ウォルマートや アマゾン などの小売企業で自社のウェブサイトの情報を店頭の棚ラベルでアピールすることが増えている。ウォルマートの一部の実店舗では自社のウェブサイトにダイレクトにつながる棚ラベルの展開を開始した。店頭にきた顧客が商品についてオンラインで調べようとする際、おすすめの検索ワードを表示するというものだ。
ウォルマート(Walmart)やAmazonなどの小売企業で、自社のウェブサイトの情報を店頭の棚札でアピールすることが増えている。
ウォルマートの一部の実店舗では、自社のウェブサイトにダイレクトにつながる棚札の展開を開始した。この棚札は、店頭にきた顧客が商品についてオンラインで調べようとする際、おすすめの検索ワードを表示するというものだ。
棚札がブランドに与えるインパクト
ベーキング製品ブランドのシンプルミルズ(Simple Mills)でeコマース担当シニアディレクターを務めるトッド・ハッセンフェルト氏は先月、イリノイ州にあるウォルマートの店舗でこのラベルを発見した。布団について説明されたラベルには、「Walmart.comで、『theater futon』を検索してください」と記載されており、さらに、Walmart.comのレビューをもとに、5つ星のうち4.3という評価が添えられていた。ハッセンフェルト氏によると、こうしたラベルが表示されるのは、大きめの家具など高価な製品に限られているようだ。
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このようなラベルは、eコマースと実店舗とのつながりを深めるだけでなく、ブランドにとっても、カスタマーレビューや検索での上位表示に関わる重要な意味を持っている。このラベルがさらに普及すれば、レビューやeコマースの検索ワードが実店舗で新たな重要性を持つようになるかもしれない。これは、顧客が小売店のウェブサイトにより簡単にたどり着くようにするための方法であり、ブランド側が、オンライン検索でどのように表示されるかをより重視するきっかけとなる可能性がある。
広告代理店大手のピュブリシス(Publicis)でチーフ・コマース・ストラテジー・オフィサーを務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏によると、検索ワードを掲載したこのラベルは、ウォルマートが導入している一連のテストの中でもとくに新しいものだという。ウォルマートは「少なくとも5年以上」前から、商品ごとにWalmart.comでの顧客評価を表示する棚札をデジタルと紙の両方で試験的に導入しており、今回の棚札のテストでもその機能が採用されている。しかし、検索ワードに特化したラベルは、新しいもののようだ(いつこのテストを開始したのかについて、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)がウォルマートにコメントを求めたが、回答は得られなかった)。
ECでのデジタル体験を実店舗でも
ウェブサイトの情報を店頭の棚札に表示する実験を行ったのは、ウォルマートが初めてではない。Amazonブックス(Amazon Books)の店舗を訪れた顧客は、顧客の評価と商品レビューの抜粋の両方が記載された電子棚札を見ることができる。最近では、Amazonが2020年に立ち上げ販売網を広げている食料品店「フレッシュ(Fresh)」でも、電子棚札が設置されている。
食品スーパー大手のクローガー(Kroger)も、多くの店舗でスマートシェルフを導入している。また、クーラー・スクリーンズ(Cooler Screens)のようなスタートアップ企業は、ドラッグストアチェーンのウォルグリーン(Walgreens)と組み、ウォルグリーンの店舗で増えつつある冷蔵食品棚で、顧客評価や商品情報を表示するデジタル対応技術を披露している。ITアドバイザリ企業ガートナー(Gartner)のディレクター・アナリストであるチェルシー・グロス氏は、モダンリテールのメールインタビューに対し、次のように語った。「ベンダーや分析チームは、何年も前からデジタル棚札のアイディアを推進してきた」。しかし、「一部の小売業者にとっては、多数の店舗で実行するにはコストがかかりすぎるか、短期的な投資効果を生む技術がなかった」のだという。
ゴールドバーグ氏は、パンデミックの影響で、顧客評価などの詳細情報を実店舗に取り入れる動きが加速しているのではないかと指摘する。「一貫して言えるのは、オンラインでの売り上げにもっとも大きな影響を与える属性は、評価やレビューだということだ」。そして、オンラインで買い物をする人が増えた今、「オンラインで得たデジタルの恩恵を、店舗に戻ってからも期待するようになるだろう」。つまり顧客は、実店舗でも商品のレビューを見たり、実物の商品についてウェブサイトですぐに調べたいのだ。
Amazonのようなマーケットプレイスでは、商品のランキングや検索結果の上位に表示されるかどうかを決定するうえで、商品レビューがすでに欠かせないものとなっているが、その重要性はさらに高まっている。また、特にAmazonが抱えている問題である偽装レビューに対するインセンティブの構造も強まっている。ウォルマートのような棚札は小売業界ではまだ珍しい存在だが、ハッセンフェルト氏は、「今後はもっと多くの人が目にすることになるだろう」と述べている。
広告スペースの奪い合いに発展する可能性
ハッセンフェルト氏によると、ウォルマートのラベルの最もユニークな特徴は、おすすめの検索ワードを提案するという点だ。ウォルマートが顧客に対し、Walmart.comでどう商品を検索すればいいかを案内するということは、ブランドにとって、そのワードの検索結果に表示されることがより重要になるからだ。これは、ウォルマートの検索広告ビジネスに恩恵をもたらす可能性がある。
ハッセンフェルト氏は、「たとえば、検索にあまり投資していなかったブランドが、今回をきっかけに投資をはじめるかもしれない」と話す。ブランドマネージャーがウォルマートのような棚札を見て、「ああ、これは店舗での売り上げに影響するから、もっと積極的に検索に投資する必要がある 」と言いはじめても、同氏は驚かないという。
同氏によると、シンプルミルズの製品にはまだこのタイプのラベルは貼られていないが、近いうちに貼られることを想定し、ソフトウェア会社を使い、ある小売店のウェブサイトから、ほかの多数の小売店サイトに積極的にレビューを配信しているという。
ウォルマートが検索キーワードに新たに注力したタイミングは、同社の広告事業が成長したタイミングと非常によく重なっている。同社は2020年、自社サイトに表示する検索広告の数を2倍以上に増やしたが、これは、配送やフルフィルメントなどコストのかかる事業を補助するために広告を収益化しているもので、Amazonやインスタカートでも広がっている傾向のひとつだ。
もし、棚札が普及すれば、ブランドは、ウォルマートの店頭で自社に関連するワードが表示されるよう広告スペースを購入するだけでなく、競合他社に関連するワードが表示されるような広告スペースも購入することになるだろう。最終的には、ウォルマートにとって、より多くの広告が売れるような、広告軍拡競争が起こるかもしれない。
[原文:In-store shelf labels are getting an e-commerce makeover]
Michael Waters(翻訳・編集:戸田美子)