10月第4週、数千ものAmazonセラーがアカウント停止のメールを受け取った。複数アカウントの同時使用を理由に、彼らは業務を凍結された。Amazonによれば、停止が解除までに最長90日かかる場合もあるという。セラーたちはTwitterなどで、「地獄の週末」に対する怒りや戸惑いなどの思いを次々に投稿した。
10月第4週の金曜の夜遅く、アニサ・ペイテル氏のもとにAmazonセラーサービスから素っ気ないメールが届いた。季節商品を販売している彼女のセラーアカウントを停止する、と書かれていた。ペイテル氏の主たるセラーページが、Amazonが定めるルールに反し、同氏の別アカウントと「関係がある」ことが疑われるため、とのことだった。
900万以上とも言われる、ほかのサードパーティセラーと同じく、収入の一部をAmazonに依存するペイテル氏は、言葉を失った。別のAmazonアカウントなど、あるはずもなかった。電話で問い合わせたところ、その違反アカウントに紐付けられているメールアドレスの最初の3文字が証拠だと、担当者に言われた。「ANI」――確かに、彼女の名前アニサ(Anisa)を縮めたものにも見えるが、それは間違いなく彼女のアドレスではなかった。犯人はどうやら、違反アカウントを探し回るが、見落としや誤解も多いAmazonのアルゴリズムであり、ペイテル氏と似たような名前のセラーを混同したらしかった。そして、彼女はいま、その犯してもいない罪の罰を受けている。
彼女だけではない。同時期に、数千ものセラーが同様のメールを受け取った。複数アカウントの同時使用を理由に、彼らは業務を凍結された。Amazonによれば、停止が解けるまでに最長90日かかる場合もある、とのことだった。セラーたちはFacebookやTwitter、LinkedIn(リンクトイン)、Reddit(レディット)に押し寄せ、いわく「地獄の週末」に対する怒りや戸惑いなど、痛切な思いを次々に投稿した。
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Amazonによるこの措置は、無論、荒唐無稽というわけではない。複数アカウントの所有を同社は以前から制限しており、時折、毎回少数ではあるが、併用を理由にアカウントの停止は実施していた。複数アカウントの使用をAmazonは阻害的悪用と見なしている。たとえば、あるセラーがアカウントを4つ所有しており、たとえ1つが閉鎖される、あるいは否定的な顧客レビューによる打撃を受けたとしても、別のアカウントを使えばいいだけの話だと軽く考えている場合、Amazonが課す、ほかのルールの許容範囲を確かめるために、あえて違反を犯すことも考えられるからだ(アカウント併用が許される場合もあるが、Amazonの定める条件に合致する必要がある)。この件についてAmazonに問い合わせたが、返答はなかった。
Amazon史上最大の大量停止
ただ、セラーアカウント停止に詳しい弁護士や専門家らは、今回の大量停止はAmazon史上最大の部類に属すると口々に語る。アカウントを停止されたセラーを支援する企業、トンプソン・アンド・ホルト(Thompson and Holt)を率いるクレイグ・ゲディ氏は、「この1年でもっとも忙しい週末だった」と、米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)に語った。とはいえ、今回の大量停止はいかにもAmazonらしいやり方だとも、ゲディ氏は付け加えて指摘する――同社がアルゴリズムをいじるたび、セラー勢は往々にしてあらかじめ何も知らされないまま、自身の生活が一夜にして凍結された事実をいきなり突きつけられるのだと。
アカウントを凍結されたペイテル氏も、途方に暮れた。彼女はAmazonで4年近く販売を続けており、停止通知を受けた時点まで、「どんな小さなルールも破ったことがなかった」。同氏のアカウントはほぼ完璧だった。「こんなことは、この4年で1度もなかったのに」。
しかも、最悪のタイミングだった。上記のとおり、ペイテル氏の店は主に季節商品を扱う――装飾品やコスチュームといったパーティグッズだ。バレンタインデーやハロウィン、感謝祭といった季節のイベントに合わせたものが中心であり、言うまでもなく、ハロウィンを目の前に控えた10月後半は1年のうちでもっとも多忙になる、はずだった。
ベイテル氏にはほかにも職があるが、Amazonアカウントが重要な収入源であることに変わりはない。通常、1日に100~1000件の注文を処理するという。「そのために何人か雇っているし、その人たちはまともに影響を受けることになる。申し訳ないが、いまは仕事がないのだと、伝えるしかない」。
少なくとも1500のセラーが被害に
10月第4週末にアカウントを停止したセラーの数について、Amazonの公式発表はまだないが、eコマースグループ、セラー・ユニオン(Seller Union)を率いるキカ・アンジェリック氏は、少なくとも1500のセラーがこの2重アカウント問題に巻き込まれたと見ている。
Amazonがなぜ、10月末に鉄槌を振るうと決めたのかは、定かでない。同社はコロナ禍発生以来、便乗値上げに関する取締りをはじめ、さまざまなルールの強化に取り組んできた。ただ、どんな理由だったにせよ、Amazonのアルゴリズムには重要とされるサードパーティセラーの生活を大きく左右する力があることが、今回の動きによって明確に示されたことは確かだ。
Amazonが簡素な警告メールを1通でも送っていれば、多くはアカウント停止を免れられたはずだ。たとえば、あるセラーは5年間、1度も触れていなかったアカウントを閉じるのを忘れていたために、Amazonから停止通告を受けたと、Redditに投稿している。その放置アカウントに関係していた会社は、5年前に破産しているという。
さらには、アカウントを復活させたくても、その方法に関する明確な回答を得るのさえ、ひと苦労だという。たとえば寝具ブランド、スウィーヴ(Sweave)のゼイン・シャザード氏は、何年も前にAmazonアカウントを開設したが、その直後に停止させられた。1年ほど粘ったが、明確な説明が得られなかったため、諦めて新しいアカウントを作ることにした。だが先週末、そのアカウントもまた止められた――それも、1度も使っていなかった、先の古いアカウントのせいで、である。「Amazonは基本的に、電話での問合せを受け付けていない。返ってくるのは自動メッセージだけだ。Amazonのなかにいる本物の人間と話ができたら、どんなにいいか」。
「人々の生活をもてあそんでいる」
アカウント停止ほどではないにせよ、Amazonのルール施行を取り巻く不透明性もまた、セラーの不満を大いに買っている。決断はすべてアルゴリズム任せであり、アカウントの復活に二の足を踏む請負業者が、結果的にそれを是認している。米・テック系ニュースサイト、ザ・ヴァージ(The Verge)によれば、復活させたアカウントが再停止されるようなことがあれば、その事実は同請負業者の「不利」になるからだ。
このシステムには明らかに不備があり、そのせいで一部のセラーと不誠実なAmazon社員とのあいだにおける賄賂の常態化も生じている。先月(9月)には連邦政府の調査が入り、6つのコンサルティング会社と元Amazon従業員がセラーとの不当取引の容疑で告発された。また、アカウント停止数が急増するなか、米・テック系ニュースサイト、リコード(Recode)によれば、問合せになかなか応じず、延々と待たせるのが常のAmazonを後にするセラーも現れはじめているという。
10月末、突然のアカウント停止を受けた数千もの人々もまた、毎度おなじみのカスタマーサービス放置状態にある。「こうなるのはAmazonだから仕方がないし、Amazonにはこれができると契約書には書いてある。けれど、警告も相手への配慮もなしに一方的に停止するのは、どう考えてもおかしい」と、ペイテル氏。「彼らがもてあそんでいるのはほかでもない、人々の生活そのものなのだから」。
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)