最近報告が相次ぐ四半期決算には、勝ち組企業の勢いと、負け組企業の犯した失敗が見て取れる。そこに示された教訓は目新しいものではない反面、重要ではある。需要の変化をいち早く察し、準備ができていた企業は、比較的無傷のままでいられた。そしていま、多くの小売企業は、ポストコロナの世界に備えている。
現状は、日常の回復とはほど遠い。だがようやく、コロナ後の世界を見据えて、勝ち組入りを狙う小売企業の戦略が見えてきた。
最近報告が相次ぐ四半期決算には、勝ち組企業の勢いと、負け組企業の犯した失敗が見て取れる。そこに示された教訓は目新しいものではない反面、重要ではある。需要の変化をいち早く察し、商品の即日配送や店舗受け取りなど、新しい形のフルフィルメントに対応する準備ができていた企業は、飛躍的な成長はないにしても、比較的無傷のままでいられた。そしていま、多くの小売企業は、成長エンジンを止めないための詳細な計画を示しつつ、ポストコロナの世界に備えている。
オムニチャネルに早くから投資してきた大手の小売企業は、輝かしい業績を維持している。一方、昨春、コロナ禍にすばやく対応できなかった企業は、いまなお巻き返しを図れずにいる。本稿では、2020年第4四半期の決算報告書に垣間見える、小売業界再編の現状について分析したい。
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小売業界の主要なプレイヤー
当然のことながら、先頭に立つのは最大手の小売企業たちだ。ウォルマート(Walmart)とターゲット(Target)は、eコマース事業の急伸を牽引役に、ここ1年で大幅な売上増を達成している。
ターゲットの売上高は前年比21%増の283億ドル(約3兆円)にのぼった。とくに、オンラインおよびオムニチャネルのフルフィルメントの数字には同社の優位性が如実に表れた。既存店ベースのオンライン売上高は前年比118%増で、即日配送サービスによる売上高は218%増、(オンラインで注文した商品を店舗の駐車場で受け取る)カーブサイドピックアップ利用の売上高は500%増だった。
ウォルマートも大幅な売上増を享受したが、その急成長にはすでに鈍化の兆しが見られる。売上高は7.3%増の1522億ドル(約16.6兆円)だった。一方、eコマースの売上高伸び率は、79%を記録した第3四半期よりも振るわず、今期は69%増にとどまった。
ベストバイ(Best Buy)も同様に、総売上高が11.5%増の169億ドル(約1.8兆円)となるなど、堅調な四半期決算を達成した。とくに、カーブサイドピックアップと店舗発送への初期投資が奏功し、eコマース売上高は前年比90%増となった。
百貨店業界では、多くの企業が低迷を続けている。比較的良い業績を上げたコールズ(Kohl’s)でさえ、売上高の減少は免れなかった。2020年第4四半期の売上高は前年比10%減の59億ドル(約6439億円)だったが、オンライン売上高は22%の増加となった。一方、ノードストロム(Nordstrom)も、売上高が20%減の37億ドル(約4038億円)となった反面、オンライン売上高は前年比で24%伸びている。メイシーズ(Macy’s)では、売上高が19%減の68億ドル(約7422億円)だったが、eコマースの売上高は前年比21%増となった。
ファンダメンタルズ
これら最新の決算報告書からは、長期的な戦略も垣間見える。大手の小売企業は、全般的に、大型の計画やリテンション戦略を打ち出している。たとえば、ターゲットは、実店舗への客足回復に備える取り組みとして、店舗の改装に40億ドル(約4366億円)を投じると発表した。
一方、ウォルマートは、Amazonのようなネット通販事業者に対する競争力を維持する施策として、ウォルマートプラス(Walmart+)というサブスクリプションサービスに注力している。最高経営責任者(CEO)のダグ・マクミロン氏は、投資家やアナリスト向けの決算説明会で、「会員サービスを充実させて、このプログラムの訴求力を強化したい」と述べている。
ベストバイの長期戦略は、顧客の買い物の傾向に焦点を当てている。もともとオンライン注文の増加に対する備えはできていた。目下の課題は、オンラインへのシフトがどの程度続くのかを見極めることだ。さらに、フルフィルメントの拠点となる店舗を増やすことにも注力している。現状では、実店舗の35%で、オンライン注文の店舗発送の70%を処理している。長期的な計画の一環として、店舗面積のうち、フルフィルメントに充てるスペースと、ショッピングに使うスペースの配分を見直すことも検討している。ただし、新しい計画の詳細については、いまも試行錯誤の段階という。
対照的に、百貨店業界はいまだ危機的状況を脱していない。メイシーズは辛くも黒字を確保したが、その要因はもっぱら在庫を削減したことによる。将来的な計画の主眼はeコマース事業の再編にあるが、新しい戦略のめどは立っていない。「顧客から一番に選ばれる百貨店であること、安全な環境が整い次第、メイシーズに戻って来てもらうこと。それがメイシーズの命運を決する重要なファクターだ」。ガートナーマーケティング(Gartner Marketing)の上級首席アナリスト、サラ・マーザノ氏は、米DIGIDAYの姉妹メディアであるモダンリテール(Modern Retail)にそう語っている。同様に、ノードストロムも、出荷遅延の増加などにより、当期は逆風にさらされた。
コールズの場合、長期戦略の要は品揃えの充実だ。とくに、アクティブウェア、ウェルネス、ビューティなど、売れ筋の商品を中心に、品揃えの見直しを行う。数年のうちには、新しく立ち上げたアクティブウェアのブランドだけで、売上の30%近くを稼ぎ出したい考えという。「売れると見込んだ商品を何でも取り入れ、貪欲に試してみることに、コールズはほかのどの小売企業よりも積極的だ」と、オムニコム・リテール・グループ(Omnicom Retail Group)でコマース担当のシニアバイスプレジデントを務めるブライアン・ギルデンバーグ氏は、モダンリテールの以前の取材で述べている。
この状況の背景には、eコマースの急成長がある。ほぼすべての小売企業がオンラインでの売上を大きく伸ばしているが、問題はこの成長を今後も維持できるのかということだ。ジェイン・ハリ・アンド・アソシエーツ(Jane Hali and Associates)のリサーチアナリスト、ジェシカ・ラミレス氏によると、アパレル製品を扱う小売事業者にとって重要な指標となるのは、総売上高に占めるオンライン売上の比率だという。「この数字が50%に達する企業は、以前からオムニチャネルを導入していた企業だ」とラミレス氏は話す。つまり、オンライン販売へのシフトを苦もなくやってのけた企業は、コロナ禍による昨年の混乱にも、うまく対処する備えができていたということだ。
ほどんどの小売企業は、この50%という基準値に到達しつつある。コールズのオンライン売上高は収益全体の42%を占める。ノードストロムでは、売上総額の52%だ。メイシーズのオンライン売上高も収益全体の44%に達している。ベストバイでは、eコマースが全体の43%を占めている。
それでも、疑問は残る。彼らはオンライン販売の勢いを維持しながら、売上全体を伸ばすことができるのだろうか。フルフィルメントサービスを整備して、オンライン販売にさらに一層注力する企業もあれば、そのためのインフラはすでに整っているので、品揃えの充実と将来の投資に重点を置く企業もある。
ある意味、小売業界の勝ち組は、コロナ禍を待つまでもなく決まっていたようなものだとラミレス氏は言う。「成功を手にするのは、パンデミックの勃発以前から、オムニチャネルとデジタルに盤石の備えを固めていたものたちだ」。
[原文:In latest earnings round, retailers’ post-pandemic strategies (or lack thereof) begin to emerge]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)