別的だとして長年批判されてきた。そんな同チームもついに名称変更を発表しており、美容業界でもこうしたセンシティブな問題への意識が高まっている。
カラーコスメとスキンケアブランド、アーシ・ビューティー(Ah-Shí Beauty)の創業者兼CEOであるアーサキ・ラフランス・チャチェール氏は「これまでアメリカ先住民を代表するような美容ブランドはまったくなかった」と語る。アーシ・ビューティーは先住民居留地のナバホ・ネイションにふたつの店舗を展開している。「先住民が経営するビューティーブランドで、実店舗を展開しているのは当社が初だ」と同氏は語る。
「母は化粧品を購入するとき2色か3色の異なる色合いを購入して混ぜて、自分用のファンデーションとして使っていた。なぜかと尋ねると、母は自分に合う色がないからだと答えていた。私は先住民の血と黒人の血を引いている。黒人のハーフとして自分にある程度似た出で立ちのモデルは見たことがあるが、ナバホ・ネイションで育ってきて自分にあった化粧品はまったくといっていいほどなかった」。
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「先住民文化は収益化の道具ではない」
有色人種の経営するブランドの知名度を高めようとする動きのなかで、先住民が経営する美容ブランドへの注目もまた高まっており、SNSやマスメディアで取り上げられるケースや資金提供の申し出、小売業者からの問い合わせが増えているという。にわかに注目を浴びているなかでも、各ブランドは設立時の価値観にのっとり自分たちのコミュニティの支援やメッセージの表明などをおこなっている。
プラドス・ビューティー(Prados Beauty)の創業者兼CEOのシシ・メドウズ氏は、ニューヨークファッションウィークでメイクアップアーティストとして働くなかで、アメリカ先住民がまったくいないことに気づいたという。「ニューヨークファッションウィークに参加しているメキシコ系やアメリカ先住民はまったくといっていいほどいなかった」と同氏は振り返る。そこで同氏は自らブランドを立ち上げようと思い立ったという。「自分たちを代表するようなブランドも、モデルもいないのを目の当たりにしてハッとさせられた」と同氏は語る。
チークボーン・ビューティー(Cheekbone Beauty)の創業者兼CEOのジェン・ハーパー氏は、「カナダの先住民が美容ブランド業界のみならず、いかなる業界でもほとんど日の目を見ない環境で育った。そんな環境では、自分の可能性にすら気づけないではないか」と語り、それを変えることが第一歩だと指摘する。
だが創業者は自分たちを代表するようなブランドを立ち上げることで、伝統的な原料を製品に使用するといった先住民文化の商業化を試みているわけではない。「私のブランドは先住民的な要素があるわけではない。私自身の血筋と、ブランドとしての価値観だけだ」とラフランス・チャチェール氏は語る。「先住民文化によって成立しているブランドではない。先住民文化は伝統的に育まれたもので、大量生産や収益化に向いているわけでもないのだ。儀式的な部分では大切にしている」。
先住民にルーツを持たない企業が先住民文化を商業化しているなか、これは非常に対照的に映る。アーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters)は2012年にナバホの名称を許可なく使用したとしてナバホ・ネイションから訴えられた。レベッカ・テイラー(Rebecca Taylor)は2016年に「ナバホ」コレクションを発売し、のちにこの表現を削除することになった。フリー・ピープル(Free People)は過去に「フェスティバル」の製品ラインが文化的に不適切だと批判を受けている。
「絨毯や陶磁器など先住民文化をまねたデザインはいたるところで使われている。ナバホの名称を使ったブティックは星の数ほどあるし、『トライバル(Tribal)』や『ボホシック(boho chic:ボヘミアンやヒッピースタイルの総称)』といったスタイルの一種にされることもある」とラフランス・チャチェール氏は語る。「使っている人はあまり深く考えていないが、実際は私たちの文化を利用しているのだ。先住民の血を引く者として、先住民の物語を正しく適切に伝え、表現していくことが自分に課せられた責任だと思っている」。
有色人種ブランドはまだ「リスト外」
ここ数ヶ月全米で巻き起こった運動によって、美容業界は自分たちにあらゆる面で多様性が欠けていることを真剣に見つめる必要に迫られた。今や先住民の美容ブランドはインフルエンサーや全米規模のメディアから注目を浴び、小売企業から多数の問い合わせを受けている。
だが白人の起業したブランドと有色人種が創業したブランドのあいだには資金面で大きな開きがあるのが現実だ。「先住民女性はそもそもリストに載りすらしていない」とハーパー氏は語る。
「ようやくこういった話題が注目されるようになって嬉しい。だが、もっとずっと前から問題視されるべきだったと思う」とラフランス・チャチェール氏は語る。
