オンライン広告業界が新しいID(識別子)を探し求めている。インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)だけではなく、広告エージェンシーやパブリッシャー、アドテク企業の幹部らも、オンライン広告の未来を支えるためにメールアドレスや電話番号の利用に目を向けている。
オンライン広告業界が新しいID(識別子)を探し求めている。考えられる解決策のひとつが、メールアドレスと電話番号の利用だ。
IABテックラボ(IAB Tech Lab)は2月10日、カリフォルニア州パームスプリングスで開催されたインタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau: IAB)の年次リーダーシップミーティングで、メールアドレスや電話番号を利用した新しいIDを提案した。この新しいIDを利用すれば、サードパーティCookieより確実かつ一貫性のある方法でユーザーを識別できるという。
このようなファーストパーティデータをサードパーティCookieに代わって構築しようとしているのは、IABだけではない。広告エージェンシーやパブリッシャー、アドテク企業の幹部らも、オンライン広告の未来を支えるためにメールアドレスや電話番号の利用に目を向けている。FacebookやGoogleが大量の登録ユーザーを抱えることでオンライン広告市場を支配している姿を見てきた彼らは、メールアドレスや電話番号を利用したIDを、オープンWebがウォールドガーデンに対抗するための手段と見なしている。「必要なのは標準的なIDであり、それはメールアドレスを利用したものになる可能性が高い」と、あるアドテク企業幹部は話す。
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「登録ウォール」をめぐる議論
だが、業界が間違った方向に目を向けている可能性もある。ファーストパーティデータにCookieの代役を任せることが、オープンWeb全体にメリットをもたらすことはおそらくない。ハーツ&サイエンス(Hearts & Science)でメディアおよびデータ担当最高責任者を務めるミーガン・パリューカ氏は、「登録ユーザーを抱えているところが勝利を収める」と予測する。この場合、ファーストパーティデータを利用してIDを構築すると、「(十分な数の登録ユーザーを)持たない中規模パブリッシャーやロングテールのパブリッシャーがますます不利な状況になる」と、パリューカ氏は語った。
パブリッシャーが広告ビジネスを守るためにメールアドレスや電話番号の登録をユーザーに強制せざるを得なくなれば、いわゆる「登録ウォール」の向こう側に置かれるサイトが増え、登録ユーザーしかコンテンツにアクセスできなくなる。そのような状況は、登録ユーザーの獲得には役立つだろうが、一定のオーディエンスが失われる可能性もある。「登録ウォールを設置すればユーザーを失うことになると話すパブリッシャーもいる」と、SSP(サプライサイドプラットフォーム)を手がけるオープンX(OpenX)のCEO、ジョン・ジェントリー氏は語る。
中小規模のパブリッシャーでこうしたマイナスの影響が発生すれば、予期せぬ結果を招くことになるかもしれない。あるパブリッシャー幹部は、「アドネットワークが戻ってくる可能性はあるだろうか」と、仮の話としながらも真剣な口調でいう。
アドネットワーク復興の可能性
アドネットワークは、個人ブロガーを含む小規模なパブリッシャーが、自社サイトの広告インベントリー(在庫)をまとめてプールし、自分たちに代わって販売してもらう手段として誕生した。だが、最終的にはSSPが登場し、アドネットワークに取って代わった。SSPはパブリッシャーのサイトにサードパーティCookieを設置し、プログラムを使ってパブリッシャーのインベントリーをオークション経由でターゲット広告として販売している。
しかし、サードパーティCookieがなくなれば、メールアドレスや電話番号の収集が難しい小規模パブリッシャーたちは、アドネットワークのもとに再び結集することを余儀なくされるかもしれない。
「ロングテールのパブリッシャーが必要以上に大きな影響を受けるようになり、アドネットワークが復活して彼らを支援する可能性もある」と、あるSSPプロバイダーの幹部は話す。
パフォーマンス重視の広告主
もっとも、アドネットワークは広告主を惹きつけるのに苦労するかもしれない。広告主の広告が表示される場所について透明性の高い情報を提供できないことが多いからだ。ただし、このことが問題になるのは、広告の表示場所を気にかけるブランド広告主に限られるだろう。広告が購入やそのほかのコンバージョンイベント(ユーザーが広告主のサイトに訪問するなど)に結びついたかを気にするパフォーマンス重視の広告主にとっては問題ではない。「パフォーマンス重視のバイヤーがアドネットワークを再び利用するようになる可能性がある。彼らは透明性など気にしないからだ」と、先のSSP幹部は匿名を条件に語った。
一方、ある大手パブリッシャー幹部は、アドネットワークが復活する可能性を懸念している。パブリッシャーの収益の一部がアドネットワークに抜き取られる可能性があるからだ。広告バイヤーによっては、登録ユーザーを抱える大手パブリッシャーに予算をつぎ込むところもあれば、もっと安い価格で十分なパフォーマンスを提供してくれるアドネットワークに目をつけ、コスト削減のために彼らに予算を振り分けるところもあるだろう。「我々の業界は必要以上(のインベントリー)を購入しているのだ」と、この大手パブリッシャー幹部は語った。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)