IAB(インタラクティブ広告協会)の年次リーダーシップミーティング(ALM)が2月7~10日に開催された。サードパーティCookieの代替案探しを宣言した2020年以来となるIRL(現実世界の)会議だ。IABは「プライバシー強化技術(PETs)」を検討したいと考えており、専門のワーキンググループも最近発表した。
IAB(インタラクティブ広告協会)の年次リーダーシップミーティング(ALM)が2月7~10日に開催された。「プロジェクト・リアーク(Project Rearc)」、つまり、サードパーティCookieの代替案探しを宣言した2020年以来となるIRL(現実世界の)会議だ(IRL会議の時代を覚えているだろうか?)。IABは「プライバシー強化技術(PETs)」を検討したいと考えており、専門のワーキンググループも最近発表した。
「PETs」ワーキンググループが結成された背景には、ウェブブラウザやOSのプロバイダー(つまり、AppleとGoogle)がプライバシー法によって、ユーザーデータの流れの大幅な制限を余儀なくされたことを受け、広告業界がサードパーティCookieなどの識別子に代わるトラッキング技術について合意を目指しているという状況がある。
また、EUのプライバシー法執行機関が先頃、業界への警告を意味する裁定を下したことを受け、IABは業界の中間層におけるユーザーデータの流れを人々に伝える方法の欠陥に対処したいと考えている。
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プロジェクト・リアークの継続
IABテックラボ(Tech Lab)のプロジェクトであるPETsワーキンググループは、プロジェクト・リアークの一部でもあり、データの安全性を最大限に高め、個人情報の使用を最小限に抑えるため、保険業界や金融業界で導入されている技術を活用する。
IABテックラボは現在、会員企業のデータサイエンティスト、開発者、セキュリティシステムエンジニアに協力を求め、高度な暗号技術などのプライバシー強化ツールを用いて、広告ターゲティングとユーザートラッキングの新たな手法を開発している。
IABテックラボの製品担当バイスプレジデント、シェイリー・シン氏は米DIGIDAYの取材に対し、ワーキンググループは「セラーが定義したオーディエンス」や「集約型アトリビューション」など、すでに合意しているデータ利用法をベースに開発を進めると述べている。
「測定やアトリビューションなど、次のユースケースをいくつか検討している。また、プライバシーをトランザクションそのものに組み込む方法についても検討している」とシン氏は補足する。「さらに、ユーザーの個人情報を誰にも漏らさず、同時に、アドレサビリティを維持しながら(マーケティングの)ユースケースを実行するにはどうすればよいかも考えている」。
現在、IABテックラボは会員企業から協力者を募りながら、デジタル技術の活用を専門とする学者など、第三者にも意見を求めている。
ワーキンググループの提案が広く受け入れられるどうかは、2022年の広告費の50%以上を吸収すると予想される巨大テクノロジー企業の意見が鍵を握る。シン氏は米DIGIDAYのインタビューで、マイクロソフト(Microsoft)のPARAKEETなど、いくつかの匿名化の提案をベースに検討すると述べている。
「暗号化(の手法)を用い、個々のユーザーの情報を入手することなく、すべての関係者がデータを理解できるようにするつもりだ」とシン氏は説明する。IABテックラボのCEOに就任したアンソニー・カツール氏は2021年9月、米DIGIDAYに対し、IABがふたつの役割を果たすビジョンについて語った。ふたつの役割とは、技術標準を確立し、ビジネスをサポートすること、「規制やコンプライアンスの問題に対処」することだ。
TCFに関する会話が必要
後者の問題については、ALMで活発に議論されたはずだ。ベルギーのデータ保護当局が、オンライン広告業界のトランスペアレンシー&コンセントフレームワーク(Transparency& Consent Framework[透明性と同意の枠組み]:以下、TCF)はGDPRの要件を満たしていないと判断したためだ。TCFとは、プログラマティック広告の複雑な仕組みを人々に説明し、同意を得るための枠組みだ。
この裁定の影響を受けるIABヨーロッパは、改善策を見つけるまでに2カ月、それを実行するまでにさらに6カ月の猶予を与えられているが、米DIGIDAYが取材した複数の関係者は、事実上、TCFの終わりを意味すると考えている。
メディア業界は振り出しに戻らざるを得ないというのが大方の意見だ。ALMで交わされた会話は、この旅の重要な一歩になる。
しかし、業界関係者が続々と反応していることが示しているように(IABのエグゼクティブチェアマンであるランドール・ローゼンバーグ氏のツイートを以下に紹介する)、米国の細分化したプライバシー環境はいうまでもなく、GDPRの「難解」な文言が混乱を助長している。
I know… sometimes I can’t help myself. But it’s an aspect of what @opinion_joe was writing about: GDPR is impenetrable; it gave rise to impenetrable bureaucratic entities; they prompt impenetrable legalistic corp workarounds; & whatever the problem was remains unsolved.
— Randall Rothenberg (@r2rothenberg) February 2, 2022
ポール・バニスター @pbannist 2022年2月3日
@r2rothenbergへの返信
真面目に書いたツイートだが、今読み返してみると、おかしな略語の羅列だ!
ランドール・ローゼンバーグ
@r2rothenberg
わかっている…ときどき、自分を抑えられなくなる。しかし、それは@opinion_joeが書いていたことのひとつの側面だ:GDPRは難解;難解な官僚機構を生み出した;彼らは企業に難解な回避策を求める;そして、問題が何であれ、解決されることはない。
2022年2月3日午前2時33分
複数の関係者は米DIGIDAYに対し、2018年以降にTCFを使って収集したすべてのデータを削除しなければならないのだろうかと、パブリッシャー同士で相談が始まったと述べている。その一方で、広告主は業界のウォールドガーデンにさらに広告費を集中させるのではないかと危惧する声も聞かれる。
パブリッシャーのオンラインマネタイズ戦略を支援するビーラーテック(Beeler.Tech)の創業者ロブ・ビーラー氏は米DIGIDAYの取材に対し、GDPRの大きな問題点は「ニュアンス」をあまり許容しないことだと語った。「問題は、プライバシーの概念は消費者にとって単純で、彼らはプライバシーを求めているが、(アドテクかどうかにかかわらず)企業にとっては複雑で、データを尊重しながら使用するのが難しいことだ」。
ID5のCEOを務めるマシュー・ロシュ氏はメールで取材に応じ、ベルギーのデータ保護当局APDによる裁定は必ずしもTCFの終わりを意味するものではないと述べている。ただ「プライバシーに対する姿勢が緩い」人々が締め出されるというだけだ。
「明確に禁止されたのは、『全世界での同意』を可能とするTCFの『バージョン1』だけだ」とロシュ氏は説明する。「この枠組み内で収集された個人情報はすべて削除しなければならない(中略)IABはそれを見越して、2021年9月、このバージョンを非推奨にしている。そのため、今回の裁定によって、多くのデータが影響を受けることはないだろう」。
ロシュ氏はさらに続ける。「これは正当な利益、そしてデフォルトで同意がチェックされている同意管理プラットフォーム(CMP)による『データ収集』がなくなり、なりすましを防ぐため、透明性のあるコンセントストリングを作成する方法がより安全になることなどを意味する。すべて私たちの一部が求めてきた改善だが、IABは支持者の一部を失いたくないため、TCFに組み込むことに消極的だった」。
[原文:IAB Tech Lab unveils new working group to tackle evolving consent frameworks]
RONAN SHIELDS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)