たとえばオンタリオに本社を置くチークボーン・ビューティーでは、7月に入ってから大手小売企業2社から15%プレッジ(15% Pledge:店舗の商品の15%を黒人オーナーブランドの商品にする運動)に参加するという話を聞いており、小売企業のあいだでもこうした動きが着実に広がりつつあることを明かしている。また、ラフランス・チャチェール氏のところには全米規模のメディアから問い合わせが増えており、近いうちにABCニュースの人気番組『グッド・モーニング・アメリカ(Good Morning America)』で取り上げられる予定だと語っている。また、同氏は全米に今回の運動が広がる前から大手小売企業とこうした話し合いをおこなってきたという。プラドスビューティーは有色人種の美容ブランドのリストがインスタグラムで拡散したことで、直近の3週間でフォロワーが2000人増えた。これらのブランドは現在、一部は卸売もおこなっているが、基本的にD2Cチャネルが主な販売経路だ。
また投資やメンターシッププログラムなどのチャンスも増えているという。こういったビジネスチャンスのなかでも、各ブランドの創業者たちは成長のペースとブランドの核となる価値観をしっかりと遵守するよう気を配っている。
たとえばプラドス・ビューティーのメドウズ氏は、プライベート・エクイティ・ファンドが提案した助成金と資金調達契約を拒否している。同契約では5年以内に調達額の10%を返済するか、同社の保有株を返済に充てる条件が盛り込まれていたためだという。
ラフランス・チャチェール氏は規模の拡大や外部から資金調達、全国規模の小売企業との提携といった「今までと違う世界に手を広げる場合には、何を求めているかに注意すべき」だと述べている。「生産増するのであれば、あらかじめそのコストに対処する準備を整えていなければならない」と同氏は語る。「自然に成長していくことを目標としている。無理して急ぎたくはない」。
「ただ金を稼ぐブランドは運営しない」
メンターシッププログラムや全米規模の大手小売企業は、かならずしもこういったブランドの成長に適した明確な戦略を描けているわけではない。メドウズ氏は、ビューティー業界団体であるビューティーユナイテッド(Beauty United)のメンターシッププログラムに招待されたという。だが参加には年間50万ドル(約5400万円)以上の収益が必要だったため、先住民がオーナーのブランドの大半は対象外となっていたという。同氏がそのことをメールで説明した結果、ビューティーユナイテッドはこの条件を撤廃した。
また、先住民の創業者らは、収益以外の価値観も追求することを忘れたくないと語る。たとえばチークボーン・ビューティーのハーパー氏の祖母は、北米の先住民族が同化政策の一環として強制的に通わされたカナダ・インディアン寄宿学校(Canadian Indian residential school)を卒業しており、それがブランドの背景にある。また同ブランドは利益の10%をカナダ先住民の若者に平等な機会を提供するために使っている。
「ただ金を稼ぐためだけにブランドを運営したくはない。世の中には美容ブランドがあふれかえっており、これ以上増える必要などまったくないのだから」とハーパー氏は語る。「口紅を売る以上の、もっと大きな目的を掲げたいのだ」。
アーシ・ビューティーのラフランス・チャチェール氏は「ブランドでナバホ・ネイションに雇用を創出したい。この地区には雇用の機会がまったくなく、それが大きな問題となっている」と語る。プラドスビューティーは利益の50%を先住民コミュニティに寄付しており、その資金は新学期に向けた学生用の衣服やマスク等に使われるという。メドウズ氏は50%を寄付する計画について話した友人には一笑に付されたというが、今でもこの方針を貫いている。
「利益の半分を寄付するという結論に至ったのは、ほかには何も欲しくないと思ったからだ」と同氏は語る。
「先住民は持続可能性のエキスパート」
持続可能性とクリーンビューティーも大手ブランドが提唱するずっと前からブランドの価値観として掲げてきたという。チークボーン・ビューティーは、パッケージに生分解性の素材を使った口紅を販売している。
「先住民は持続可能性のエキスパートだ」とハーパー氏は語る。「先住民の伝承のなかには、自分たちのおこないが次の世代に影響を及ぼすという話がある。私たちの祖先や年配者、リーダーたちは常に環境を大切にしてきた」。
アーシ・ビューティーでは創業者のラフランス・チャチェール氏も彼女の母親もがんの闘病経験があり、クリーンな成分の植物性スキンケア製品を提供している。「闘病経験を通じて、自分の体につけるものについて非常に慎重になった」と同氏は語る。
ハーパー氏は、社会的責任を伴うビジネスモデルを本当の意味で持続させるためには、消費者が商品を購入して支援する必要があると語る。「消費者には力があり、何かを買うたびにその力を行使できる。知識と情報をきちんと得て、それに基づいて購入することが重要だ」。
[原文:Indigenous-owned brands become a part of beauty’s inclusivity conversation]
LIZ FLORA(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)