「 BOTANIST は、 D2C ブランドだという自覚はない 」:I-ne 足立光 氏、大西洋平 氏

「いまが絶好のチャンス」。そんな想いが伝わってきた。

国内のヘアケア領域では3本の指に入るD2Cブランド、「BOTANIST(ボタニスト)」などを展開するI-ne(アイエヌイー)。現在、同社は中国市場を中心に、グローバル事業を強化している。2019年6月には、元日本マクドナルド(McDonald’s Japan)で、現在はナイアンテック(Niantic)のアジア・パシフィック プロダクトマーケティング シニア・ディレクターを務める足立光氏を、社外取締役として招聘。シュワルツコフヘンケル(Schwarzkopf & Henkel K.K.)でアジア統括も経験した足立氏のグローバルな知見を活かし、「2022年までにグローバル比率30%」を実現するための、戦略構築を行うと発表した。

「昨今のグローバルな『J-Beauty(Japanese Beauty)』トレンドの波に乗り、BOTANIST以外のブランドも含め、さらなる拡大を目指したい」と、I-ne社長の大西洋平氏は意気込む。現在、同社売上のグローバル比率は、約10%。ここから大西氏と足立氏が舵取りするI-neは、どのような戦略でもって目標達成を実現しようとしているのか。DIGIDAY[日本版]では、直接おふたりに話を伺った。

――まずは、足立さん招聘の経緯と、ミッションを簡単に教えてください

大西:私が足立さんの著書『「劇薬」の仕事術』(ダイヤモンド社)を読んで、感銘を受けたことが大きなきっかけです。マクドナルドをV字回復に導いた実績も素晴らしいのですが、「ロジックだけで、人は動かない」という考えを非常に大事にされている点に、非常に共感を覚えました。その後、たまたま、足立さんと共通の友人がいたので、一度食事をセッティングし、社外取締役のお話をお願いしたところ、引き受けていただいたという経緯です。

足立:ヘアケア市場には現在、日系/外資問わず多くのビッグプレイヤーがいます。そんななかが、そこに迫る勢いでシェアを伸ばしているI-neやBOTANISTには、私も以前から注目していましたし、非常に期待をしています。

そんなI-neにおける私のミッションは、大きく4つです。1つ目はガバナンス。社外取締役として、第一に取り組まなければなりません。2つ目は海外展開に関する提言です。ヘンケルに在籍していたときは、アジアの責任者を務めたので、そのときの経験を活かして、何かできることはないかと思っています。3つ目は、BOTANISTの国内マーケティングのサポート。これまでのヘアケアも含めた、ビューティーケア領域での経験を活かせれば良いと思っています。そして4つ目は、企業が急激に拡大していくときの組織作りはどうあるべきか、アドバイスすることです。

――なるほど。まず、最優先は「海外」ということでしょうか?

大西:日本の市場は、人口だけでいうと間違いなく縮小していくのは明らかです。一説には、2050年には9000万人台まで人口が減少するともいわれています。そうなると、もはや国内だけで勝負し続けることは難しい。こうした状況を加味し、海外展開をスタートしたのが2015年ころ。BOTANISTを中心に、ヘアアイロンブランド「SALONIA(サロニア)」などは、いまもシェアを拡大し続けています。

そんななか、これまで以上にいま、我々が国外に目を向けているのは、昨今「J-Beauty」が、世界的に注目されつつあるからです。つい2~3年前は、「K-Beauty(Korean Beauty)」が世界的なトレンドで、アメリカやヨーロッパでも一定の人気を博していました。しかし、この1~2年で、トレンドは日本の商品に傾いてきています。この波にしっかりと乗り、ビジネスを大きくスケールさせたいと思ったのです。

――そんななか、やはり最大に注力するのは、中国ですか?

大西::BtoCでのEC化率は、日本は約6%ですが中国では15%超。キャッシュレス化も6割超え。特に昨今は、eコマースやOMO(Online Merges with Offline)といった領域が、日本と比べものにならないほど進んでいます。つまり、我々のように、オンラインからスタートしたブランドには、大きな可能性があると思ったのです。

また、中流階級といわれる層が、約4億人いるといわれています。加えて中国は、ヘアケアの習慣が日本とかなり近いため、その点においては比較的参入しやすいというのが理由です。

足立:比較的、日本と文化や慣習が近いアジア圏のなかでも、中国は市場規模がもっとも大きいため、はじめに注力するのは正しい判断でしょう。しかし、大きな可能性を秘めている一方、実は中国で成功した外資系企業は、非常に少ないという事実にも、目を向けなければなりません。片手間でやっていては、満足な結果を得ることはできないと思います。

なぜなら、中国は地域によって言語・民族・流通が非常に異なる、いわば「小国の集まり」だから。また、外資も含め、多くの競合がひしめき合っています。日本が「Jリーグ」だとすると、さしずめ中国は「ワールドカップ」といったところでしょうか。さらに、テクノロジーだけでなく、法律も含め、中国はさまざまな物事の変化が速い。多くの日本企業はそのスピードに付いていけないと思います。

――それらの課題に対しては、どのようなアプローチを?

大西:まずは、適切なリソースを中国市場に投下することに注力したいと思っています。足立さんがお話されたように、片手間ではなく、選択と集中をしっかり行わなければならないので。現状、特に不足しているのは、マネジメントの時間です。マネージャークラスの人間が、しっかり中国市場をどう攻略するか、時間を割けるような環境整備や、組織体制を作りたいと思っています。

足立:また、それと同時に採用も含めて、現地組織の構築も必要でしょう。やりとりを都度翻訳して、それを判断するようなスピード感では、追いつかないと思われます。

――日本国内の戦略は、今後どういった方向で?

大西:国内に関しては、これまで同様、BOTANISTとSALONIAを主力ブランドとして成長させていきたいと思っています。特にBOTANISTは、ヘアケアだけでなく、ボディケアやスキンケア商品を展開し、ライフスタイルブランドとして確立させたいですね。会社全体としても、この両ブランドをグローバルなメガブランドにしようというのが基本の戦略です。また一方で、我々独自の商品開発モデルを応用し、新しいブランドも立ち上げていきます。

足立:国内における戦略について、私が提言したいのは「ブランドをさらに強くすること」です。BOTANISTとSALONIAは、すでに国内で成功していますが、このブランドのコアを更に強化し、そこでの知見を必ずしもヘアケア領域ではない商品、市場、そして海外で横展開していくことで、再現性が生まれ、組織としての強みができてくると思います。

――D2Cブランドとして注目されているが、どう感じていますか?

大西:自分たちがD2Cブランドだという自覚は、正直ありません。確かに我々は、eコマースを中心にデジタルで大きく成長してきましたが、国内では現在、卸の方にも注力しているんです。デジタルで可能な限りの生活者にリーチし、あとはしっかり全国にも流通させて、デジタルで取りきれない生活者にも商品を提供する。こうしたやり方が、日本ではいま最適だと感じています。

重要なのはどんなお客さまに、どんなメッセージ・商品を届けたいか。コミュニケーションの仕方は、そこから逆算して、オンラインなのか、オフラインなのか、もしくはそのミックスなのかを決定すれば良いと思っています。

足立:D2Cは、何も新しい話ではありません。流通に関していえば、昔から生活者へダイレクトに商品を販売する企業はあったし、コミュニケーションに関しても同様です。あるのは、それがデジタルなのか、リアルだったかの違いだけです。最終的には、どんな商品やサービスを提供しているか、そこでしか競合との差は付かないでしょう。I-neが今後躍進するかどうかも、そこにかかっていると思います。

Written by KanMurakami
Photo by I-ne