いまや多くの家具店がオンラインに移行するなか、イケア(Ikea)もオンライン販売の簡便化に向けた動きを見せている。その第1弾が新アプリであり、顧客はこのアプリから直接購入できるだけでなく、イケアの商品が自身の部屋にフィットするのか、ARを利用して確認もできると、同社の広報は説明する。
イケア(Ikea)の願いは、人気の本棚ビリーブックケース(Billy bookcase)を人々がアプリで買いたいと思ってくれることにある。
スウェーデン生まれの家具量販店イケアが長年推してきた差別化要因といえば、ストアエクスペリエンスにほかならない。迷路のようなレイアウト、フードコート、低価格を売りに、買い物客をより長時間店舗に留まらせ、それで購入を増やさせる戦略を主軸としてきた。
さまざまなデジタル機能も導入してきたが、それも店舗案内アプリなど、多くは買い物客のインストアエクスペリエンスの補完を主眼としていた。
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しかし、いまや多くの家具店がオンラインに移行するなか、イケアもオンライン販売の簡便化に向けた動きを見せている。その第1弾が新アプリであり、顧客はこのアプリから直接購入できるだけでなく、イケアの商品が自身の部屋にフィットするのか、ARを利用して確認もできると、同社の広報は説明する。
3月第2週、イケアはさらに、アリババのTモール(天猫)での販売開始も発表した。
新アプリが使用できるのは現在、中国、フランス、オランダといったいくつかの市場に限られている。同アプリの導入以前、顧客はイケアのストアナビゲーターアプリからも、2017年に導入されたARアプリ、イケア・プレイス(Ikea Place)からも直接購入はできなかった。
「ほぼすべてを一変する」
2019年度、イケアのeコマース売上は全体のわずか11%だった。eコマースにフォーカスするほかの家具量販店、たとえばウェイフェア(Wayfair)などは苦戦を強いられているとはいえ、イケアといえども、現在オンラインショッパーが求める機能で競合他社と肩を並べられない限り、市場シェアを奪われる危機に直面している。
「ほんの3〜4年前まで、彼らはアンチ[eコマース]派だった」と、市場調査会社eマーケター(eMarketer)のeコマースアナリスト、アンドルー・リップスマン氏は指摘する。「ブランド力が極めて強かったため、長いあいだ、その[ストアエクスペリエンス]力に頼っていられたのだ」。
同社における近年のeコマース関連の動きを仕切っているのはバーバラ・マーティン・コッポラ氏であり、同氏は2018年、イケア史上初のチーフデジタルオフィサーに就任した。CNBCによる2019年の報道によれば、イケア・グループCEOジェスパー・ブロディン氏はマーティン・コッポラ氏に「ほぼすべてを一変する」使命を課した。
新アプリの目指すところ
これまでのところ、彼らの焦点は主にデジタル機能の合理化と、オンラインショッピングプロセスにおいてより多くの主導権を顧客に与えることに置かれている。イケア広報は新アプリの機能について詳細を明かしていないが、マーティン・コッポラ氏は同アプリの目指すところについて、ストアとオンラインの両エクスペリエンスの合体と、個々の購入および検索履歴をもとにした、よりパーソナライズされた商品推薦だと、2019年CNBCに語っている。
イケアはこのアプリをデジタルプロダクトエージェンシー、ワーク&コー(Work & Co)と共同開発している。また、ワーク&コー(Work & Co)とは新たなデータコントロールツールの開発にも取り組んでおり、これが導入されれば、顧客は検索および購入履歴をイケアが商品推薦に利用してもよいかどうか、前もって選択できるようになる。
IT市場の調査/助言に特化した企業ガートナー(Gartner)のシニアリサーチスペシャリスト、エヴァン・マック氏は、ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)といった巨大ライバル勢と比べると、イケアのウェブサイトは依然、商品数も顧客のフィルタリングオプションも足りないと指摘する。たとえば、イケアのウェブサイトでは、オンライン購入し店舗ピックアップできる商品はどれなのか、顧客はフィルターをかけて検索できない。そのため、クリック&コレクトが可能か否か、個々のアイテムごとにいちいち確認しなければならない。
サードパーティ市場での販売
また、イケアによるeコマースの試みのすべてがはまっているわけではない。2018年、同社はスマートライティング製品シリーズを米Amazonで実験的に販売をはじめたが、2020年初頭に取り止めた。その理由について広報は明かしておらず、「同プロジェクトはあくまで試験的なものであり、試験が終了した時点で、販売も取り止めた。現在そして将来、我々はお客さまと、いつでもどこででも、お客さまの望む形で出会うための新たな方法について、さまざまなパートナーとの対話を今後も続けていく所存だ」とだけ語った。
イケアの広報によれば、同社には現在、Tモール(天猫)以外のサードパーティで販売する計画はないという。ただし、今回の提携を通じて、将来的にほかのサードパーティ市場での販売を決めた場合に有益となるデータが得られると考えている、とも述べている。
「今回の提携で、消費者がイケアというブランド目当てではなく、あくまで商品ベースで買物をする際に、自社の商品がどのように売れるのかが把握できるだろう」と、リップスマン氏は指摘する。
Anna Hensel(原文 / 訳:SI Japan)